「ガンマウォールの過去、現在、未来」その5)ルートセット

◆課題を作成するということ
 ボルダリングジムを運営していく上で、「課題の作成」はもっとも重要な業務だ。ボルダリングはホールドと言われる人工岩を手と足で登っていくスポーツであるが、使って良いホールドを限定してルートを作成する。使って良いホールドを限定することで、難易度や登り方を調整することが可能となり、ボルダリングは単なる筋トレよりもゲーム性のあるスポーツとなる。そのルートをボルダリングでは広く「課題を作成する」と言い、公式の大会では「ルートセットをする」という。ルートセットを専門の職業としている人を「ルートセッター」という。

◆ルートセットのスキル向上
 ガンマウォールは最初、私と高田君がスタッフだった。高田君は前職の小規模なジムでのルートセット経験があったが、私は経験が無かった。段階を追ってスキルを身につければよく、最初はお客様への接客サービスに集中しようと割り切ってスタートした。オープンのセットの賞味期限は2-3か月で、ゴールデンウィークの前に福岡のクライミングジム「スタンプクライミング」の徳永一也さんにルートセットのお願いをした。有名なルートセッターに仕事をお願いするときは緊張する。その業界のことを何も知らないわけだし、こっちが何も知らないことも明らかにするのは恥ずかしい。それでも「何でも気付いたところは容赦なく指導してください!」と言って継続的にルートセットをお願いした。徳永さんは、課題を作るスピードがとにかく速い。通常は一日8本から12本というのが平均的であるところ、多いときは20本以上作っていた。それから経験の浅いスタッフに難しいのは、緩傾斜面の課題だ。ムーブが似たものになりやすいし、リーチ感の調整が難しく、ネタが時間内に浮かばない。2017年ころから、ワールドカップ等のメジャーコンペでは、緩傾斜をバランシーに登る課題や、コーディネーションと言って飛んだり跳ねたりする課題が流行り始めていた。徳永さんにはそうした新しいトレンドに沿った課題も作ってもらった。

◆何だかんだ情熱が大事
 そして高田君や私も課題作成を始めた。高田君は熱い情熱をもって、かなりの準備と集中力をもってルートセットに取り組んでいた。核心となるムーブの独自性、強度、クライマーとしてワクワクするか、そんな要素を大事にしていたと思う。私は、そうしたクライマー本来のルートセットよりも、東京、名古屋、大阪など競争の激しいエリアの人気ジムで登って、ジムが競争力を持つうえで何が大事なのかを学び、それをできるだけガンマウォールにも取り入れようとした。

◆クライミングで食べていくには
 クライミングを職業として成功している人の多くは、①クライミングスキル、②コミュニケーションスキル、③ルートセットスキルの3つをバランスよく高次元で達成している人が多い。①クライミングスキルと②コミュニケーションスキルは、ある程度個人の才能やトレーニングで何とかなるけれども、③ルートセットのスキルは、それを向上させてくれる環境がないとなかなか難しい。ルートセットを「1日あたり8本~12本、ラインセットで核心ムーブやグレード感にバリエーションをつけて、中心的ユーザーが納得するものを提供すること」と定義した場合、そういったことが一人でできるようになるまで1年~2年はかかる。そうなる間までのコストはオーナーが何らかの形で払うことになるからだ。ガンマウォールではまず高田君が1年でルートセッターとして独り立ちできるようになり、その後、馬場君も2年でスキルを磨き、私と3人でチームを組んで、他ジムへの出張ルートセットも定期的に行けるようになった。

◆課題を作るカルチャーを残したい
 最近は、ルートセットのワークショップとして、自分たちで課題を作りながら、お客さんに4時間で2本のラインセット課題を作ってもらって、ルートセットがどんな作業なのか、何が面白いのか、何が難しいのかを一緒に感じてもらう機会を作っている。課題には作成者の意図が込められており、その意図を解明するプロセスがあるから楽しさが倍増する、そうした草の根運動が健全なコミュニティの育成に資することを信じている(続く)。

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