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凄惨な真実を隠す離島の学園で“生”の意義を探す(作品紹介:DUNAMIS15/5pb.)

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©︎2011-2012 5pb.

本記事は一部に流血等のグロテスクな表現を含みます。ご注意下さい。


イントロダクション(おことわり)

今回紹介するこの作品、私からしてみればお世辞にも名作とは言えない。
一方で、この作品のことは絶対にクソゲーと断じたくもない。
この作品、残念なところは本当に残念な一方で、輝かしい・本当に魅力的なところも多いのだ。

他人に胸を張ってオススメできないこの作品も、その自信を持てない自分自身も本当に恨めしい。でも、もしこの記事を通して読者のあなたがこの記事を通して私のこの作品への好意と熱を感じ取って頂けたのなら、私にとっては至上の喜びとなる。興味まで持って頂けたのなら尚更だ。

作品紹介

商品情報

PS3版パッケージ

タイトル:DUNAMIS15
対応ハード:PS3, XBOX360, PSP
CERO:D
発売日
PS3/360:2011年9月15日
PSP:2012年7月26日
ジャンル:サスペンス・フィクションアドベンチャー

中古相場
PS3通常版:200円台後半〜
PS3限定版:1500円〜
PSP版:528円〜

作品概説

本作品は5pb.から発売されたサスペンスアドベンチャーゲームである。
倒産しスタッフが5pb.やサイバーフロントへ散る以前のKIDが存在した時代から続き、同社の基幹タイトルである「メモリーズオフシリーズ」「infinityシリーズ」などの作品を擁する市川和弘プロデューサーの個人ブランド「SDRproject」にも属している。
そちらのブランドに属しているのはあくまで同プロデューサーが企画に関わったためで商業上は特にそれ以上の関係は無いが、マルチサイトシステム、閉鎖空間等の要素が取り入れられているサスペンスという点で、作風自体は「infinityシリーズ」に非常に似通ったものとなっている。
infinityシリーズ監督である中澤工がほぼ同時期に携わった「ルートダブル」とともに、infinityシリーズを継ぐ作品の一つと見ることもできるかもしれない。

シナリオ自体は、本作の原案・脚本担当である関涼子による同人誌小説「デュナミスの羊」を原作としている。なお、本作のノベライズ版にはその小説が収録されている。
キャラクターデザインは後にChrono Boxで原画を務める長浜めぐみ。

あらすじ

「核箒星/ニュークメテオ」と呼ばれる泥沼の核戦争により世界人口が大幅に減少した近未来の世界。
出生率低下も伴って人材不足に喘ぐ日本政府は「デュナミス・ベース」と呼ばれる人工島に一貫校「セレス学園」を造成。未来の日本を担う優秀な人材の育成に励んでいた。

セレス学園に通う男子高校生・高槻東吾は、3年生の夏休みが明けても自分の進路を決めかね、将来を語り合う友人達に囲まれながらも無気力な生活を送っていた。
この学園島での変わり映えしない生活が輝かしい未来へと繋がっているのか疑問に思い、他者に疑問を問いかけても望む答えは得られずに終わる。

しかし、そんな彼の日常は徐々に壊れていく。
見知らぬ少女との出会い。日常の中に紛れ込んでいく異常。島に侵入した不審者の噂。突然意識を失う生徒たち。
やがて、学園島の異常は、惨劇へと姿を変える…

作品特長

「残酷」「グロテスク」を一切妥協しない、心の闇に迫るシナリオ

商品の固有ジャンル名にもあるように、本作はサスペンス要素が前面に押し出されている。
擬似的な閉鎖空間となっている絶海の孤島に聳え立つ学園を舞台に、破壊されてゆく日常、やがて起こる惨劇、そしてそこからの脱出を描いている。
シナリオのミステリー要素も豊富であり、作中を通して信じられるものが少ないため終始緊張感の漂うプレイ体験が楽しめる。
具体的な似た作風の作品として先ほど少し名前を挙げたinfinityシリーズの作品も挙げられる。

また見出しにもあるようにシナリオの残酷さやグロテスクな面には妥協が極めて少ない。
本作のCEROレーティングは特に購入規制のついていないD(17歳以上対象)であるが、全体的な作風の残虐性では素人目に見ればZ(18歳未満購入禁止)に指定されているコンシューマー向けADV諸作品(CHAOS;CHILD、AI:ソムニウムファイル等)と比べても遜色ないどころか、筆者は残虐さのアベレージは「DUNAMIS15」の方が上と感じたほど。
単なる死体や血の描写だけでなく腑を含む描写が存在する他、残虐・悪趣味系のアダルトゲームのHシーンから直接的な描写を抜いたような残酷な濡れ場シーンも存在する。
これらのシーンを構成するテキストはドライになることなく、つねに丁寧な筆致で描写される。

シナリオの緊張感や残虐さ、そこから生まれる非日常性の質は非常に高く、プレイ中は常にあなたを愉しませること間違いなしだ。

物語の深さを生むマルチサイトシステム

本作の主人公5人 (OPムービーより)

本作は5章構成であるが、各章ごとに異なった主人公の視点でストーリーが語られる。
第1章の語り手でゲーム全体でも主人公として立ち回るキャラクター・高槻東吾の視点からは各キャラクターの人間像はドライにしか語られない。その第1章では主人公の友人達として登場する2章以降の主人公達は、実際は腹に一物も二物も持っており他人に語る言葉と実際の思考・ホンネとタテマエには大きなギャップがある。
まず新章の始めでそのギャップに驚かされることになるが、それだけでなくシステムが作劇にも大々的に活かされている。ミステリーの部分にかかる論理構成に深みや立体感が増しているほか、このシステム自体にもシナリオ上のちょっとしたトリックが仕込まれている。是非プレイする際は注目してほしい。

超豪華声優陣による迫真の演技

本作の最大の特徴と言えるかもしれない。
何といってもこのゲーム、人によってはドン引きするレベルで豪華な声優陣が揃っている。
主人公・高槻東吾を演じるのはウィル・スミスの吹き替えで知られる一方アニメやゲームへの出演も非常に多いことでも有名なベテラン声優・東地宏樹。ぶっちゃけ直前に.hack//G.U.を遊んでいたのでパロディモードのヤバいオーヴァンのイメージで定着していたなんて言えない。あと吹き替えはマネーボールの印象が勝手にある。

女性キャラの声優も丹下桜や茅原実里といったトップ声優の名前があるが、中でも際立つのは島本須美の名前だろう。

同氏はテレビアニメなら「それいけ!アンパンマン」しょくぱんまん役、「めぞん一刻」音無響子役、劇場作品ならルパンの「カリオストロの城」のクラリスや、「風の谷のナウシカ」のナウシカなど凄まじいネームバリューの代表作を持つベテラン声優であり、このようなジャンルのゲームへの出演は非常に珍しい例である。
(ちょっとオタッキーかつ有名な作品への出演例だと、「らき☆すた」の泉かなた役がある。キャラソンも歌っていたりする)

同氏が演じるのは第2章の主人公・倭一花。
他の主人公達とも同い年(高校3年生)の友人である優等生の少女である。同氏はこの役回りを他のキャストと混ざっても全く違和感を感じさせないように演じ切っており、この事実を知っていてゲームを遊ぶのであれば「見事」という感想が溢れてくるに違いない。更には濡れ場に近い過激なシーンも第2章には存在しており、同場面では特にその実力が遺憾無く発揮されている。

また、他のキャストも特筆すべき点がある。

第4章の主人公・陸七生を演じる鈴木裕斗氏は発売当時21歳・プロデビューから3年しか経っていない新人であったが、その演技の迫力は他の豪華声優陣にも劣るものではない。
高校時代3年だけ放送部に籍を置きラジオドラマをちょっと作っていただけ、また氏の出演作2作を遊んだだけのド素人の筆者の分析であるためアテにするのは推奨されないが、氏の演技の特徴として「比較的平坦なトーンから絶妙な機微を繰り出すのが非常に巧い」というものがある。
この陸七生というキャラクター、ただチャラそうに見えて心の奥底ではだいぶ複雑なものを抱えているなかなか癖の強い人物であり、演じる側はなかなか難儀するであろうと予想された。
私も当初氏の名前こそ知らなかったもののそれなりに経験のある人物だろうと予想したのだが、いざ実際に名前を調べて当時のキャリアの浅さを知った時には驚いたものである。
そして、マルチサイトシステムという装置のもとで先に述べた演技の特性はこれ以上なく活かされている。今も特別名の知れた声優というわけでもないが、それでもなお他のベテラン声優達と並んで彼の演技の奥深さは注目に値する。

個人的に残念だった点

…などなど、いくつか良い点を取り上げてきたが、正直なところちょっと低評価せざるを得ない点も幾つかあった。あくまでソフトにという所を心掛けて紹介していこうと思う。

シナリオ面は手放しで褒められるところも先に述べたように多かった。が、責められる面も多い。
まず、第1章は個人的にテンポがあまり宜しくないと感じた。この序章は作品全体のテキスト量の30%を占めるほどの多さなのだが、比重は所謂日常シーンに傾いておりサスペンス的なシーンが占める比重は多くない。
勿論そんなつまらない日常が少しずつ歪んでいく様子を楽しむチャプターではあるし、実際章も中盤に差し掛かると穏やかでないシーンも少しずつ挟まれるようになっていく。
しかしながら、それにしてもちょっとそこに至るまでの日常シーンのテンポは好ましくないと感じる。物語がなかなか動き出さないため飽き始めた時もあり、危うく面白くなる前にリタイアするところだった。
そして個人的な最大の問題点は最終章の結末。ネタバレになってしまうため突っ込んで言えないのだが、それまで積み上げてきたゲームの雰囲気を台無しにしたとも取られかねない駆け足が過ぎる終わり方になってしまったと感じた所も少しあった。多少具体的に言うならば…それまで科学考証がそれなりにしっかりしておりSFとしての高いクオリティを感じたのにも関わらず、オチで唐突にオカルトに走ったのだ。本当にガッカリし、読後感も正直なところあまり良くなかった…

シナリオの評価について纏めると、ミクロ的な視点では非常に秀逸だがマクロ視点では粗末な点も目立ってしまう…といったところだろうか。

また、UI面はフローチャート・TIPS(用語集)機能搭載など優秀ではあったのだが、挟まれるとゲーム進行が止まってしまうシステムオートセーブが長い上に頻繁に発生する点や、メニュー等の呼び出しに時間がかかる点はいただけない。
また、そもそも一本道のアドベンチャーゲームではありがちな弊害なので仕方ないが、選択肢のゲーム性不足も不満だった。バッドエンドは少なからず存在するがフラグが立って分岐するものが無く、直前の選択肢で簡単に分岐してしまう物が殆どであり、それ以外の選択肢もあまり意味を為していないと感じた。

最後に

私がこのゲームを遊んだあと度々思っているのが、「この作品、当代一の傑作になるポテンシャルがあったのではないか…?」という感想である。
大それた感想だが、ここに至るまでの過程もある。
声優陣の豪華さもさることながらシーン描写の秀逸さ・迫力も優れており、また中盤までのシナリオ展開にも本当にワクワクさせられた。それ故に、個人的にはお茶を濁すような適当な物語のまとめ方になったのが本当に許せなかったのだ。一時期、「なぜこんなクソゲーになってしまった」と喚いたこともあった。

だがどんなに喚いたところで、本作が当代一の傑作にならなかったという事実は変わらない。
この形で出たということは、最終的にスタッフ達がこの形で出すのがベストであると判断したのであろう。ひょっとしたら、何らかの妥協もあったのかもしれない。

私は遊び終わったこの作品を咀嚼する過程で「これからはクソゲーとか、残念な部分のある作品を見つけた時も安易に叩けないだろう」と感じた。
そんな時期に丁度出会ったのが、映画解説者・評論家の淀川長治(1909-1998)のエピソードであった。

『解説者がひどい映画と言ってしまってはいけない。それは見る人に対しても失礼だし、作った人に対しても失礼だ。必ず褒めなさい。よいところが必ずどこかあるはずだから、必ず褒めて視聴者に勧めなさい。だから撮り直しなさい』

児玉清『寝ても覚めても本の虫』「淀川長治さんの言葉」
2007年・新潮文庫

これは俳優の児玉清が「土曜洋画劇場」の解説を務めた際、ある放送で取り上げた四流映画を正直に酷評した際、淀川から言われたとされる叱責の言葉である。
淀川はどの映画にも見所があるというスタンスを取っており、酷い映画でも一般人が見過ごすような良さを見つけては褒めたとされる。

DUNAMIS15は決してクソゲーではないのは、褒める箇所も非常に多く目立つから。読後感から悪い所をあげつらって非難したくなることも少なからずあったのだが、このエピソードと出逢ったことで自分の浅ましさを恥じた。
私も総合的な評価がどうしても低くなってしまう作品には多く触れてきた。
それでも全てをクソゲーという言葉で片付けてしまうとプレイヤーの自分を含めゲームに関わる全ての人に礼を欠くという可能性を思い知った。
もっとも私はそれが高じて「このゲームは史上最高の傑作になるポテンシャルがあった」と声高に主張するモンスターになってしまった。これではまともに批判的な態度で作品に対する批評を書くのは無理だ。結局のところ、そのスタンスもある程度のバランスが必要だろう。

何がともあれ、私が伝えたいのは「否定から入ること自体は悪くないが、そこで停止することは非常に危険である」ということだ。
私のこの作品に対する好意はただの酔狂かもしれない、それでも程度次第ではあるが貴方にそのような酔狂の気持ちがあるならば。それを大切にしてほしいというのが、私からの切なる願いである。
(文責:ウオハゲ)

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