忘れられない一日ではなく、振り返らなかった一日に戻ってきたのだ『A SHORT HIKE』

文・canavis

このゲームの画面を見たとき、自分のお気に入りの作品になることはわかっていた。

小鳥が秋と夏の境目のような季節を走り回り
緩やかな風の気配を画面から感じ
何かを排除するとは違い、他者と自分と自然との交流の中で生まれる自由

そんな世界がゲームの映像から読み取れ、とても惹かれた

ただ、自分にとって大事な作品ほど、感情を揺さぶる作品だと分かるほど、実際に触れると心が疲れるような、億劫なような、なぜか後回しにしてしまう癖があり。

年始のタイミングでやっとこの作品を触れることになった。

『A Short Hike』はカナダのインディーゲームスタジオadamgryuが開発したオープンワールドのアクションアドベンチャーゲーム。

主人公のクレアは小鳥で、都会で暮らす女の子
夏休みに伯母と共に「ホークピーク州立公園」訪れるところから物語が始まる。

ゲームの構造としては、自由に自然豊かな公園を散策し、出会う人々と交流をし、「ホークピーク」の山頂を目指す。

ゲームの中には排除する敵やライバルは存在しないが、山頂に到達するためには、様々な登場人物の話や願いを聴いたりすることで手に入れる事ができる「黄金の羽」を集めなくてはいけない。
(全てではなく、その枚数はプレイヤーのゲームの進め方で変わる)

公園の中は、この手のオープンワールドのゲームとしては狭いが、その分コンパクトで密度の濃い作りになっている。

ただ広い空間というものが存在せず、画面のなかでは高低差のある場所や気になるオブジェクトが密接に存在し、プレイヤーはその多くに乗れたり、登れたりすることができる。

ただ移動をするという行為が退屈にならず、幼いころ遊んだ探検ごっこのように、ただ歩き回るというだけで胸が高鳴るような感覚になる。

登場人物も全てに話かけることができ、会話の内容も一人に複数用意されていることもあったり、また、ゲームの機能としての登場人物以上のユーモアや味のあることを言うので、会話がとても楽しい。

ゲームの最後、山頂にたどり着いたときに語られる物語の背景は、大きな驚きはないが、ゲームならではの粋な表現と、子供のころ特有の感情の動きを思い出し感動してしまった。

『A Short Hike』は、ゲームの規模もそこで語られる物語も、本や映画では描かないと思われるくらいにささやかなものだが、その分プレイヤーの体験とゲーム内容がリンクしやすく、ゲームが終わったあとも、ゲームを遊ばない時間も、このゲームの事を考えてしまう。

クレアと同じように子供に頃にどこかに連れて行ってもらった記憶は大人になっても全て持っているかというと、そうでもないように、そこで出会って一日だけの友人も人生に今後登場しないし、彼らも忘れているだろう。

だが、その一日も自分を作る大事な要素だ。

自分にとって『A Short Hike』は、そんな振り返ることのない一日を再訪させてくれるような、貴重な作品だ。

A SHORT HIKEはPC , Nintendo Switch で遊ぶことができる。


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