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村田なつか「いぬたちの森」「ねこたちの森」

当社が版元となるジクレーシリーズとして2021年4月に、村田なつかさんの2作を発売いたしました。彼女は動物イラストレーションにほぼ特化して人気の高い人。筆使いも独特で、それをどこまで忠実に表現できるかのチャレンジとなりました。

村田なつかさんについて

村田さんは美大卒業後から一貫して、身近な動物や森の生き物たちをテーマにイラストレーションを展開しています。透明水彩の独特なぼかしや滲み、マスキング技法などを駆使したその絵はとても繊細で、背景のあるものはドラマチックに、背景のないものは象徴的に。モチーフの生命をいきいきと感じさせる作品が得意です。

なかでも「柴犬を描かせたらこの人」という定評は年々高まるばかり。隔月刊誌「Shi-Ba」(辰巳出版)にて連載を続けている他、「しばいぬカレンダー」(ハゴロモ)も手がけています。

彼女の柴犬、並みの絵ではありません。「村田なつか 柴犬」で画像検索してみてください。大量に作画が出てきますが、犬がプリンの上にトッピングされるわ、どら焼きにはさまれるわ、お汁粉の上で寝るわ、大変な世界です。リアルなスケール感からは一切が自由。「食べたいほどかわいい」をストレートに描いてみたことから、好評に背を押され自然に確立した構想のようですが、まず他に類例がない世界観といえるでしょう。

新作原画を発表すると、たちまち予約で押さえられてしまう村田さん。かねてより複製画も待望されているのではと感じていました。

アートを身近に感じるペア作品

今回は企画に快く同意いただくと、まずF4サイズの原画を2枚仕上げていただくことからスタート。既存の絵をもとにするのではなく、始めから制作意図を念頭に、飾る場の雰囲気に溶け込めるような作画を意識していただきました。

彼女には、うさぎたちが森に集っている絶景を描いた「うさぎの祭り」という2020年の人気作があり、その延長で「森」の連作を作りたいというイメージがあったそう。そこから身近な「いぬ」と「ねこ」が森のなかで暮らしている様子の絵へと展開します。原画完成までは、優に1か月半以上かかりました。

2枚は「森のなかにぽっかり空いた広場」の昼と夜、という設定のペア作品。

いぬたちの森ap1

「いぬたちの森」(2021年)画面サイズ : 320×239mm。
iPhotoモロー紙にインクジェットプリント(ジクレー版画)

ねこたちの森ap1

「ねこたちの森」(2021年)画面サイズ : 320×239mm。
iPhotoモロー紙にインクジェットプリント(ジクレー版画)

描かれているのは、人と動物との絆

こどもが大人たちの目の届かない「秘密基地」にわくわくするのに似た「場」づくりと、時間軸の持ち込みによる物語性の示唆はさすがです。梢を流れる風の音や温かい日差し、柔らかな月明かりが感じられる絵にしたかったそうで、あとは村田さんの得意とする柴犬と、猫たちの愛くるしさにただただ魅了される絵となっています。

目を凝らして見てください。いぬ好き、ねこ好きなら「あるある」と共感できるしぐさ、写真に撮ったことがあるアングルが1枚の画中にたくさんコレクションされているのが分かると思います。人と動物との絆を連想させる眺め、それが村田なつかワールドの核心です。

森だからといって野生の様子を描いているわけではなく、主題になっているのは共に暮らす動物を思う人の心なのです。日本の猫種、日本の犬種をモデルにしたのは、ペットを飼っていない人でも親近感の持てそうな種類を選ぶことで、愛おしい気持ちをできるだけ広く共有しようとしたからでしょう。

キャラクター化をしない

私が彼女を偉いなと思うのは、できる限りキャラクター化をしないことです。普通、動物をファンタジーとして描こうと思ったら、細部を省略し分かりやすい図案とするでしょう。「詩とメルヘン」の系譜でも有名作家さんは皆さんそうでした。作画スタイルに動物を当てはめて翻案する。程度の差こそあれ「作家性」の高さにはそういう方法論が必ず付帯します。

しかし彼女の動物の絵では、写実とはいえないまでも、毛並みのひとつずつまで慎重に描き増していく。向き合い方が「裏方さん」的なんですね。どんなにシュールな構想で描いても、可愛らしさ(可愛いと思う情動)の本質、生きものに対する畏敬の念が絵の底流で効いているのです。

以前インタビューさせていただいた際、印象的な言葉をたくさん聞きました。例えば、その動物が大好きな人が見た時、そんなポーズはしないよと思われたり、骨格と矛盾するポーズでは描かない、と決めているそうです。そのポリシーと作家性との両立がどれほど大変か。隠れがちな努力、しかし優れた努力です。

GALLERY SPEAK FORでの「けもの」展(2016年)のギャラリートークでは、毛並みが描きたくて絵を描いている、という主旨のお話をしていた村田さん。毛量が多めの動物でないと描きにくい、とも。動物を手で撫でるように小筆を紙に走らせているわけです。結果として「触りたくなる毛並み」の絵ナンバーワンだという声もあるほどにファンの心をつかむ大切な作法となっているのでしょう。

約10年の創作生活が結実

今回のジクレーも、刷りのエンジニアになっていただいたのは版画工房エディション・ワークスさんです。原画の美しさを正確に理解し、耐候性の高い顔料系インクで忠実に再現、品質管理してくださるおかげで原画とは別ジャンルの美術品と位置づけられる美しいシートになっています。

大学在学中に動物の絵に注力し始めてから今まで約10年の創作ドメインを結集したともいえる作品2枚、村田さんの初めての複製画です。エディション100ずつに限定され保有する価値も十分に担保されています。一方で原画ではないため、動物が好きなお子さんの部屋などに飾る絵としてもぴったりでしょう。

動物への愛情と畏敬を作家性の下に置かずに、丁寧に向き合う態度がアートである、という揺るぎないスタンス。今はまだ社会一般に知名度がなくても、きっと将来ずっと高く評される方だと思います。より安定的な創作継続への支援としても、ご購入をご検討いただければ嬉しいです。

シート価格は各16,500円(税込)。
当社オンラインショップ ベイス支店からもお求めいただけます。
https://speakfor.thebase.in
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東京・代官山生まれの元アートギャラリーです。現在は展覧会やコラボ企画、ECサイトへの卸しを手がけています。日々取り扱っている数多くの優れた作品から、まだ少し説明し足りないな、と思うことをここで綴らせていただきます。 https://www.galleryspeakfor.com