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旅立ちの鐘が鳴る

今回のお話は、づにあ☪️💜💜💜💜💜💜💜💜💜💜氏の【あおぎりメモリアル】エピソード“栗駒こまる”のニ次創作、つまり三次創作になります。またか。

伝えられなくなった想いは呪いみたいなもんです。
もしも伝えたい想いがあるのなら頑張って伝えて下さい。

奇跡なんてものは起きませんし、神様なんてのも実はいないっぽいです。



 俺はゲーム屋をしている。
ゲーム屋ってのはガキに夢を売る最高の仕事だと思っている。
今日日、うちのようなゲーム屋に来るような奴は変な奴ばかりだ。
住宅街。それも入り組んだ路地の先。
看板なんてものもない。ガレージにしか見えないシャッターを開けて入らなきゃ店があることすらわからない。
最も、品揃えは俺が言うのも何だが最高だ。
値段は定価のみ。そしてこの店の事は基本的に口外禁止。
まあ、ゲームの事が本当に好きな奴なら教えても構わないがな。
ほれアレだ。転売ヤーとか言うゴミクズ対策だ。
まあともあれ、こんな店に来る奴は変な奴ばかりなんだが………そのなかでも一際目立った奴がいる。

 栗駒こまる。俺は嬢ちゃんと呼んでいる。スクールカースト上位にいそうな、とてもこういう店には似つかわしくない、まるで雑誌でモデルでもやってそうな……そんな風体の女子高生だ。そんな嬢ちゃんとの出会いは、嬢ちゃんが突然の豪雨でうちの店の軒先に雨宿りしていたことから始まる。

 うちの店は客が少ない。それは入り組んだところにある上、一見ただの一軒家にしか見えない外装が原因である。店の看板なんてものもない。

そんななので、店の軒先に知らない顔が立っていれば物凄く目立つ。一応付いてる防犯カメラには、ずぶ濡れで、ため息をつきながら空を見ている女が映っていた。
多分近くの高校の学生だ。
それをみかねて、俺は声を掛けたんだ。

「おい」
「はいっ!?」
「そこだと濡れんだろ。店の中に入んな」
「えっ?お店……?」

ガレージにしか見えないシャッターを開けつつ俺は言った。
当然だが学生さんはびっくりしてこっちを向く。

「ほれ、これで拭いとけ」

店に恐る恐る入ってきた嬢ちゃんに、適当に手に取ったバスタオルを投げ渡した。

「ゲーム……屋さん?」

頭を拭きながら店の中に入った嬢ちゃんは無数に並べられたゲームを見て驚いている。恐らくゲームが好きなんだろう。興味津々に棚の方に歩み寄る。って、いきなりギャルゲーコーナーに直行かい。

「えっ…!?嘘!?なんでこれも……っ!?あれも売ってるの!?」

 品揃えにも驚いている様だった。通だな嬢ちゃん。そのゲーム、存在すら知らない奴多いぞ。

嬢ちゃんが手に取ったのは、PCで発売された美少女ゲームのコンシューマー移植版。ろくに広告も打たず、発売とほぼ同時に会社が潰れた為、数が少なく、マニアの中では高値で取引されているらしい。最も、うちはすべてのソフトが定価なのだが。

「定価!?えっ!?なんで!?」

やはり値段に驚いている。

「でも、今月もうお小遣いが……でもでも…ここで買わないと……」

そして葛藤していた。まあわからんでもない。学生にとって6800円ってのはポンと出せる金額じゃないからな。

「嬢ちゃん、気に入ったのあったなら取り置きしておいてやるぞ」
「えっ!?ほんと!?」
「ただしこの店にはルールがあってな。この店の事は基本口外禁止だ。本当にゲームが好きな奴になら教えても構わんが……。それでもいいか?」
「全然大丈夫!!じゃあおじさん!これ取り置きしておいて!!」
嬢ちゃんはまだきちんと頭を拭けていないのにも気づかずに、笑顔で手にしていたソフトを差し出した。

これが、変な奴、栗駒こまるとの出会いだった。

 それから1ヶ月程たった頃、嬢ちゃんがソフトを買いに来た。満面の笑顔で帰っていったそれをみて、この仕事をやっていてよかったと思った。



 今日は誰も客が来なかった。まあ珍しい事でもない。そろそろ店を閉めようかと思い片付けをしていると、一人の怪しい――どう見ても嬢ちゃんだが――人物が入店した。もうじき夏だってのにトレンチコートを着込んでサングラスとマスクで顔を隠している。
 
嬢ちゃんが向かうのは18禁コーナー。ああ、そういうことか。こないだ買っていったゲーム、移植の際にエロいシーンを無理矢理カットしているため、エロいシーンで回収されるべきストーリーの伏線が回収しきれていないのだ。ストーリーはとても良いのにその点が不満点なのだが、元々のPC版をやれば済むのでさほど問題にしていなかった。しかし18禁ゲームが買えない人間にとっては大問題。18禁のPC版をやりたくなるのがゲーマーのサガと言うものだろう。

嬢ちゃんは一本のゲームソフトをもってきて会計を済まそうとする。

「いや、何やってんだよ。売らねえよ?」
「なんで!?」
「嬢ちゃんまだ18になってないだろうが」
「わた……ワシは見ての通り成人しておる……ゾ?」
「見てくれで判断していいのならあと3年は売らんが」
「そんな!?私もうじき誕生日で18になるよ!?売ってよ!」
「成人してるんじゃなかったのか」
「う、う〜〜〜!!」

はあ、仕方ねえな。

「誕生日いつだよ」
「9月25日!」
「あと2ヶ月程か。しゃーねぇな……売ってやる。ただし誰にも言うなよ」
「もちろん!」

お目当てのソフトを手に入れた嬢ちゃんはルンルンとした足取りで帰っていった。
エロゲーを買ってウキウキで帰路につく女子高生ってのもどうかと思うがまあその辺は人それぞれだろう。店を閉めながらそんなことを思った。




 いつもの様に嬢ちゃんがゲームを買いに来た。しかしいつもの――若干うっとおしいくらいの覇気がない。夏休みだっつーのにどこか物憂げなツラをしてやがる。

「よう嬢ちゃん、いらっしゃい」
「あ、取り置きしておいてもらったソフトを…」
鞄から財布を取り出しながら嬢ちゃんは言った。

……気に入らねえな。

 楽しみにしていたゲームをやっと買えるって言うのになんだこのツラは。ゲームっつうもんは笑顔でやるもんだ。そりゃやってる内に怖かったり、泣ける話だったり、そんな風に感じるゲームもあるだろう。だけど楽しみにしてたゲームをやろうって人間がそんな物憂げな顔しててどうするんだよ。

「買う前にちょっと」
「えっ…?」

カウンターから取り出したパイプ椅子を置くと、座るように嬢ちゃんを促す。

「ちょっと、座ってまってろ」

バックヤードに入りホットミルクを作る。待ってる間に自分の分のコーヒーをいれながらコルクボードに留めてある写真をみていた。

「おまたせ」
「あっ…どうも」

ホットミルクを差し出すと、嬢ちゃんは受け取ったが、手をつけようとはしない。

「ただのミルクだ。なんも入ってねえよ。とりあえず飲め」
「……」

嬢ちゃんは無言のままホットミルクを一口飲んだ。

「で、何があったんだ?」
「!」

嬢ちゃんは下を向いちまった。まあ仕方ねえよな。常連になりつつあるとはいえこの店に来始めてまだ半年程だ。それなのにこんなおっさんにいきなり何があったかなんて聞かれてやすやすと答える奴は少ないだろう。

「新しいゲームやろうって人間が、んなつまんねえツラしてんじゃねえよ」
「……」
「嬢ちゃんも知っての通りこの店にはいくつかルールがある。その中でも一番守らなきゃいけないルールはゲームは楽しんでやるってルールだ。ゲームって言うのは楽しんでやらなきゃならねえ。意味がねえ。だから今の嬢ちゃんみたいなつまんねえツラでゲームしてほしくないわけよ」

下を向いたまま嬢ちゃんは何も答えない。

「なんの力にもならねーかもしれねーが、俺にも話聞くことぐらいなら出来るんだ。人に言えばちっとは心が晴れるかも知れねえぞ。ちゃんとヒミツは守るしな」

最もヒミツをばらす相手もいないがな。

「……実は」

少し悩んだ後、嬢ちゃんは話しはじめた。

最近、仲良くしていた男の子に壁ドンをされた事。
いつもの冗談のつもりだったのにその時のことが頭から離れない事。
それから去年の夏にナンパから助けてもらった事や文化祭で困っていたのを助けてもらった事も頭から離れなくなり、この間皆で海に行ったとき、その男の子が溺れそうな女の子を助けて、以来助けた女の子と話しているとモヤモヤする事。
そして、気がつけばその男の子の事ばかり考えているって事。エトセトラエトセトラ。


……それって、誰がどう見ても嬢ちゃんそいつのこと好きになってんじゃねえか。

「なにがなんだかわからなくて……」

マジかよ。こりゃ、本当に気がついてないっぽいな。
「そりゃ恋だ」と言いたくなるのを我慢する。
持論だが、こういう事を自覚するのは早いほうが絶対にいい。だが俺がそれを指摘してしまうのは野暮ってもんだろう。そういうのは自分で気がつく方がいい。

「そうか、なる程な。俺から言える事は一つだけだ。何でそいつのことばかり考えてるのか胸に手を当てて落ち着いて考えてみるんだな」

そうしてバックヤードから一本のソフトを手に取って、

「いつも買ってくれてるからサービスさ。家帰ってこいつをやってみな」

嬢ちゃんに渡した。
戦時中を舞台にしたゲームで、主人公と幼馴染のヒロインがお互いに想い合っているのに、お互いにそのことに気づいていない。そのうち戦争が激化して主人公達の住む街が空襲に遭うんだが、最後の最後、死ぬ間際になってようやく想いに気が付いてお互いに想いを伝えながら事切れる……そんなゲームだ。ちなみにどのルートでも絶対に主人公とヒロインは結ばれずに死ぬ。救いなどない。これやりゃ嫌でも自分の気持ちに気がつくだろ。

「うん、そうする……ありがとう」

今日発売のゲームの会計を済ませ、嬢ちゃんは帰っていった。少しは力になれただろうか。

嬢ちゃん、うまく行けばいいんだがな。



「駄目だったーー!!」


ここ数ヶ月、自分の気持ちに気づいてから果敢にアタックしようとしている嬢ちゃんだったが失敗続きだった。今回はバレンタインデーというイベントにかこつけて告白しようとしたがものの見事に失敗したようで、嬢ちゃんはうちに来て反省会をやっていた。営業妨害か。まあどうせ客なんて殆ど来ないのだから構わないのだが。

「私このままずっと告白とかできないのかな……」
「むしろあっさり告白できる奴なんてのが少数派だろ」
「そっかなー」

嬢ちゃんから貰ったチョコレート。カカオ95%の劇物を齧りながら俺は嬢ちゃんの問いに答えた。とても苦い。甘いものは得意じゃないとは言ったが……やっぱり嫌がらせか?
最も、こないだもらった地球グミとかいうやつよりかは遥かにマシなんだが。あれは不味かったな……。
カカオの苦さをコーヒーに砂糖を多めに入れてそれで凌ぐ。

「私もう二度と告白とかできないのかな……」

本日何度目かわからない問いにため息を吐きつつ答える。


「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」
「でも……」
「二度と伝えることができない想いなんてのは、呪いと一緒なんだよ」
「……」
「もしも、明日その相手に彼女ができたらどうすんだ?いいやつなんだろ。そんならそいつのこと好きな奴が嬢ちゃんだけとは限らねえだろ。まさに今告白されている最中かもしれない」

「……」

嬢ちゃんは黙って俺の言葉を聞いている。それに、望んでも二度と伝えられなくなる想いなんてのも世の中にはあるんだ。

「あのな嬢ちゃん。どんなやつにも悩みがあって、葛藤があって、信念があって、見ている未来があるんだ。嬢ちゃんは、どんな未来を見ている?どんな明日が見たい?」

その為にどうすればいい?と眼で促す。

「!」

「自分から踏み出さなきゃ、望んだ未来なんて手に入んねえんだよ」
「……そうだよね。おっちゃん!ありがとう!」



「若いっていいねえ」
店を飛び出した嬢ちゃんをみてそう呟く。

 俺にもあんな頃があった。

想い人には、結局想いを告げられなかったけど。
年齢の割に小柄で、少し舌足らずで、黒が似合う少女。
あの子もゲームが好きだった。

想いを告げようと、何度も勇気を出そうと頑張ったが、あいにく俺にそんな勇気は無かった。

そんな事をしているうちにあの子はこの世を去った。
詳しくは知らない。彼女が亡くなったことだけが教師から告げられ、彼女の机の上には花が供えられていた。
俺はただ呆然とその花を見ていた。

あれから何年経った?

俺はいつかあの子に言った「将来はゲーム屋やるんだ」なんて戯言を実現したが、結局、あの子の机に供えられた花を見ていた頃から何も成長していないんだろう。



「おいにいちゃん、これ落としたぜ」
「あ、すいません」

買い出しに商店街に出ると、一人の男に出くわした。
道に荷物をバラ撒いてしまったようで、必死に拾い集めている。
実を言うとこいつの顔は知っている。
嬢ちゃんの携帯に貼ってあるシールに写ってた奴だ。恐らく嬢ちゃんの想い人だろう。

「珍しいな、学生さんがこんなモン使うなんて」

落ちていた工具を拾って渡しながらそう言った。

「はは、将来なんでも直せる技術者になりたくて色々やってるんですよ」
「ほー、大したもんだ。俺が学生のときなんざ、にいちゃんみたいに将来のこと見据えて動けなかったもんだが」

拾い集めている内に一冊の本を見つけた。

「時計の修理……?」
「ああ、今ちょっと直したい時計があって……」
「ほう。時計って言えば、こんな話知ってるか?あおぎり高校に時計塔あんだろ?あの時計の鐘って昔はちゃんと鳴ってたんだ」

少し遠くの角を指差しながら、

「あそこの角を曲がったところにこの商店街唯一の時計店があってな。あそこの爺さん、時計塔のメンテナンスとかやってたんだぜ。雷が落ちて鐘は鳴らなくなっちまったが……時計は動いてたからか、鐘の方はそのまま手つかずじまい。爺さんももう歳だしな」

「!」

「あの鐘も鳴らなくなって久しいが……昔はよくあの鐘の音聞いたもんだ。そんでいつしか、鐘が鳴ったら願いが叶う、奇跡が起こる、なんつー伝説ができたんだよ」


「その話!詳しく教えて下さい!!」

物凄い食いつきだった。少し驚いたが俺は知る限りのことを教えてやった。

「実は……あの時計塔の鐘をまた鳴るようにしたいんですよね」
「ほー、何でまた」
「好きな子が、いるんです。その子にあの鐘の音を聞かせてあげたい。夢は諦めなければ、必ず叶えることができるって、証明してあげたい。彼女の夢を、応援してあげたいんです」

熱っぽくそう言った。
昔の俺なんかと違って、こいつは好きな奴の為に自分から動ける人間だ。尊敬できる奴じゃねえか。

「あ、忘れて下さい……」

しかしすぐに自分の言った事が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてそう言った。

「にいちゃん」
「は、はい」
「がんばれよ!応援してるぜ!」
「……はい!」

にいちゃんは、とてもいい笑顔でそう答えた。



 カレンダーを見て気がつく。今日はたしか卒業式だったか……この間嬢ちゃんが来たとき言ってたな。曰く告白しても大丈夫かな?私で大丈夫かな?そんな感じの不安を小一時間ほど。

大丈夫だと太鼓判を押したがまあ仕方ないだろう。いつだって告白なんて勇気を振り絞って振り絞って、何かに後押ししてもらって、そんでようやくできるもんだ。
結局勇気出して動くしかねえんだ。望む明日は踏み出した先にしか無い。俺の経験上それは確かな事だ。

いつもの様にバックヤードでコーヒーを入れていると、聞き慣れない……いや、かつてはよく聞いていた音が聞こえた。

……やるじゃねえか。にいちゃん。

近くの高校の時計塔の鐘は心地良い音を鳴らしている。

かつて、よく聞いていた鐘の音だ。

嬢ちゃんは、うまくいっただろうか。
考えるまでもなくうまくいったに決まってるな。
そんな事を思いながらコルクボードに留めた写真を見ると、自然と笑みがこぼれた。

幾度となく見たそれは、今ではもうすっかり日に焼けてしまっていて、色褪せてしまっている。

あの子がまだ生きていた頃。
たまたま一緒の班になった校外学習。
クラスの女子がふざけて撮った、クラスメイトが変な顔をして、それを見た俺達が笑っているだけの写真。

――あの子の、笑顔の写真。

「伝えられなかった想いは呪いか」

そう呟く。そして、

「なあ!――ろち!俺は夢叶えて今ゲーム屋やってんぞ!幽霊でもなんでもいいからいっぺん遊びに来い!!お前が好きだったくらい言わせろ!!……………………言わせろよ」

たまらず、ずっと溜め込んでいたことを思いっきり吐き出した。そんなこと吐き出したところで何も変わらないことなんざわかりきったことなんだがな。

「わっ、びっくりした」
「えっ……?」

店の入り口から“聞き覚えのある声”が聞こえた。
それは、
“もう聞けるはずのない声”で、
“俺が――――僕が、一番好きだった声”で、
“あの子の声”で。

「キミは……相変わらずだね」

今しがた名前を叫んだ少女が、あの時と変わらない姿でそこに居た。
どうやら神様ってのは実はいるらしくて、奇跡ってのもあるらしい。伝説なんてのもバカにはできないもんだな。

「………………………よぉ、いらっしゃい。なにか、お探しかい……?」

そう、絞り出すのがやっとだった。
涙が溢れてくる、泣くのなんて学生の頃以来だ。
何も変わっちゃいない。あの頃のままだ。
俺が好きだったあの頃の彼女のままだ。
 
彼女は微笑むと、

「うん。キミの呪いの解き方を探しに」

そう言った。

「ああ、それか。それなら……」

どうすればいいのかはもうわかっている。
どうやら、嬢ちゃんの次は俺が勇気を出す番らしかった。
涙を袖で拭って、―――玄の顔をみる。

ずっと、後悔してきた。
ずっと、言いたかった。
ずっと、好きだった。

――それを、伝えるだけ。

「―――玄さん。僕は、君のことが………」




 俺はゲーム屋をしている。
ゲーム屋ってのはガキに夢を売る最高の仕事だと思っている。
今日日、うちのようなゲーム屋に来るような奴は変な奴ばかりだ。
住宅街。それも入り組んだ路地の先。
看板なんてものもない。ガレージにしか見えないシャッターを開けて入らなきゃ店があることすらわからない。
最も、品揃えは俺が言うのも何だが最高だ。
値段は定価のみ。そしてこの店の事は基本的に口外禁止。
まあ、ゲームの事が本当に好きな奴なら教えても構わないがな。
ほれアレだ。転売ヤーとか言うゴミクズ対策だ。
まあともあれ、こんな店に来る奴は変な奴ばかりなんだが………そのなかでも一際目立った奴がいる。


最近変わった事と言えば、その変な奴が男と二人で来ることが多くなった事くらいだ。

「おっちゃーん!あれ入ったー?」
「よう嬢ちゃん、いらっしゃい」

それと、前以上に毎日が楽しそうって事だな。

「入ってんぞ、買うかい?」
「もちろん!」

変な奴、栗駒こまるは満面の笑顔でそう答える。

ちょうど、いつもの様に時計塔の鐘が鳴り響いた。
旅立ちの鐘が鳴る。
二人のこれからを祝福するように。
旅立ちの鐘が鳴る。
二人の終わらない明日を願うように。


――僕は、君のことがずっと、好きでした。僕と、付き合って下さい。

――ありがとう。キミの気持ちは凄く嬉しいけれど、ボクはもうこんなだから無理なんだ。

――そっか。そりゃ残念だ。

――もう、いかなくちゃ。本当に短い時間だったけど。キミとまた話せて、嬉しかったよ。

――僕もまた会えて嬉しかった。わざわざ来てくれて本当にありがとう。そうだ、コレを餞別代わりに持っていって。

――これはあの時の。……本当に楽しかったなぁ。

――うん。楽しかった。僕達の、大切な思い出だ。

旅立ちの鐘が、高鳴る。
あの子の旅路を祝福するように。



コルクボードに、もう写真は留まっていない。




※あとがきという名の言い訳
まだ二次創作元にいない人物を使う勇気。メインじゃないんでタグは付けないけど。
この物語はあおぎりメモリアルゲーキチサイドになるので、今後あおぎりメモリアルのオリジナルに出てくるであろうキャラとは一切関係ありません。

あとちょいちょい二次創作元と設定が変わってる事がありますがそのあたりはご容赦下さい。


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