「ガンマウォールの過去、現在、未来」その6)コンペ

◆試合があるからこその緊張感
 私は中学生のころテニスをしていた。小学校高学年では野球をしていたが、「ベンチ」か「ライトで8番か9番」のポジションをさまよっていて、試合ごとに出るのか出ないのか心理的に追い詰められるのが嫌だった。だから中学校ではチームスポーツをやめて個人スポーツであるテニスを選んだ。スポーツは地道な練習も楽しいし、大会にチャレンジして入賞するのも楽しい。そう思って育った。ただ、ボルダリングは30代から始めて、家族サービスや仕事から自分を解放する趣味として始めたので、若い猛者を相手にコンペで勝てると思わなかった。そして、ガンマウォールを開業する前、地元のクライマーさんから「熊本県のクライマーにコンペのニーズは無い」と教えてもらうことが多かったから、コンペを主催するということに現実感は無かった。

◆熊本におけるコンペ
ガンマウォールは2017年2月に開業して3か月はスタートダッシュで調子が良かったが、時間が経つにつれて目新しさもなくなり、勢いが落ちていった。熊本県内そして九州のクライマーさんに認めてもらうためには何をしたらよいのかということをルートセッターの徳永さんに相談した。徳永さんの答えは「コンペを主催して成功すること」だった。ただ、事前のリサーチで熊本のクライマーさんにコンペのニーズは無いことが明らかだったので、段階を追うことが必要だった。コンペが嫌がられる理由としては、まずはお金と時間がかかること、次に結果の公表が心理的にプレッシャーになること、という2点だった。そこで、最初は2週間のセルフジャッジコンペからスタートした。一般的なコンペでは審判がいて、その日に順位が公表される。しかし、セルフジャッジコンペは、審判は自分であり結果は2週間後とした。思ったより、参加してくれる人がいてうれしかった。

◆消費者目線でコンペを見直す
ガンマウォールで大切にしていることは、ユーザーの目線で何が求められているかを徹底的に考えることだ。「自分が何をやりたいか」という視点よりも「ユーザーは現状にどのような不満があり、それに対してどのようなことが出来るか」という視点を大事にしてきた。九州におけるコンペを見渡した時、一つ見えてきたのは「コンペでは、予選を勝ち残って決勝に出ないと、せっかく時間とお金を費やしたのにまともに登れない」という不満だった。そこで2017年9月に開催した初のコンペ「火の国カップ」は、参加費1500円で、2時間のセッション方式で、予選・決勝の区別なく登れた本数が多い人が勝ちとした。カテゴリーも年齢のみで分けた。決勝が無いのでドラマチックな展開にはならなかった。一方で、セッターが徳永さん、濱田さん、笠原さんと国体をセットする旬なメンバーだったこともあり、福岡県や宮崎県等県外クライマーも参加した。決して参加人数は多くなかったが、熊本県で新しいことを始められた感触はあった。国体をオーガナイズしている熊本県山岳連盟とのコラボもこの時から始まった。立場は違うけれども、熊本から優秀なクライマーを育てようという気持ちがつながったことは大事な一歩だった。

◆ガンマウォールカップを開催
その後、九州では福岡県を中心にコンペがトレンドとして増えて行った。ジムの数が増えて、コンペをやらないと売り上げが追いつかないという背景もあったのかもしれない。コンペのニーズが無いと言われていた熊本県からも他県にコンペの遠征に行くクライマーが増え始めた。また、クライミングパーク菊南がスクールを何年か続けた成果、コンペに真摯に取り組むユース層が形成されていった。コンペニーズの土壌が固まったのを確認して2019年1月13日に初のコンペ「ガンマウォールカップ」を開催した。オープンクラスを含めて九州中のクライマーが参加するコンペを成功させるためには、自分たちの経験値ではとても足りなかった。事前のプランニングから当日の運営までルートセッターの徳永さんと濱田さんが強力にバックアップをしてくれた。クライマーが予選で課題の前に並ばずたくさん登れることを優先事項とした。エリアを8エリアにわけ、15課題中11課題くらいが予選突破のラインになるような難易度にし、とにかく登りまくる構成にした。コンペに初参加の人も多く、オープンクラスの参加メンバーも多彩だったので、116人が参加したコンペは多いに盛り上がった。

◆ツアー式コンペへの取り組み
2019年は、福岡県で5つのジムがツアー形式のコンペであるLinkをスタートさせた。2018年にユーザーのニーズを超えて毎週のように福岡県でコンペが開催されていたことに対する一つの解決策であったと思う。私もスタッフもお客さんもLinkには参戦した。5ジムのスタッフや常連さんが仲良くチームで運営しているコンペは、参加している側として、すごく安心感があったし楽しかった。何とか熊本県でも、「草の根レベルでのつながりを作っていきたい」そう思わせる内容だった。
そこで2020年は熊本県の3ジム、ガンマウォール、クライミングパーク菊南、CLAMPの合同でツアー式コンペを開催することにした。コンペでいきなりルートセットをしてもチームワークに不安が残るので、初戦までに2回、集まってルートセットをしてお互いの価値観やコミュニケーションのすり合わせをした。2020年2月2日の初戦は開催できたたが、そのあとはコロナウィルスの流行でコンペの開催が社会的に厳しくなってしまった。せっかく3ジムのチームワークで動ける体制を作ってきたので、残りの2戦もいつかは実現させたいと思っている。
 純粋な外岩クライマーにとっては、コンペは「週末のセッション利用が出来なくなる」という意味で何のメリットもないかもしれない。しかし、スポーツクライミングにとってコンペはオリンピックを含めた一つの目標であり、そこでの感動があるからスポンサーもついてくるという現実がある。外岩クライマーのトレーニングの場としてのクライミングジムと、スポーツクライミングの目標としてのコンペ、欲張りかもしれないけれども両方しっかりやっていきたいと思っている(続く)。

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