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【OMBAK HITAM】福岡アジア美術館開館・第1回福岡トリエンナーレ開催記念 特別イベントこけら落としライブ

今回は、福岡アジア美術館開館・第1回福岡トリエンナーレ開催記念 特別イベントの中でGallery MORYTAが主催した福岡アジア美術館 あじびホール こけら落としライブ 【OMBAK HITAM】をご紹介します。
当時のことについてのインタビューを掲載します。
是非、上のライブ動画をご視聴の上読んでみてください。

福本 将虎(インタビュアー):OMBAK HITAMを開催することになった経緯を教えてください。

森田 俊一郎氏:
たまたま予定していた著名人のトークショーが取り止めとなったことで、ある方を通じてギャラリーモリタが何か出来ないかとの話が舞い込みました。
当時、ベーシストの斎藤徹と交流があり、彼がアジアの文化をオーガナイズした公演「OMBAK HITAM」をシンガポールで公演したことを聞いていたこともあり、提案したところ「これからのアジ美のあり方にもつながる」ということですぐに決定しました。
よくプロデュースなどのやり方について教えてほしいとかと言われるけれど、そんな方法なんてありません。
ここに関わるの人と人の空気を感じ取り、実現に向けて突き進むだけです。


福本 将虎(インタビュアー):なかなか、今の日本ではみないような過激なパフォーマンスですね…

森田 俊一郎氏:

参加者のシンガポールのアーティスト、ザイ・クーニンからの依頼には驚かされました。 
「ダイコン、キャベツ、ほうれん草をそれぞれ 30 キロ、生きた鶏 2 羽用意してくれ」と 言ってきたのです。
正直、限られた予算の中での公演だったからとてもじゃないけれど無理な話。
でも、まだ その時僕はザイとは面識がありませんでした。
一流のアーティストのパフォーマンスに一 切の妥協は許されない。
高校時代の同級生にたまたま農業をやっている友人がいたので連絡したところ、「分かっ た」と即答。
これで進む!って、思わず心の中でバンザイしました。
でも、もうひとつ「生きた鶏」のことがある。実際、どのように使うかは聞いていない。
 ただ、なんとなく嫌な予感はしてました......。笑
結局、生きた鶏はなしとなったのですが、屍は用意してくれとなりました。
そこで、肉屋 さんから手配し、さらに赤いペンキを塗ることで進めました。
公演で分かったのだけれど、やはり野菜、鶏は想像した通り、いや僕は日本人だし、日本 の美術館の完成初公演ということも念頭にあったからかもしれませんが、甘かったですね。笑
実際のところと言えば、想像を遥かに超えていた。
でも、それこそアートですね。
人の日常にある想像を超えたものでなければなりません。
芸術は人間、そして命や死と密接なつながりを持っていたと言うこと。
アーティストで もあり、あるいはシャーマンのような、そんな野生の魂を持つ者から生み出される、人間 の存在に深く関わるエネルギーに満ちたものであったと言うことを強く突きつけられまし た。


福本 将虎(インタビュアー):ザイ・クーニンはなぜこのようなパフォーマンスを行ったのですか?

森田 俊一郎氏:

ザイ・クーニンは、オーストラリアの大美術館で、ピカソやシャガールなどの巨匠とともに彼の作品が展示されたそうです。

その時、ザイ以外は歴史上の人物だけ だったそうです。そこで、ザイは「生きてるからこそのリアリティとは何か?」というこ とを悩み考えます。その結果絵を描くという行為よりパフォーマンスに導かれていきまし た。
その後、ザイは 2017 年ヴェネチア・ビエンナーレにて作品「ダプンタ・ヒャン:知識 の伝播 」を発表、脚光を浴びます。金沢 21 世紀美術館がコレクションしましたね。

2019 年に斎藤徹さんは残念ながら若くして亡くなられます。この企画オンバク・ヒタム とはマレー語で「黒潮」を意味するのですが、徹さんなしではあり得なかった企画です。 日本の箏アンサンブル、韓国から打楽器、そしてシンガポールのパフォーマンス。西洋と 東洋の音の融合なんて、徹さん以外の一体誰が出来ると言うのでしょうか?
80 年代のタンゴから始まり、韓国、アジア、さらに世界の音楽を求め、極め続けてきたか らこそ成し得ることです。音の求道者ですね。

編集者 福本 将虎の考察


私は、初めてこの作品を見た時に生々しさからくる少しの恐怖を感じました。しかし、それと同時に人間の原点が表現されているようにも感じました。
おそらく、この動画を初めて見たのは1年前だと思います。文章を書いてる今ではすっかり恐怖感がなくなり、私たちが忘れてはいけないような本質を見せられている感覚があります。
この作品に対して「生と死」が隣り合わせであるような感覚を抱きます。私たちは、生きたものを捕食している。しかし、世の中が便利になるにつれ「生きたものを捕食している」という感覚が薄れているような…
「生と死」は反対であるように見えて、隣り合わせなのだと。

そして、斎藤徹さんは困難なことを成し遂げることに力を注いだそうです。楽器はルーツや譜の読み方が全く違うものを用い、稽古はほとんど行わず本番に挑んだというのだから驚きです。
また、出演者の肉体美、出演者の表現力…それぞれ妥協がなく熱烈なパワーを持ったものが同じ場で融合し新たな力を発揮しています。
「困難なことだから挑む価値がある。」それぞれの出演者が人生の中で培った能力とパフォーマンスに賭ける情熱がこのような唯一無二の空間を作り出すのでしょう。

今日このような過激なパフォーマンスに触れる機会は減っているのではないでしょうか。過激さはなくとも「抽象的で胸に刺さり考えさせられるような表現」に触れる機会が減っているように感じます。
経済発展と並行で、文化の発展は今後どうなっていくのか。どうあるべきか。僕はしっかりと考えていきたいと思っています。

■GalleryMORYTA  note編集
福本 将虎
2020年 西南学院大学中退後、ベンチャーキャピタルや九州産業大学にて学生の起業支援などに従事する。
2019年のギャラリー梯子酒にて、初めてGallery MORYTAを訪れる。打ち上げパーティにて森田俊一郎氏と目が合い「もっとアートの世界に入ってみては?」と言われギャラリーへの訪問を続ける。
森田氏から現代アートの魅力、世界中のアートフェアの事情、九州派の歴史などを聞くうちにすっかり、アートの魅力に浸かる。2021年に初めて作品(桜井孝身の「宇宙は巡る」)を購入した。
購入についての文章↓
初めて、現代アートを買いました。-note

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