「ガンマウォールの過去、現在、未来」その9)コロナウィルスと向き合う

◆コロナで売上激減
 コロナウィルスの影響はもろに受けた。飲食店やライブハウスと同じくメディアが「スポーツジムはクラスターだ」と言ってしまった。医療関係など特定の業種のお客様は、会社から「行くな」という指示が出た。その結果、3月、4月と来客数が右肩下がりで落ち、休業していた4月中旬~5月の売上はゼロだった。最初、政府は消費者に「自粛」を要請するのみで、「自粛は要請するが補償は無い」という状況だった。なぜか、メディアは「夜の街」「ライブハウス」「パチンコ」「スポーツジム」を執拗にやり玉に挙げたので、やっている方からするとスポーツジムは「遊び」だから「不要」という価値判断のフィルターをかけられているように感じた。そんな精神的にストレスを抱えた状態で「そもそもクライミングジムは必要か?」「何のためにやっているのか?」「そもそも今後も顧客に求められているのか」そういった根源的な問いを自問自答する日々が続いた。

◆休業期間中
 オーナーである私は、休業期間中、ジムとスタッフを守るために経営者としてやるべきことをやった。銀行からの運転資金の借入、休業補償等公的助成の申請、広告費等の経費削減、売上が通常時の7割となる「7割経済」での事業計画作成と、実際のオペレーションへの落とし込みだ。そして、誰もいないジムで、時々一人で登ってみた。「人気のないジムでスタッフと自分一人しかいない環境」というのは客目線では「このジムつぶれないか?」と変に気をつかうので居心地が悪い。しかし、まったくの無人だと、自分のペースで自分が好きなように登れるから、それはそれで楽しい。大人が一人で好きなことを出来るというのは究極の贅沢だ。ということで、休業明けの上通店ではスタッフがいない「無人営業時間帯」を始めた。

◆自粛要請解除後
 自粛要請解除後は、私とスタッフで鞍岳(くらだけ、1118m)のハイキングに行った。日ごろからアスリートとしてトレーニングをしているスタッフとのハイキングは個人的にはかなりきつかったけど、すごく楽しい思い出になった。自然は人を選ばない。自分がどう向き合って乗り越えるか、それだけ。クライマー目線だと、外岩はボルダーの課題を登ることがメインで、アプローチはおまけで、きれいな川もおまけ。いったんクライミングというフィルターを外して、そのエリアの自然を最大限楽しむには何をしたら良いのか、何が必要なのか、そのようなことを考え始めた。

◆方針転換
 コロナというのは「不要不急の活動」をカットしてくる究極のリストラマシーンだ。コロナに直面して、熊本市という中堅地方都市で、東京や大阪の大都会を対象とする資本集約的なビジネスを展開することの限界を強制的に見直すことになった。熊本県に住んでいるメリットとして、外岩を含めて「アウトドアへのアクセスの良さ」があげられる。そこで、中堅地方都市に住みながら「自然で遊ぶ」と生活が楽しくなるという視点でビジネス全般を見直すことにした。昨今、キャンプが人気になっているのも同じベクトルだと思う。今までは熊本県でクライミングの楽しさを知ってもらうということが自社の一番の目標だったが、恵まれたアウトドア環境の中でお客様に地方での生活を満喫してもらう、それが新しい方針だ。(続く、次回最終回)

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