褒められたいけどネタが無い
『超町人!チョコレートサムネット』という「チョコレートプラネット」がMCをする名古屋のローカル番組がある。"サムネハンター" と称するロケ芸人が毎回ひとつの街を探訪し、その街のサムネイルになりそうな特異な経歴や特技を持っている人を見つけ出して紹介する番組。
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2週間ほど前の昼下がり、我々夫婦と孫(♂4才)の3人が「ステーキのあさくま」での昼食を終えて車に乗り込もうとしていると、街ブラロケと見られる一行が近付いてきた。先頭を歩くのは「たんぽぽ」の川村さんだ。
「チョコレートサムネット」のTシャツを着ている。
川村さんはまず我が孫を見て「えー!かっわいいー!」と感嘆の面持ち。
しばしの後私に「何か特技とか、自慢できること有りませんか?」と訊く。
私は「うーん、無いなぁ~、ホント何にも無いなぁー」と呟く。
川村さんは「そうですかー、無いですかー」と残念そう。
そしてまた孫に戻り「ホントに可愛いいねー。モテるでしょ?」と訊ねる。
「モテる」の意味が判らず、イケメンの孫はキョトンとするばかり。
私は褒められるのが好きな人間だ。
私は褒められたらまだまだ伸びる前期高齢者。
だが残念なことに、自慢できることも特技も無い。
褒められたいけど、ほめられネタを持ち合わせていない。
薄々気付いてはいた。今回川村さんに訊ねられてハッキリ分かった。
若い頃何かのスポーツの全国大会に出場して優秀な成績を収めてもいないし、得意なスポーツも無いし、楽器や歌は特別上手でもないし、珍しいコレクションなどは持っていないし、驚くべき経験も特別な知識も変わった習慣も無い。石碑に刻まれるような社会貢献などしている訳もない。
もうひとつ。「カッコいい!」などと容姿を褒められた記憶も無い。
私の人生は、凡庸な過去と凡庸な現在で形成されている。
ちょっと悲しくなってきたが、どうしようもない。
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そんな私は、私のまわりに現れるちっとも凡庸じゃない人たちが眩しくて仕方ない。
私が最も信頼する8歳下の後輩F君は先頃60歳定年になるやスッパリ会社を辞めて、10月からメキシコに渡り新たな仕事に就くと言う。その好奇心とチャレンジ精神は驚くばかり。
昨年からある会社のCEOを務めている私よりひと回り以上若いHP君は、その会社のあるべき姿に向けて、人材育成と風土改革に重きを置いて明るく頑張っている。何だか羨ましい。
個人情報に触れてしまうので詳しく書けないが、その他にも困難な課題を克服するべく努力を続ける眩しい人が私のまわりにいる。
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私は眩しい人にはなれない。だからもう「褒められる」を欲しがらない。
これから私は‥ 「そこはかとない可笑しみを湛える」「一隅を照らす」老人を目指してみよう。
< 了 >