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正座で詰められる話HARD“音霊魂子”

魂子は激怒した。必ず、かの、じゃ…?……ぼう……(なんて読むのこれ……?ふりがなちゃんと入れてよ……)の浮気者を懲らしめねばならぬと決意した。

※邪智暴虐…じゃちぼうぎゃく。悪いことに知識がよく働き、乱暴な行動で人々を苦しめること。勿論この場合適切な使い方では無い。

「ねえ、私、そういうの嫌だって前に言ったよね?」

腕を組み、中指で肘を叩きながら、音霊魂子はそう言った。


仮眠室で眠りこけていた俺を音霊さんが叩き起こした。
状況が把握できないままにろくに服も着せてもらえず、健康マットの上に正座させられ、結束バンドで後ろ手に縛られたのがほんの数分前のこと。

「ごめん。正直頭がちゃんと起きてなくてなんて言ったのかわかってないんだ。もう一度言ってもらえないかな」

この一言は音霊さんの逆鱗に触れたらしい。

「お前が!浮気してるって言ってんだよ!」

ドスの効いた声で音霊さんはそう言う。こういう普段とは違う音霊さんの声もいいものである。

ともかく、勿論浮気なんぞしてはいない。
そもそも付き合ってもいないのである。

「してないよ?」

なにかの勘違いだろう。軽くそう答える。

「前に私以外の女、全部ブロックしてって言ったよね?」

音霊さんは俺のスマホを操作すると俺に画面を見せた。なんでパスワード知ってるんですかね?まあパスワード音霊さんの誕生日なんですけど。

音霊魂子、石狩あかり、大代真白、山黒音玄、栗駒こまる、千代浦蝶美、我部りえる―――。そこにはあおぎり高校のメンバー7人の名前。あとは自分の母親と、校長含む先輩方の連絡先…あとは数名の友人位しか登録されていない。

「前にも言ったろ?それは無理だって」

俺の仕事はいわゆる雑用係。メンバーの補佐も重要な仕事だ。連絡先を知らなくては話にならない。確かに一昨日自分以外全部ブロックしろと言われた記憶はある。そんなの無理だとすぐに断ったはずだけど。

「もし全ブロックなんてしたらすぐにクビになっちゃうよ」

「でもブロックしてないとキミすぐに浮気するじゃん!」

「だからしてないって」

「ふぅん?じゃあ昨日なにしてた?」

俺は昨日あったことを思い返していた。

「朝は…と、もう昼だったか。起きてすぐ銭湯に行ったな」

一昨日の明け方まで仕事をしていて、シャワーを浴びることもできず、気がついたらデスクで寝落ちていた。起きてすぐ時計をみると15時を少し回ったところ。銭湯の開く時間で、こりゃいいわと近場の銭湯に行ったところ、ばったりと大代さんに出会った。
そのまま帰りにコンビニでジュースを奢ったんだったっけ。
そのかわりか大代さんは何故かメンマとポケットティッシュをくれた。

「そう、銭湯に行ったらしいね。昨日真白から聞いた」

「丁度銭湯出るところでバッタリと大代さんに会ってね」

「へえ?偶然行った銭湯で偶然会った真白と偶然仲睦まじくコンビニ行って……?」

「うん。仲睦まじくは無いけどな」

「そんなわけないだろ!!!待ち合わせてたんでしょ!!銭湯デート大変よろしいですね!!一昨日の夜も真白と何してたんだか!!石鹸の香りがする真白と仲睦まじくコンビニで買い物!?良かったですねこの浮気者!!!」

「それはともかく冷蔵庫にメンマ入ってるから食べたい時に食べてね」

「えっホント?わーい!」

相変わらず心配になるくらいチョロい。

「……」

「……はっ!?そ、そんなことで誤魔化されないっ!!」

めっちゃ誤魔化せてたけどなあ。
いや、そもそも誤魔化す様なことしてないんですけどね。

「コホン……まだまだ証拠はあるんだよ!昨日コンビニから帰って事務所に戻った後、どこに行った!」

わざとらしく咳払いをする音霊さんがすごく可愛かった。

「んー、確か我部さん人身事故で電車止まっちゃって収録遅れそうだって連絡あったから迎えに行ったけど」

我部さんはあおぎりに来る前個人でやっていたからか、こういう連絡は必ずしてくれる。しっかりしてるなあといつも感心することしきりだ。

「今度はがぶせんとドライブデート?」

ヤレヤレと音霊さんが首を振る。

「あれがドライブデートならいつも俺が音霊さん家に送るのなんなんだよ」

「私はいつもあれはデートだと思っちょるよ」

ちょっと顔を赤らめつつ音霊さんがそう言った。

……なんなんですかねこの可愛い生き物。

「と、ともあれ!途中で千代浦さん拾ってスタジオに向かったしデートとかそういうのでは断じて無い!」

「必死になって否定するところがますます怪しいなあー?本当は3人で楽しくドライブデートしてたんじゃないの?」

ニヨニヨとしながらそんな事を言う音霊さん。完全にからかわれてる。なるほど、そちらがその気なら。

「はぁ、仕方ないか。バレたなら仕方ない。実は俺、りえるさんと付き合ってるんだ」 

「えっ?」

「昨日も楽しいドライブデートだったよ。実は人身事故の影響で遅刻しそうってのがデートお誘いの合言葉でさ、これまでも何度もそうやって人知れずデートを……」


「う、嘘だよね???」

「うん嘘」


「嫌だよ?君が誰か他の人と付き合うとか絶対に嫌だよ?君は私のものなんだからそんなのは絶対に駄」

「いやだから嘘なんだって」

「えっ、嘘……?……はぁぁぁぁぁぁ良かったぁぁぁぁ……!」

音霊さんは心底安心したように盛大にため息をついた。そんなに心配ならそういう事、端から言わなければいいのにとは思うがそういう音霊さんも大変魅力的なので捨てがたいものがある。 

「………さ、さて。昨日石狩とカラオケに行ったってきいてるんだけど?」

「ん?ああ栗駒さんが石狩さんと行く時巻き込まれた奴か」

「………おこまも居たの?」

あ、なんか地雷踏んだっぽい。けどあれはなあ。

「ああ居たよ。石狩さんが本気で助けを求めてきてな……」

「あー……」

「石狩さんに縋るような目で助け求められるとは思わなかった」

「なにやろうとしてんだあいつ……」

「あの怯えた石狩さんは一見の価値あると思う」

「なにそれみたい」

色々あったのである。石狩さんの尊厳の問題になる為多くを語ることは出来ないが。

「まさかとは思うけど君、おこまと…」

「俺が栗駒さんとどうとかあると思うのか」

「そうだね、ないか…」

栗駒さんも優しくていい子なんだ。
俺が彼女を少し苦手なだけなんだ。

「あと昨日やった事と言えば……」

「ああそうだった!!君が浮気したって裏は取ってるんだよ!昨日ねくろちの家に行ったよな!」

「うん」

「なんで君がねくろちの家で料理作ってるの!?」

若干ヒステリック気味に音霊さんは言った。

「いや山黒さん、食生活が本気でヤバかったからさ……」

昨日収録に来た山黒さんはフラフラとした足取りで現場に来た。
聞くとちょっとヤバい――続けると確実に身体を壊す様な食生活だった。
出前を頼んでとりあえずは人心地ついたものの、こんな生活続けていては確実に身体を壊す。現に少し味覚障害になりかけていた。
出前やインスタント、低価格で作る料理を雑に作ると味覚障害になりやすいのだ。味覚障害は亜鉛不足が原因な事が多いので、きちんと煮干しで出汁をとった味噌汁など飲んでおけば割と防げるのだ。皆亜鉛は取ろうな。風邪の予防にもいいぞ。

というか音霊さんも大概食生活はやばいのだ。ほっておいたら一日1食ラーメンのみとか夜遅くにラーメン大量に食べるとか朝からラーメン食べるとかやりかねない。いやどれもやってたな、この子。実際に。

「ちょっと簡単に作れるレシピ教えて実践しただけだよ」

「それ!私も……私にも……!」

「音霊さんのご飯作るのは俺の役目だから。」

「くう……手強い」

しれっと言う。
おい、ニヤけてるの隠せてねえぞ。

最近、音霊さんの食事は大体俺が作っている。
メンバーの健康維持も大事な仕事だからな。石狩さん辺りも結構食生活やばいらしいからその辺もなんとかしないとなあ。その前に心のケアが必要か…。

「あっ、いややっぱり今度料理教える」

「えっ」

ふと思いついた。

「俺は毎日……可能な限り音霊さんの作ったもの食べて生きていきたいからな。俺と結婚を前提に付き合って欲しい」

割とドストレートな告白である。
俺が半裸で健康マットの上に正座させられて拘束されてるなんて言うのを除けば。


「え」

音霊さんは顔を真っ赤にしてフリーズする。
その姿は大変可愛らしく、ずっと見ていたいのは山々なのだが、健康マットの上で正座しているため足が、おもに弁慶の泣き所が悲鳴を上げてる。健康マットのイボイボが弁慶の泣き所を責めている。物凄く痛い。一刻も早く立ち上がりたい。

その時ガタリと音が鳴った。

「あっやっべ」

「!!?」

音が鳴った方に振り向く音霊さん。

あータイムアップか。
実はずっと気がついていた。
栗駒さんがずっとドアの隙間から動画を撮影していたことを。
大代さんがニヤニヤしながら覗いていたのを。
……なんで我部さんと山黒さん優雅に紅茶飲んでるんですかね。
あと千代浦さん、石狩さん慰めたげて。お願いします。

そうなのである。ここは仮眠室。あおぎり高校の事務所なのである。
しかも今日はミーティングの為メンバー全員が集まることとなっていた。

「あー……魂子先輩、彼氏とイチャつくのは構わないんですけど場所選んでもらえると……」

申し訳なさそうに大代さんが……いやこれ違うな。ニヤニヤしてやがる。

「彼氏じゃないんだなこれが」

「は?こんな特殊なプレイしてて?」

プレイって言うな。

「俺は何回も告白してるんだけどね。そのたびになんだかんだ音霊さん逃げるから」

「マジかこの女……」

「先輩……」

「えぇ……魂子……」

「魂子先輩……」

「たまこ先輩……」

「たみゃこ……」

残念なものを見るような目付きでメンバー達が音霊さんを見る。

「いっ…嫌あああああ!!!」

音霊さんはそう叫ぶと仮眠室を飛び出した。
が、しかし飛び出して直ぐ何かにぶつかった。

「おい音霊。いつもいつもイチャつくんはいいけどあんまり周りに迷惑かけるなよ」

校長である。まあそら聞こえてるよね。事務所壁薄いしなあ。
えっ、なんで音霊さん驚いた顔してるの?
もしかしてずっと聞かれてないと思ってた?

「~~~~~~~~!!」

声にならない声を上げ、魂子はひどく赤面した。



💜あとがきと言う名の言い訳☪︎
なにをもってHARDというのか。強いて言うなら石狩さんの状況?
同僚が書類の隅に走り描きした涙目の石狩さんが妙に可愛かったんだ。
だから僕は悪くない。
一応前作より前の時間軸想定で書いてます。
自分で書いといてなんやけどなんなんやこの話……。

でもただの送迎を毎回ドライブデートだとウキウキして楽しんでるたまちゃんとかクッソ可愛いと思う。

今回挿絵をゲーム画面風にしてみました。
まあゲーム画面風っていうか実際ゲームとして作って画像撮ってるんですが。
挿絵の作り方としてかなり無駄な方法だと思う。
でもわざわざそうやって作った割にこれなんか画面とっちらかってる気がするんだよなあ。いろいろ試そう。

なんにせよこれを読んで少しでも楽しんでもらえたならば幸いです。

それでは、また。


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