『からくり民主主義』という2002年に発売された高橋秀実というノンフィクション作家のルポをまとめた本がある。発売直後に新聞か雑誌に掲載された誰かの書評を読み、すぐに本屋へと走った。それから20年が経ち、引っ越しをくり返すたび開かれる選抜戦に勝ち抜いた精鋭が残る我が家の本棚に、すっかり元の色を失った同本の背表紙が再び取り出される瞬間に備えている。
本の感想を端的に言えば、「偉大なる失敗作」。中身も確認せずレジに向かい、夢中で読み始めたにも関わらず、実は途中で断念した。率直に言うと読むに耐えなかった。しかし、それは著者の力量というより、著者が臨んだテーマそのものが文章など表現の世界とは相容れなかったのだと僕は理解した。
世界は単純ではない。ルポの現場に行き、可能な限りの先入観を捨て取材をすると、利害が複雑に絡み合い、あちらを立てればこちらが立たず、善も悪もない俗世間が広がっている。この「複雑さ」を忠実に同書で伝えようとした著者の試みは空転し、ただただ混沌だけを残した。
誰かのフィルターを通じた情報を見聞し、分かったつもりでいる浅はかさを学んだ記念碑として、僕はこの本を捨てられずにいる。


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