第15話 黒マリアの謎(2023.10.1記)

【謎は深まるばかり】

1.書名・著者名等

田中 仁彦 (著)
『黒マリアの謎』
出版社 ‏ : ‎ 岩波書店
発売日 ‏ : ‎ 1993/9/28
単行本 ‏ : ‎ 236ページ

2.兎平亀作の意見です

フランス南部の山間地に伝わる、見るからに土俗的な「黒マリア」像。これは一体、何なのか?

父権主義的な教会から「黒マリア」は白眼視されていたらしいが、かく言う教会自身で(ロマネスク→ゴシックと時代を下るにつれ)どんどんマリア「崇敬」が前面に出て来る。
この大きな動きに「黒マリア」は影響を与えていたのか?いなかったのか?

一方で、オリエントの地母神(キュベレ、イシス、アルテミス)の、「黒マリア」への影響を指摘する研究者もいる。
だが、「直接的な影響を被った」と言うには、時代も場所も離れ過ぎている。

著者は「古代ガリヤのローカルな地母神信仰が、黒マリアの起源」との立場を取る。
「地下水脈のごとく生きつづけていたこの信仰が、教会も阻止できないような激しい流れとなって地表に噴出したのがゴシック信仰に他ならない」とも。(本書、p217)
それでも全ての謎が解けた訳では無いのである。

「書かれざる歴史は残らない。」

この黒マリアのケースもまた、この重い鉄則から外れるものではないように思われる。

謎は謎のままで良いではないか。本書は知的な謎解きの楽しさが十二分に味わえる良書であった。

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