見出し画像

(9142)九州旅客鉄道 株主総会ルポ2023

2023年6月23日、JR九州の株主総会に参加したときのレポート。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

株式投資の魅力というのは、なにも金儲けや株主優待だけには留まらない。その数ある魅力のうちの一つに株主総会がある。
株主総会は、会社から株主向けに一年間の事業報告や決議事項の決議、それに関する質疑応答を行う場で、年に一回開催される(ほとんどの会社は6月)。

上記の字面だけをみるとなんだか小難しそうor参加のハードルが高そうに聞こえるかもしれないが、全くそんなことはなく、単元株(多くの会社は100株)さえ持っていればいかなる人も参加することができる。そのため、単なる事業報告のみならず、有象無象のいち平民が会社の経営トップと対話できる貴重な機会としても機能しているのである。

平日にもかかわらず大きく混雑する博多駅窓口。
上場以来こういった事象が頻発している。

それらを踏まえて、かねてからJR九州の経営に不満のあった高校時代の僕は、株主総会を通じて自分の意見を会社トップに聞かしめようと企んだ。
いかなる形であってもとりあえず自分の意見を表明することは、民主主義社会においてはなによりも重要なことだ。
大学入学直後の4月に、なけなしの小遣いと祖父からの貸付金で生意気にも100株を購入して以来、毎年のように福岡に出向いてはJR九州の株主総会に参加している。

ホテル日航福岡

JR九州の株主総会は、毎年6月23日にホテル日航福岡の3階、都久志の間という大広間で開催されるのが恒例である。ホテルの玄関前にはJR九州の職員のほか、ホテルマンや報道陣が一同集結しており、緊張感が漂っている。

ホテル日航福岡3階 手続きスペース

エスカレーターを3階まで登り、手続きを済ませて会場(都久志の間)に入る。

会場はシティホテルにふさわしい豪華絢爛な内装で、舞台には大きなスクリーンと会社役員(主に取締役)用の席、そして向かいには株主用の座席がざっと1000席近く用意されている。
株主の年齢層としては高齢者がメインだった。ほかにはパソコンを携えた投資会社(?)の社員と思われる人がちらほらいたが、少なくとも大学生らしき人を見かけることはなかった。まあこの日は平日だし、そもそも株主総会で社長に物申そうと思う物好き大学生自体が珍しいはずなので、当たり前といえば当たり前である。

しばらくして役員がそろって入場し、株主総会がスタートする。事業報告パートでは「DX化」「コスト削減」「構造改革」など聞き飽きた言葉が並ぶ。議案の紹介も含め、順調に進んでいった。

発言したい場合は色付きの紙を掲げながら挙手する。

それらが終わると質疑応答のパートへと入る。おそらく当日来場していた株主が最も楽しみにしていたであろうものだ(僕もそうだ)。
社長の「発言がある方は挙手をお願いします」との掛け声とともに、あちこちから一斉に手が挙がる。もちろん僕も手を挙げた。

そして社長が「ではまずはじめに3ブロックの青色の紙を持った方」と言う。トップバッターで指名されたラッキーパーソンは一体誰なのだろう、と周りを見渡してみると、どうやら僕らしい。まさか僕が一番最初に発言することになるとは。
とても軽やかとは言いがたい足取りでマイクへと向かい、緊張でやや声を震わせながら発言した内容は以下の通り。

Q
「去年にみどりの窓口を大幅に縮小して以来、各駅の混雑が目立っており、特に博多駅のそれは上場会社としてはあまりにもお粗末。代替として指定席券売機を増やすのは難しいとしても、チケットレスを導入するとかはできないのか。」

それに対する答えは以下の通り。

A
「各駅の混雑についてはご迷惑をおかけしている。今後指定席券売機は順次増設していく方針。チケットレスは西九州エリアでの実証実験のほか、EXサービスで導入済みだが、他線区への導入は勉強中で、検討していきたい。博多駅については券売機に並んでいる人への御用聞きというのもやっている。」

…なんとも煮え切らないというか、玉虫色感が否めない回答だが、最小単元の株数しか持っていない零細株主に対するものとしてはわりと誠実な方だろうか。

ほかの株主からの質問はおおむね以下の通り。会社からの回答は玉虫色で抽象的なものばかりだったので省略する。

  • 事前質問)2022年9月の減便や車両数の見直しが経営に悪影響を与えている恐れがある。社会インフラを維持する気はあるのか。

  • 鹿児島地域のMaaSについて。事業報告内で説明がなかったので説明してほしい。

  • レールが腐っていたり、草が生えていたりしているところがあり、線路の見てくれの安全が心配。

  • 熊本県菊陽町へのTSMC進出はJR九州にとってチャンス。収入に向けた取り組みをする予定はあるか。

  • 肥前浜駅の観光関係(簡易委託?)の株主から。ダイヤ改正以降とても困った。屋根のない階段の乗り換えが必要。乗り換えを肥前鹿島でやるか階段乗り換えを無くすかしてほしい。

  • 自己株買いについて。本当に行うのか行わないのか。行う場合の具体的な額など明示しろ。あまりにも不親切。

  • 811系は新製後30年経過し、経年劣化が進む。それによる故障や運休でご不便をおかけする可能性がある。車両を新造する可能性があるか。ゆふいんの森についても同様。

  • 無人駅の運賃逋脱とモラルハザードについて。

  • インバウンドの回復とジャパンレールパスの値上げがJR九州の経営に与えるインパクトについて。

  • 今後の駅の安全について。

  • 社員のマイカー通勤時の事故について。

…上記に挙げた通り、殆どが昨今のサービス低下と合理化についての質問で、半ばお客様センターのような様相を呈していたのだが、それほど各方面からJR九州への怒りが爆発しているということなのだろう。

しかしながら、株主総会にわざわざ出席して発言するような個人株主と機関投資家とは、利害関係が必ずしも一致しないことには注意が必要である
機関投資家は株価の上下や配当金を通じて利益を追求することを目的にした集団である。彼らが乗客の利便を犠牲にしてでも利益を追求する方針を取り続ける限りは、あくまで乗客の目線に立脚している株主たちの要望は残念ながら反故にされてしまうだろう。なぜなら、保有株式数がそのまま発言力へと直結するのが株式会社というものだからだ。

そういう意味で、我々零細株主は単なる要望のみならず、経営陣が想定していないような際どい質問を突っ込むことで、彼らに何かしらのショックを与えるべきだったのかもしれない。
いっぽうで、多くの人々に囲まれた中でそのような発言をするのはメンタル的に容易なことではない。来年もし再び参加することがあれば(就活があるが)、さらに用意周到に準備をしたいところである。

JR九州は、どう見ても身の丈に合わない無理な上場をしたとしか考えられず、近年のサービス低下などもそれを物語っている。今後会社がどのような経過を辿っていくかを引き続き注視していきたい。

(追記)
複数のサイトで今回の質問が紹介されていた。地道ながらもこうしてメディアに取り上げられることで、自分がした質問が決して意味のないものではなかったと感じることができた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?