TRAKTORにできてrekordboxにできないいくつかのこと

「あなたがrekordboxを買わずにTRAKTORを買うべきいくつかの理由」というタイトルの方がキャッチーだろうとも考えましたが、まあ、買うべきでないとも断言できないので、いささかマイルドな表現に置き換えました。

TRAKTORのオーディオインターフェイスであるAudio 4の調子が悪くなってきた気がする?のを契機に、ソフトウェアごと乗り換えるつもりでPioneerのINTERFACE 2を購入しました。

いざ、rekordboxを触ってみたところ、TRAKTORとの違いが分かってきたのですが、「あれ?TRAKTORの方がよくない?」というところも見えてきたので、そのあたりをまとめておいて、皆さんの参考にしてもらえればと。

ただ、あくまでも「DVS(Digital Vinyl System)」として使ったときの比較です。私はDJコントローラは使わない(でかくて運ぶの大変だし、置けるスペースがある箱ばっかりじゃないし、他のDJとの転換も大変だから)ので、そういう観点からは見てません。余談ですが、PCDJの進化のベクトルが、より複雑な機能に特化したDJコントローラというマッチョな方向にばかり向いている気がするのは、小箱メインでやっている古参としてはやや寂しいというか違和感がありますね。

当たり前なんですが、世の中のrekordbox紹介記事の大半が、それを売ってるお店のブログだったりするので、他のDJソフトウェアとのリアルな比較については避けられてるなと感じました。
その辺も感じ取ってもらえれば幸いです。

比較に使用しているソフトウェアのバージョンは、下記の通りです。
多少古いバージョンですがご容赦ください。
rekordbox dvs:5.0.3(2017年12月リリース)
TRAKTOR PRO:2.10.3(最新は2017年12月リリースの2.11.2)

1.フォルダに対するショートカットが作れない

TRAKTORでは、Music Folderの登録、ショートカットの登録(トラックリストの上部に10個並べられるアレ)の2通りでフォルダへのショートカットを作ることができますが、rekordboxにはどちらも用意されていません。

(TRAKTORのMusic Folder設定画面)

rekordboxがショートカットとして登録できるのはプレイリストだけです。そのため、基本的には事前にプレイリストを用意してあることが前提になります。(TRAKTORもプレイリストへのショートカットは作成できます)
rekordboxでは、コレクション(登録済みの全曲リスト)、iTunesと、後はこのプレイリストから選曲してデッキに載せる形になります。もちろんFile Explorerはあるので、フォルダから選曲することもできますが、ドライブのルートから選択していく形になりますので手数はかかります。曲を購入したら、まずは何らかのプレイリストに追加する、ということを習慣づけておく必要があります。

2.デッキの表示情報のカスタマイズができない

まずはrekordboxのデッキです。

好みはあると思いますが、トラック名やアーティスト名は上部、BPMや時間情報は右側に、と分散して配置されています。文字がやたら小さいのも個人的には気になります。

TRAKTORではデッキ上の一箇所にトラックの様々な情報が集約されており、これらの表示情報を自由にカスタマイズすることができます。

(TRAKTORのデッキ表示)

3×3の表示領域の好きな箇所に好きな情報を割り当てることができますので、かなり自由度が高いです。

(上記の表示のカスタマイズ例)

現在のBPMに加えて、元のBPMや、レーベル名、コメントなど、ファイルリストに表示させられるものはほぼ表示させることができます。ちなみに、rekordboxではトラックの(ピッチを変更する前の)元のBPMを表示する機能はありません。

3.デッキレイアウトのプリセット保存ができない

rekordboxでは、画面のデッキレイアウトは、2deck/4deck、Vertical/Horizontalの組み合わせで4種類+楽曲選択用のBrowseをあわせた5種類で固定になっており、それをベースに、ミキサー、エフェクト等の機能表示のON/OFFを選択する形になっています。

(5種類のベースレイアウト+4種類の表示ON/OFF機能)

それに対して、TRAKTORのデッキレイアウトはかなり自由度が高く、組み合わせが膨大なため、自分好みに設定したデッキレイアウトを保存する機能と、それらを簡単に切り替える機能が備わっています。

(TRAKTORのデッキレイアウト設定画面)

TRAKTORには「リミックスデッキ」という簡易サンプラー的なデッキが使用でき、4デッキそれぞれにどのスタイルのデッキを使用するかを選択できます。他にも、ピッチフェーダーをデッキごとにON/OFFしたり、細かな表示設定があります。

(TRAKTORのレイアウト保存画面)

カスタマイズしたレイアウトは名前をつけて保存することができます。画像の一番下にある「Internal」というのは、私がカスタマイズしたレイアウトです。それ以外はTRAKTORインストール時にプリセットで用意されたレイアウトです。

普段はコントロールCDを使ったDVSに適したレイアウトでプレイしていますが、たまにDJ機材がないレストランや野外などの現場でDJしたりすることもあるため、ソフトウェア内でミキシングを完結させるためのレイアウトも別で保存しています。これらが2クリックで切り替えができるのはとても助かります。自宅で事前に選曲するときもこのレイアウトを使用しています。

4.その他いろいろと

・ピッチベンドしている間、画面上に何の反応もない
TRAKTORではピッチベンド中はボタンが反転表示される他、BPMやテンポ表示も合わせて反応がありますが、rekordboxはそれらのどれにも反応がなく、ちゃんと効いているのかは耳で判断するしかありません。

・DVSモード(ABSOLUTE・RELATIVE)のときにビートグリッドの編集ができない
TRAKTORでは、再生トリガーを「INTERNAL PLAYBACK」と「SCRATCH CONTROL」から選択可能です。前者はマウス・キーボード操作での再生操作、後者はコントロールCD・VINYLによる再生操作となりますが、後者でもマウス・キーボードによる再生操作は可能ですし、ビートグリッド編集も可能です。

rekordboxでは、「INT(INTERNAL)」モード、「REL(RELATIVE)」モード、「ABS(ABSOLUTE)」モードの3つのモードがあり、そのうち後者ふたつはDVSモードとなります。このうちINTモード以外のときは、ビートグリッド編集ができませんし、マウスによる再生操作もできません。そのため、DJをやりながらその場でビートグリッドを編集する、という操作が非常に手間になります。操作が完全に分離されているため、間違いは少ないとは思いますが、利便性には欠けると思います。

(INTモード以外では操作ボタンがすべてグレーアウトされる)

まとめ

rekordboxの方も、実際に現場でDVSによるプレイをおこなう際にはほとんど不便を感じることはありませんでしたが、総じて言えることとして、

・TRAKTORはある程度ゆるい準備でのアドリブ中心のプレイでも融通が効くが、rekordboxは現場に出る前にビートグリッドやトラックリストなどかなりかっちりとした準備が必要
・TRAKTORは細かいところまでカスタマイズして自分のプレイパフォーマンスを最適化したいギーク系DJ向けで、rekordboxはカスタマイズなどはスキップして、他の人と同じように手軽に使いたいカジュアルDJ向け

という印象でした。

私自身は、アナログレコード時代からDJをやっているというのもあり、現場の空気にある程度委ねるため準備自体はそこまでかっちりはやりませんが、カスタマイズはしっかりやりたい、ということでTRAKTORが合っていると思いました。

もちろん、rekordboxの方がTRAKTORよりも使いやすい点もあるかとは思います。特に、(私は使ったことはないですが)Pioneer製品との相性は唯一無二だと思いますので、ここ最近はほとんどのクラブでPioneerの機材がデファクトスタンダードとして使われている現状では、トラブルへのリスクが少ないという点はそれなりのアドバンテージだと思います。また、現状ではまだTRAKTOR一択だとは思うものの、更新頻度がTRAKTORと比較しても非常に多いというので、今後は状況も変わるかもしれません。

というわけで、TRAKTORに慣れている自分が感じた違和感を一通り挙げてみました。初めてPCDJを始めるという方(後は、現在SeratoのScratch Liveを使っている方)は、おそらくrekordboxを使い始めても特に違和感は感じないかもしれません。ある程度使い込んでみないとわからないことだとは思いますが、何らかの参考になれば幸いです。

※rekordbox勢の方からのツッコミ歓迎です。
TRAKTORとは明らかに思想やワークフローが違うと思いますので、こういう使い方をしている、という体験談は特にお待ちしております。

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