僕の好む店はよく無くなる。いや、無くなるような状態にある店を好んでいる、という言い方が適切かもしれない。
六本木ヒルズの中に「AGITO」というFranc Francが経営するインテリアや雑貨を扱うお店があった。また、中目黒や銀座等には同社の「BALS TOKYO」という同じ分野の店舗が存在し、一応「AGITO」がハイエンド、「BALS」がアッパーミドルとブランド分けをしていたようだが、置いてある商品はほとんど同じであった。
土日、暇さえあればいずれかの店を覗いていた。「いったい誰が買うの?」という尖り過ぎたセンスの、ン万、ン十万、時には百万超えの雑貨やインテリアが鳴り物入りで入荷され、その数ヶ月後には案の定売れ残った商品が半額は当たり前、7割、8割引という値段で投げ売られており、我々はそのおこぼれに与っていた。
六本木の「AGITO」が閉じ、間をおかず中目黒の「BALS」がブランドごと事業終了をしたと記憶している。
「コンランショップ」など同じような顧客ターゲットを持つお店は今も存在をしており、素敵な商品が並んではいるものの、品揃えに安定感があるが故に店に入っただけで心躍るような感覚にはなることはない。
コレド日本橋の4階にあった「Serendipity」も楽しいお店だった。ソニープラザの、いわば大人版ソニプラ的な新業態で、まだ日本市場に大きく出廻っていない商品を積極的に取り扱っていた。
2007年、日本へ帰国したばかりで、住まいの敷金礼金や家具家電の新調等でお金がないなか、セールで7万ほどの値札が付いたTROVATAというブランドのダッフルコートに一目惚れしてしまい、購入を決断するまで妻と上階のカフェで30分ほど「家族会議」を開いたのは、僅かながら上向いた今の経済力を思うと懐かしい思い出だ。広い店内の中心にダッフルを堂々と鎮座させていたTROVATAはさぞメジャーなのだろうと購入後ネットで調べたら、日本未進出のカリフォルニアにあるサーフスタイルの小さなメーカーだった。
そんな独自のセンスとアンテナでソニプラが挑んだ「新業態」は2004年のオープンから結局5年と持たず終了してしまった。
近年のお気に入りは京王プラザホテルで不定期で開かれる伊勢丹のクリアランスセールだ。人々の旺盛な購買欲で会場は常に蒸し暑い。メジャーブランドに集まる人だかりを横目に、僕は一角で細々と開かれている日本では全く無名のイタリア主体のヨーロッパブランドのコーナーへと進んでゆく。デザインにはひと工夫があり、かつ品質は抜群。定価はそのクオリティに見合う設定がされているものの、ほとんどの商品が半額で、それでも売りさばけないのか、いずれもフルサイズが揃っている。何よりセール品にも関わらず店員さんが熱を持ってその売り場にある商品の素晴らしさについて説明をしてくれるので服に対する理解が進む。
上述のお店に共通して僕がイメージしているのは、背後で活き活きと働いているバイヤーの姿だ。彼らの本領は既に人気の商品を仕入れることではなく、未来の金の鉱脈を見つけることである。異端を好まない日本の市場では期待通りにいかないことが殆どであるだろうなか、それでも会社は彼らに大きな裁量を与えていることが想像される。それは比較的大きな資本があるからこそできる博打、或いは死角となっており、一方で経営方針が変わり、バランスシートを詳細に見なければならない環境に陥ったときには一瞬で整理される対象であろう。
ビルの建て替えとともに閉店した日本橋のillyや丸の内のカフェサルバドルも贅沢な空間で、仕事帰り、バーのような気分でよく利用した。
終わりが最初から見えているわけではないものの、そういったお店に自然と足が向かうのは、徒桜だけが発する別様な匂いを嗅ぎ取っているのかもしれない。




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