正座で詰められる話“大代真白”

「……」

俺はもうどれくらいの時間正座でこんなところに座らされているのだろうか。
涙目の真白はその間ずっと悲しそうな顔でこちらを見ていた。

「ねえ」
「はい」
「昨日のことについて、弁明は?」
「弁明って言われても……」
「はぁ……」

ため息を吐く真白。どっちかって言うとため息吐きたいのはこっちの方なんだが。
思えばこいつとの腐れ縁ももう何年になるのだろうか。中学の時こいつがうちの部に入ってきてからだから――。
なんにせよ、あれからこいつ妙に懐かれて、今こうやって同じ職場で働くまでになっている。
あの時久しぶりにあった真白に、今VTuberやってるからちょっと手伝ってなんて言われて早数ヶ月。
トントン拍子に話は進み、職を辞して、この業界に飛び込んだ。
道を間違ってしまった感は否めないがまあやるだけやってみようとは思っている。

「昨日のミーティング、なんで私の味方してくれなかったの?」
「おしがまとか浣腸やりたいとか言われても止めるに決まってんだろうが」

昨日のミーティング、真白は新たな企画を出してきた。おしがまと浣腸を全面に出した企画である。実現すれば確かに面白いであろう。だが許可できるわけもなかった。そもそもそんなもん全面におすな。あとその企画にほかのメンバーや他の箱の人を巻き込むな。比喩でも何でもなく、音霊さんとか我部さん、本気で嫌がってただろ。

「あなた前に言ってたじゃない!“大代真白はね、やりたい事に我慢なんてしないんだよ。おしがまもするし、浣腸もするし、やる事全部がめちゃくちゃじゃなきゃいけないの”って!」
「言ってねえよ。なんだよその厄介ドナー。」
「本当の厄介ドナーってのはね、欲望を抑えたりしないんだよ。私で抜」
「おーけー、それ以上は止めとこう。真白が今あの漫画にハマってるのはよーくわかった」
「全話初回無料だったからつい……」

余程気に入っているのか真白のスマホにはその漫画のマスコットキャラクターとでも言うべき犬?のストラップがぶら下がっている。きっと栗駒さん辺りにすすめられてハマったんだろう。

「まあ真面目な話な、おしがまとか浣腸。許可できるわけ無いだろ」
「なんでよ!」
「小さい子真似したらどうすんだ」
「大丈夫!あおぎり観てるのなんて基本おっさんか馬鹿な男子学生だから!」
「自分で言うてて悲しくならんか……?」
「……うう」

「というかさ、誰かが真似しないようにってのは確かにあるんだけど、第一はそういう理由じゃなくって。もし、真白がそれやって、体調崩したらどうするんだよ。体調崩した場合ドナーの人達がどれだけ悲しむと思ってる?あの人らいつもコメントであんなだけど君のことどんだけ好きか分かってんのか?」
「……うー」
「うー、じゃありません。ちゃんと反省するように」

不満そうに真白は唸った。まあこれは仕方ない。万全の準備を整えてやるのならともかく……いやそれもどうかとは思うが。面白ければ何でもOKにも限度がある。

「それはさておき」
「さておくのか」
「昨日の帰りの話です」
「はい」

「半分寝てたねくろちと魂子先輩をタクシーに運びましたね」
「はい運びました。そのあと我部さんに無事2人とも家に送り届けてもらいました。」
「その時魂子先輩を背負って運んで、ねくろちはお姫様だっこしてタクシーに運びましたね?」
「はい、そうですね」
「なんで私はそこにいなかった!!寝ぼけたねくろちとか絶対可愛いじゃない!なんで私に運ばせない!!セクハラだセクハラ!!大体あの二人のパイオツは私のもんだ!!!」
「違ぇよ。二人の胸は二人自身のもんだよ。あれちゃんと二人に確認はとったからな。大体その時君に手伝ってって声掛けたけど栗駒さんとなんかしてたじゃねえか。見かねた千代浦さんと我部さんが手伝ってくれたんだぞ」
「くっそ……モデルで上手く事後写メ撮る遊びなんてしなけりゃよかった……爛れた感じが上手く出せなくて何度もやり直さなければよかった」
「本当に何してんだ」
「だってどこまで爛れた感じのギリギリのエロさを演じることが出来るのか気にならない?モデルを弄って画像作るんじゃなくて実際動いてどこまでのものが作れるのか!」
「その向上心は認めるがな………。気にはならねえよ。こないだも女性が下着を毎日変えないのはおかしいとか言ってモデルの下着変更するプログラムをわざわざ組ませたにも関わらず、結局言い出しっぺのお前も、話に乗った栗駒さんも下着をはかない設定しか使おうとしないからお蔵入りになっちまったんだぞ?」
「それはそれよ。はいてない方がヒリヒリとした配信を行えると思わない?」
「思わねえよ。パンツはけよ」
「考え方の違い、って奴かな」
「そんないいもんじゃねえだろ。パンツくらいはけや」
「ノーパン配信で収益化剥奪って伝説を作るのも一興」
「君はともかく栗駒さん次剥がされたら本気でヤバいんやから巻き込むん辞めろや」

「そういえばこんど石狩先輩とやるコラボの件なんだけど」
「……おう、なんだ?」
「石狩先輩なら浣腸に付き合ってくれると思う」
「だ、か、ら!!浣腸とか許可できねえって言ってんだろうが!!百歩譲って浣腸は許可したとしよう。せめて他人巻き込むんやめろや!!」

この女の浣腸に対する執念はなんなんだろうか。いや、浣腸に対する執念、と言うよりは人を楽しませたい執念というのが正しいのか。
その事については尊敬できることなのだがどうも方向性を見失いがちと言うか自分を犠牲にしがちなのが最近の心配事だ。
確かにあの配信面白かったからな。擦りたくなる気も分かるんだけど。

「イチ〇ク製薬の案件とか言ってだまくらかしたらいけるんじゃない?」
「もし奇跡的に案件来ても浣腸してなにかすることが案件になるわけないだろ。なんの嫌がらせだ」
「えー?駄目?」
「さっきから絶対に無理なのわかってて提案すんな」
「まさかそんなー」
「そういえばあの後石狩さんと千代浦さん送って戻ってきたら君と栗駒さんまだ居たけどずっと事後写メ撮ってたのか?混んでたから結構遅くなっちまってたけど」
「んー?事後写メ撮るのに飽きたから虫の交尾してる動画におこまとアテレコしてた」
「だから本当に何してんだ」
「今度のショートのネタにしようと思って」
「ちょっと面白そうなのが悔しい」
「でしょー?」
「で、その動画試しに観てもらおうと魂子先輩に朝から送り続けてるんですけど一向に観て貰えなくてちょっと悲しい。ついに既読も付かなくなったよ……」
「虫苦手な人にんなもん送りつけんなや」

「ましろ先輩、ちょっと昨日の動画の件なんですけど」
「あっ、今行く〜」

栗駒さんに呼ばれた真白はそう答えると正座の俺を残し部屋を後にした。

はぁ…………。

ため息を吐きつつ思いにふける。

なんで俺、あんなのが好きなんだろうな。

付き合ってもうすぐ3ヶ月。

……ポケットに忍ばせた指輪を渡せる日は来るんだろうか。




🍞あとがき🍞
こんなん書いて僕ドナーに刺されない?
ギャグ回です。
僕に大代さんの浮気プロレスを書くだけの力は無かった。
こんな作品ですが読んで少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

それでは、また。

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