「ガンマウォールの過去、現在、未来」その8)分散型ネットワーク

◆東京型のビジネスモデル
 ガンマウォールを最初に熊本で始めたとき、東京や大阪にあるようなオールラウンドなジムを運営すれば、それなりに成功するだろう想定していた。広い店舗に、緩傾斜壁から強傾斜壁をバランス良く配置し、初心者向け課題から上級者向け課題までラインセットで100本程度用意する。ホールド替えは2-3か月に1回行って、何回かに一回は有名なゲストセッターを呼び、ホールドも最新の流行シェイプを買う。クライミングコンテンツを一つのジムに「集中」させるモデルだ。総論としては間違っていないと思うが、現実は甘くなかった。

◆熊本県でのリアル
一般的にボルダリングジムは人口30万人につき1つが望ましいと言われているところ、熊本市は人口が約80万人だから適正なジムの数は3個だ。ガンマウォールを開業するタイミングでジムの数は5個、ガンマウォールが2店舗出して、そのあとさらに2店舗増えたから計9店舗となった。ジムが増えたらクライマーが増えるはずだ。それなら、クライミングコンテンツがしっかりしていれば大丈夫だと思っていたが、そんなに単純ではなかった。ジムは増えたけれども3級以上を登って1-2級を目指すクライマーの数はそれほど増えなかった。いわゆる「3級の壁」(上達スピードが遅くなり一種のスランプに陥る)に直面して1-2年でボルダリングをやめる人は毎年一定数いるから、ジムは増えたけどパイは大きくならなかった。

◆シェア争いをやめる
そんな状況で、「何とかガンマウォールに来てもらおう」とシェア争いをするのではなく、新しくできる施設のお手伝いをすることにした。スポーツクライミングがオリンピック正式種目となって、地方公共団体や大企業がクライミング施設を新設する動きが活発化している。しかしながら、ハコモノ主導で民間のジムの何倍もお金をかけて施設をつくり、利用料はタダ同然なのに、誰も来ないジムというのが現実にある。そうならないよう、スタッフにクライミングスキルのレベルアップ、接客のトレーニング、安全管理の研修をして、ルートセットについては我々が責任をもって初中級者が楽しめる内容を作り上げる、そうしたボルダリング施設のサポート業務を始めた。

◆サポート業務を開始
上天草市にある観光案内施設「ミオカミーノ天草」のボルダリング施設はガンマウォールで全面的にバックアップをさせていただいた。昨今、コロナ禍のもとでも、熊本市外の日帰り観光スポットは人気があり、週末はお子様の利用でにぎわっているとのこと。つい先日も、会社の都合でクライミングジムに行くことが出来ないお客様のホームウォールのアレンジやルートセットのお手伝いをした。クライマー人口が少ない地方都市では、ジムに全てのクライミングコンテンツを集約させるよりも、クライミングを続ける意思を持っている施設運営者のサポートをするという「分散型クライミングネットワーク」の方が正しいのではないかと最近は感じている(続く)。

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