列王記上21章/「隣人の家を欲してはならない」
ナボトの葡萄畑のエピソードである。
引用したように、古代北イスラエル王アハブは自分の宮殿の側にある葡萄畑を所有するナボトに話を持ちかける。
彼の畑を自分のものにするためである。
ナボトは王からの提案を拒否する。
律法によれば土地の使用権を売買出来はしても、所有権の売買は出来ないからである(レビ 25:13-15)。
これに対しアハブ王は自分のものではない土地を手に入れられなかったことに怒り、極めて不機嫌になる。
アハブの妻イゼベルは夫に提案する。
「彼を神と王を呪ったと告発し、裁判で死刑にし、民衆に石打ちの刑を執行させて殺し、彼の畑を手に入れよう」
アハブはこの提案を実行し、畑を手に入れる。
聖書には繰り返し語られる類型のエピソードがあるが、本章のナボトの葡萄畑もそうである。
・アダムとイブ
神は人に対して「園のすべての木から取って食べなさい。
ただし、善悪の知識の木からは、決して食べてはならない。
食べると必ず死んでしまう。(創世記 2:16-17)」
と命じる。
それに対して蛇はイブを唆す。
唆されたイブが知恵の実を見ると、その自分のものではない果実は「いかにもおいしそうで、目を引き付け、賢くなるように唆していた(創世記 3:6 新共同訳)。」
そしてアダムとイブはその自分のものではない実を食べてしまう。
・ダビデとバトシェバ
古代統一イスラエル王国が戦争中の際に、首都に残っていたダビデ王は午睡から目覚めた後、王宮の屋上から沐浴している女性を眼にする。
それを目にしたダビデ王はその女性を調べさせ、彼女が自分の部下の妻であり、自分のものではないと知りながら、彼女を召し入れ床を共にする(サムエル記下 11:1-5)。
・キリスト
ここに逆転がある。
「自分のものではないものを"目にし"、欲しくなり手に入れる」
これが旧約聖書の誘惑の物語類型である。
キリストの荒野の誘惑のエピソードはこれを受け継ぎながら、それを反転させている。
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