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「遊ぶ」サスペンスドラマの新体験(作品紹介:428 〜封鎖された渋谷で〜/チュンソフト)

特記ない限り、本記事の全てのキャプチャー画像の著作権は引用元作品の権利保持者である株式会社スパイク・チュンソフトに帰属します。
©Spike Chunsoft Co., Ltd.

イントロダクション

いわゆるアドベンチャーゲームに含まれるサブジャンルのうち「サウンドノベル」というジャンル名は、実はスパイク・チュンソフトの登録商標である。

同社の前身の一つであるチュンソフトは1992年にサウンドノベル第1作「弟切草」を発売。その後は大ヒットしてテキスト系ADVゲームの代名詞とも言える存在になった「かまいたちの夜」、鮮明な実写ビジュアルと多数の主人公による画期的なマルチサイトシステムを導入した、カルト的な人気を持つ「街 〜運命の交差点〜」などを発売。


「街」PSP版
現行機でのリマスターが待たれる

特に「弟切草」「かまいたちの夜」はノベルゲームというジャンルの草分け的存在となり現代の美少女ゲームにも大きな影響を与えているが、チュンソフト・そして合併後のスパイク・チュンソフトはその権威に胡座をかくことなく現在に至るまで、「ダンガンロンパシリーズ(旧スパイク発祥)」「極限脱出シリーズ」「AI:ソムニウムファイル」など多数の傑作ADVゲームを発表している。

そんなチュンソフトが2008年に発表したサウンドノベルが、今回紹介する「428」である。
同作は発売から15年以上経った現在でも傑作として知られ、ニンテンドーWii公式のレビューポータルで最上位の評点を獲得するなど客観的な評価ですらエピソードに事欠かず、どれほどハイクオリティな作品かお分かりいただけると思う。

先程も名前に上がった「街」とは舞台・世界観やシステム面などで多くの共通点がある。
しかしあくまで本作「428」は続編ではなく独立した作品として作られたため、同作を知らない・プレイしたことがない場合はこの事実は一旦忘れてもらって構わない。

製品情報

対応ハード:Wii、PS3、PSP、PS4、Steam、iOS(配信停止)、Android
オリジナル版発売日:2008年12月4日
CERO:C(15歳以上対象)
開発元:チュンソフト
発売元:セガ(Wii)、スパイク(PS3/PSP)、チュンソフト(iOS)、スパイク・チュンソフト(Android/PS4/Steam)
定価:3960円(Steam)

作品概説

東京・渋谷を舞台とした実写ビジュアルのサウンドノベルゲーム。誘拐事件に端を発してとある陰謀を追うというサスペンスストーリーを、複数の主人公の視点から展開してゆく。
CVは無し。

複雑に絡み合い、
色々な表情を見せるマルチサイトシステム

主人公選択画面

本作は複数の主人公の視点からから物語を描く、いわゆるマルチサイトシステムを採用している。

それぞれの主人公は職業も、性格も、そして年齢も大きく異なっており、彼らが紡ぐシナリオはそれぞれ全く異なった印象をこちらに与える。
後述の通り同じ章の各主人公のシナリオは自由に行き来可能である。そのため、読んでいて飽きが来ない。サスペンス風味の強いシナリオ、暗い主人公が紡ぐものの突然ギャグを入れるようなストーリー、あるいは明るい主人公によるコミカルなシナリオも自由に行き来できる。
主人公はもちろんのこと各主人公が出会うサブキャラクターも、ゲームを起動して「会う」ことが楽しみになってしまい、終わってみたら会えなくなるのが残念に感じてしまうほどの魅力的な人物たちが揃っている。
そんなこんなで、まず序盤や中盤でダレることはないだろう。

しかし単純に視点を変えるだけでなく、各主人公のシナリオで選んだ選択肢が、別の主人公の分岐に影響することがある。
特に終盤では、5人以上の主人公を並行して正しく動かさないとバッドエンドに突入することがあるなど、時にかなり複雑な選択を要求されることも。

また、1人の主人公のシナリオをひたすら読み進めるだけではバッドエンドに突入するか、そうでなくても「KEEP OUT」の表示が出て読み進められなくなる場合もある。その場合は他の主人公のシナリオを開始して正しい選択肢を選ぶか、あるいは「JUMP」という機能を使って元の主人公のシナリオに移動する事で解放しなければならない(「街」や「EVEシリーズ」のザッピングシステムに相当する)。
このように単一の主人公だけでなく、複数の主人公全体で物語を読むことをゲーム側から強く奨められている部分が大きい。

なお、ゲーム中いつでも開けるフローチャート機能「タイムチャート」では読んだシーンが(ゲームの時間軸の)5分ごとに記録されており、ゲームの進行状況・選んだ選択肢の確認他のシナリオ・以前の選択肢への移動がシームレスに行える。これにより、読み進める制約が多い中でも退屈になることはない。

時に「楽しく」時に重いバッドエンド

そんな多数存在するバッドエンドだが、その一つ一つもなかなか個性的。
上の画像は、「とんでもない辛さを持つ自称ダイエットドリンクを無防備に飲んだ結果再起不能になる」という旨のバッドエンド。これは他の主人公のシナリオの読み進め具合によってフラグが立つとかなり序盤で分岐するものだが、中には

橘さんがなんか農家になっちゃったり。

マグロ漁船に乗るハメになったり。

なぜか大食い大会で優勝してみたり。

そんなサスペンスを放り出してあらぬ方向へ突き進むバッドエンドの面白さはなかなかのもの。
もちろん中には非常にシリアスなものも含まれる。

そんな多数のバッドエンドだが、単純に間違った選択肢を選ぶだけで分岐するものだけでなく、他の主人公のシナリオの進行具合やそこで選んだ選択肢によるものなど複雑なフラグ管理により分岐するものも多い。このゲームは選択肢式のノベルゲームでありながら、主人公たちの運命の糸が複雑に絡み合っている事実をある種の迫力と共に感じられるのである。

個性豊かなキャストによる名演

本作は実写スチルの撮影に際して、「実際に演技をしている様子を連写で撮影し、最も出来の良い一枚を採用する」という手法を採用している。
本作のキャストは職業俳優以外にもファッションモデルなど普段演技をしないタレントも多く採用されているが、この手法によって自由なキャスティングと迫力のあるスチルの表現が両立されている。
シナリオで描かれたキャラの個性を最大限に引き出すにあたり、非常に優れた手段であったと言えるだろう。

加納慎也(演:天野浩成)

最初からシナリオが解放されている主人公の一人である刑事・加納慎也を演じたのは天野浩成。「仮面ライダー剣(ブレイド)」の橘朔也/仮面ライダーギャレン役、そして最近は雛形あきこのド天然な夫として知られる俳優である。
一方、「最初の主人公」のもう一方で元チーマーの青年・遠藤亜智を演じた中村悠斗氏は元々ファッションモデルであり、他にも演技の出演経験はあるが専業俳優ではない。

遠藤亜智(演:中村悠斗)

このほか専業俳優以外の特筆される出演俳優として、バラエティTV番組「進ぬ!電波少年」の「電波少年的懸賞生活」で知られるお笑いタレントのなすび、またボーナスシナリオには声優の大塚明夫が出演している。

しかし、個人的に最も凄いと感じたのが撮影当時僅か12歳のティーンズ誌女性ファッションモデルであったティギー・ウィリアムス氏。
ネタバレになってしまうので詳しく触れられないが、本作のキーキャラクターを凄まじい気迫と共に演じ切っている。その迫力は是非本編でご覧になって頂きたい。

唯一無二のプレイ体験を形作る
名演出・名曲の数々

シナリオやスチルなど、ゲームの主要素をカッコよく魅せるための演出面や楽曲も、本作ではかなり強く考慮されている。
まず特筆されるのが、各章の全てのシナリオを終えると次章予告のムービーが挿入される点。
同様の演出は以前にこのアカウントでも記事をアップロードした「ルートダブル」でも存在したが、「428」では9章構成のため、4ルート構成の前者よりもムービーを見る機会が多く印象に残る。
またボイスやナレーションは挿入されないが同じメインテーマのBGMカット編集を全ての次章予告で使用するため印象は寧ろ引き締まり、実際にドラマを視聴しているような体験ができる。
またゲーム全編が完全にスチル(静止画)のみで構成されているわけではなく、要所では動画のカットが入ることもある。挿入されるシーンは厳選されており、ゲーム性を壊さず上質なプレイ体験を加えている。

BGMでは、多数の映画・ドラマの劇伴のほか「ふたりはプリキュア」「交響詩篇エウレカセブン」などのアニメの劇伴を担当した佐藤直紀、ゲームを中心にアニメ・映画・ネット配信など多方面での活躍が多い坂本英城という2人のコンポーザーによる名曲の数々がプレイを彩る。

挿入歌・主題歌に関しては、最初ツッコミどころではないかと感じてしまうポイントがあった。
主題歌は上木彩矢の「世界はそれでも変わりはしない」。仮面ライダーWの主題歌などで知られる同氏によるこの曲は作中で流行っているという設定にされており、着メロだったり街頭だったりで作中忙しなく流れる。
人によってはゴリ押しに見えてしまうかもしれないが、最後この曲が流れるエンドロールを見ながら、歌詞を意識して聴いてみると気がつけば泣き出してしまった。歌詞も楽曲も、フルサイズで聴いてみるとこのゲームに最高に似合った素晴らしいものになっているのだ。
可能なら是非、この曲で飽きを抱かないでほしい。いや、たとえ途中で飽きても、最後にはトップレベルで好きなゲーム主題歌になっているはず。

豪華スタッフによるボーナスシナリオ

本編を一定条件を満たしてクリアするとボーナスシナリオが解放される。
1つ目のシナリオは「殺戮にいたる病」や、先程も名前をあげたノベルゲーム「かまいたちの夜」などで知られる推理小説家の我孫子武丸によるもの。
本編のとある主人公の妹を主人公としたもので、分量自体は短いが評価は高い。

カナン編

2つ目のシナリオ「カナン編」は実写では無く二次元グラフィックになっており、「Fateシリーズ」「月姫」「魔法使いの夜」など数々の傑作で知られるゲームブランドTYPE-MOONが全面的に制作しており、基幹スタッフである奈須きのこと武内崇のシナリオ・グラフィックが個性全開で楽しめる。
しかし、本編と作風が大きく異なる点やグラフィックが実写キャストをあまりなぞっていない点があり、必ずしも高く評価なされているわけではなく批判も少なくない。
なお、カナン編は2009年夏に「CANAAN」のタイトルで単独でアニメ化されている。こちらは知っている人も少なくないはず。

おわりに

とうとう美少女ゲームと言うには難がありすぎる作品を取り上げてしまった。
しかし、このゲームは実写ビジュアルでありながらキャラクターの魅力は並のギャルゲーを遥かに超え、そしてプレイ体験はノベルゲームの究極形とも言うべき凄まじいものが実現されている。
ゲーム性の高さから普段ノベルゲームを遊ばない人にもオススメできるが、それだけではなく文字を読むノベルゲームの進行に慣れた人にはさらに遠慮なく勧められる作品になっている。

まさしく、これはただのノベルゲームではない。
この記事における私の肩入れから熱意を読み取っていただき、ゲームに興味を持っていただけたら嬉しい。

(文責:ウオハゲ)

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