第4章 神永未羅の場合 第49節 貴族の仕事

それから三日、「これが日本の山なの?」と言いたくなるような難路が続いた。
なるほど、ドラキュラ山・こうりゃくゲームのラスト・ステージだけのことはあるわ。

やがて、はるか頭上に石造りの城らしい物がボンヤリ見えて来た。
マーキュリー「みんな、ここからはせんとうモードに切りえてくれ。いきなりは来ないと思うが、用心にしたことはないから。」

「分かった」と言って、ザ・クラッシュは物かげにかくれた。
そしてプロレスのコスチュームに着替えて、全身、緑色になって帰ってきた。
体を一五〇%以上、ぼうちょうさせて。
マーキュリー「ほう。そりゃ変わった隠し芸だな。ちったあ強くなったのか?」
ザ・クラッシュ「試してみる? 言っとくけど私、プロレスの心得あるよ。」
マーキュリー「そうか。えんりょしとくよ。」
マーキュリーは苦笑いした。イケメンって得だな。ビビリでもサマになるもの。

マーキュリー「さあて、問題は‥‥、」
ニーナ「なんだよ、こっち見るなよ。」
ああ、やっぱり私は、いつものように無視か。
マーキュリー「おじょうさん、こっちのラバに乗り替えるんだ。これからはオレと二人乗りで行く。このラバは、まだ若いから、二人乗ってもだいじょうだ。」
ニーナ「自分のことくらい、自分で守れるよ。」
マーキュリー「みょうな意地、張らんでくれ。オレたちはチームだ。一心同体だ。背中を預ける以上、オレはお嬢さんに命も預ける。」
未羅みらがゲンナリした顔してる。おそらく私も、ああいう顔してるんだろうなあ。

私「ねえ、私には、なんにも、してくれないの?」
とうとう口に出して言ってしまった。マーキュリー、またも苦笑い。
マーキュリー「アンタが強いのは知ってる。強いのはいいが、痛しかゆしなんだよな、アンタ。三キロ先からでも殺気を放ってるんだから。」
傷つくね、その言い方。

エリザベート様「みなの者、聞け。」
さっきから、ずっとだまんでたエリザベート様が、いきなり口を開かれた。
エリザベート様「ここから先は、私独りで行く。マーキュリーは、ここできょてんぼうえいしておれ。」
マーキュリーは何も言わない。
目に不服も迷いも無い。
忠臣とは、こういう物か。番犬とは、こういう物か。
不満タラタラなのは私の方だった。

私「理由をお聞かせ願えませんか。私たちはチームです。一心同体です。」
エリザベート様、苦笑い。
エリザベート様「さすがはこうしょうじゅつたくみだな。ならば教えてやろう。あの山城にはな、助けてやりたい者どももおるのじゃ。下働きの半ドラキュラたちじゃ。言われたことを、言われた通りに、こなしているだけの者たちに、東方ドラキュラるいだいの責めを負わすはびんじゃ。説得して正しい道に、もどしてやろうと思う。さほどは血を吸われておらん者もおる。社会復帰は難しくなかろう。」

今度は未羅みらが黙っちゃった。
私が、でしゃばってやろう。
私「納得出来ませぬ。私たちとラスボス・ドラキュラたちは、ねことネズミの関係です。しかも、どちらが猫になるのか、まだ決まっておりませぬ。私はオモチャのようになぶられて、猫に食われるのは、まっぴらでございます。」
エリザベート様「ナマ情けをかけるなと申すか。せんとうしょうじょとは、みな、おまえのような考え方をするのか? だが、それは、ちがうぞ。貴族の仕事はなのじゃ。」

言うだけ言って、エリザベート様はラバで去った。
もう、見送るしかなかった。

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