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『The House in the Forest』のあらすじと感想



森の中を佇むプレイヤー。
辺りには小川が流れ、朽ちた橋と薄れたタイヤの跡で、かつては人の手が入っていたことがわかる。
プレイヤーの容姿はモデリングされておらず、台詞もなく、性別すらもわからない。

森の中を歩くと、大きな一軒家がある。その隣にはガラス張りの開放的な建物。誰かの自宅と事務所であるらしい。
二つの建物内を歩くと、そこここに何冊もの日記が置かれていた。
かつてここに住んでいた一家について記されていた。

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日記は、建築家の男性のものだ。
男性は自らデザインした家を森の中に建て、妻・娘・息子と共に引っ越してきた。
辺鄙な場所で、娘は転校を余儀なくされ、新しい学校への登校も一時間以上かかる。
家族は引っ越しに反対していたが、男性が強引に押し通した。
それでも家の造り自体は見事なもので、招いた上司にも感心され、男性は鼻高々だった。
上司は男性の仕事の腕を改めて評価し、次から次へと仕事が舞い込み忙しくなった。
息子が勉強を教えてほしいと言ってきても、男性は仕事を理由に断った。
とにかく稼ぐこと、それが男の生き様であり、いつか息子にも理解できる、と男性は思う。
息子が家に友達を連れてきたいと言った時、男性は拒んだ。
わんぱくな男の子たちでは、せっかくの家が荒らされかねないと危惧したのだった。
妻は、息子と遊んであげてほしいと言ってきた。
仕事に忙しいから無理だと男性は断った。

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いつしか男性は娘に避けられるようになった。
思春期だから、と理由づけてあまり気にしないようにした。
娘と最後に話したのがいつだったか思い出せなかった。
男性は仕事に励み続け、手掛けた家が賞を取り、一躍有名人となった。
多くの家を造り、多くの家族が男性の家で暮らしている。
「新しい家に住むようになって家族が仲良くなった」と言われ、男性は喜ぶ。

気づけば、娘は社会人となり一人暮らしをするようになっていた。
娘から直接知らされることはなく、男性は妻から聞いて知った。

息子は、将来ネットビジネスをしたいと言うようになった。
昔は男性のように建築家をしたいと言っていたが、「家族との時間を増やしたいから」とその道はやめたという。
「父」という存在は収入を得て家族を養うためのものなのに息子はわかっていないな、と男性は思う。
やがて息子は社会人となり、一人暮らしをするようになった。
「お父さんのようにはならない」
息子の最後の言葉が、男性には理解できなかった。

久しぶりに帰省した娘は、妊娠しており結婚すると宣言した。
男性は反対したが、娘は聞き入れずに去っていった。
「お父さんなんて小さい頃から何もしてくれなかったくせに」
そう娘は言い残した。
昔から家族のために働いているのに、と男性は怒った。

それから娘と息子は一度も家に帰ってこない。
妻は子供たちと時々電話をしており、二人とも元気ではあるらしい。
男性は精力的に働き続けたが、ある日突然リストラされた。
大丈夫だと妻は慰めてくれたが「俺には仕事しかないんだ」と男性は呆然とする。

転職先として事務の仕事を見つけた矢先、妻が亡くなった。
仕事をしている時にいつも珈琲をいれてくれた妻の姿を思い返す。
何よりも大事だった、もっと大切にしてあげられたはずなのに、そう男性は後悔する。
子供たちにも死を伝えなければいけないと思いつつも、連絡先すら知らなかった。
連絡したら「お父さんのせいだ」と言われるかも知れないが、そう怒られたほうがマシだと男性は思う。

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ここまでにある全ての日記を読むと、家の2階にある閉ざされていた部屋の前に鍵が出現する。
鍵を使って扉を開くと、どうやらそこは夫婦の寝室であったらしく、最後の日記が置かれている。
妻はやりくりしたお金を密かに自らの保険にかけており、妻の死で大量の保険金が支払われた。
「俺のために最後までこんなにしてくれたのに俺は何も返せてない。
 こんな大きな家と俺だけがここに残ってしまった。
 家族のために家を建てたのではなかったのか。
 俺は何のために家を建てていたのだろう。
 俺にはもう何もない。空っぽだ」
最後の日記を読み終えると、ゲームは終了する。

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プレイヤーは一体誰なのか。
「物語を追わせるためだけの存在で特に設定してない」というのも考えられるし、「一家がいなくなり放置された家を買い取ろうとしてる人or買い取った人」とも考えられる。
でも、一番いいのは「子供」だ。娘か息子。
日記だけだとこの物語は壮絶バッドエンドである。
仕事こそ男の本分と考えて家族を蔑ろにした男性が、仕事も家族も失う話。
でも、プレイヤーが娘か息子だと思うと受け止め方がちょっと変わる。
男性の方針は間違っていたが、けして家族に無関心なわけではなく、愛情はあったのだと日記を通して子供に知ってもらえたということになる。
そう思うとちょっとは救われるような気もする。

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基本的にはきれいなグラフィックのゲームだが家の中に草が生えていたり雑な部分がある、というレビューを見た。
あの草はバグではなく、手入れされておらず放置されている家、という表現なのだと解釈していた。
森の中の一軒家なんて人がいないとすぐ植物に食われてしまうから。
そのわりに謎の草など以外は家がきれいで、とても廃墟化しているようには見えない。廃墟風加工が大変だから制作者が諦めたのかな?と思った。
日記の内容を見るに、一家は子供が小学生ぐらいから独り立ちするまでは一緒に暮らしており、家は築20年弱ぐらいは経っているはず。そのわりに古びた家ではないし、あまりそこらへんこだわらなかったか、逆に見た目の美しさにこだわって敢えて無視したのか。
草が生えてるのがバグでも意図的でも、結局雑というのはその通りかもしれない。

プレイヤーは日記を書いた男性本人で、まだ住んでおり日記を読み返して自らの過去を回想しているだけ、という想像もできる。
草生えてるのがバグだと解釈すれば、別に空き家なわけじゃないかもしれないし。
うーん、でもそれだとなんで落ちてる鍵拾って寝室でエンドなんだろう。
やっぱり男性本人ではない別の誰かが、男性の思考を追っていく話という方が筋が通っているように思う。

金稼ぎに徹する父親というのはよくある話で、大抵の場合は子供が社会人になって稼ぐことの苦労を知って父に感謝、って展開になる。
だが、このゲームの父親は自分のこだわりで不便な山奥に引っ越させて子供に実害を与えているからなあ。
愛情はあったんよ、メンゴメンゴって言ってもな。
男性本人も仕事する上で不便そう。事務所はいわば書斎的なもので、普段は会社に通勤しているんだよな?
山折りてすぐに会社があるんでもなければ、大変そうだ。

1.男性、後悔しながら孤独に死亡→子供が家の処理をしにくる→日記見て思いを知る
2.男性、老いたので便利な場所へ引っ越す(もしかして許されて子供に引き取られたとかかも)→子供が家の処理をしにくる→日記見て思いを知る
このどちらかじゃないかなーと思う。
あまり思考せずになんとなく浮かんだ全体像は1なのだが、2の方が救いがある。


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