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全てが白日の下に晒されるその時まで、貴方はこの残酷な真実から目を背けずにいられますか?(作品紹介:ルートダブル -Before Crime * After Days-/イエティ・レジスタ)

特記のない限り、本記事のすべてのキャプチャー画像の権利は引用元作品の発売・開発元であり著作権保持者である株式会社ヴューズ(ブランド名はイエティ)・有限会社レジスタに属します。
©︎イエティ/Regista


はじめに

創作物のストーリーにおける「伏線回収」という概念はここ十年ほどで急激に意識・重視される…というか、騒ぎ立てられるようになった気がする。(といっても筆者は若輩者でネットは10年強しか触れていない為正確なところは違うかもしれない)
以前からある用語だとADVゲーム用語由来の「フラグ」が伏線に比較的近い意味のスラングとしてオタク趣味のコミュニティで使われてはいたようだが、その前提を踏まえても「伏線」という作劇技術に関する用語が一般にも浸透してきている近年の風潮はかなり特殊なように思える。
その功罪…を議論するのは本題から余りに逸れるのでしないが、「その風潮のルーツはどこにあるか」という問いの答えとなると、どうなるだろうか。

個人的には…というよりいちノベルゲームオタクによるかなりバイアスのかかった偏った考え方なのだが、アニメ版「STEINS;GATE」の大ヒットにありそうな気がする…と考えている。
ゲームもそうなのだが…このアニメは今や本当に凄まじい知名度になった。
穴のない凄まじくクオリティの高い科学考証なり、個性的なキャラクターの魅力なり、その人気の源を探れば色々なファクターが見つかるが、なんといっても今作の凄さとして「伏線回収」を挙げる人は多い。私もそうだ。
最序盤から多くの伏線を複雑に張り、それらを最終盤で一気に回収していく、そのカタルシス。自分の見ていた物がひっくり返り、全てのデジャヴが体系的に繋がっていくその感覚に感動した視聴者/プレイヤーは数知れない。

そんな傑作「STEINS;GATE」(以下シュタゲ)だが、作風・スタッフが被っていることもあって、度々同作のルーツであると指摘される作品がひとつある。

それが、全年齢ビジュアルノベルの権威・KIDより発売された傑作
Ever17 -the out of infinity-」だ。

PS2オリジナル版
(ほか増補改訂版とXbox360リメイク版がある)
(投稿者撮影)

2002年に発売された同作は選択肢式のオーソドックスな「恋愛アドベンチャーゲーム」という媒体のもと、終盤での怒涛の伏線回収を含むカタルシスに溢れたシナリオや、媒体の特性を生かした大掛かりなトリックやメタフィクション的な試みなど多くの革新的な要素を取り込んだことで知られ、一般のビジュアルノベルファンだけでなく評論家からの注目も集めた。
移植僅少、特に現行機でのプレイが不可能であるため現在の知名度こそ特別高くはないが、それでもなお本作を「最も面白かった作品」として挙げるゲームファンは多い。
スタッフ陣には当時音楽プロデューサーとして主題歌制作に携わっていた、のちのシュタゲ/科学アドベンチャーシリーズ原作者・志倉千代丸、infinityシリーズと科学ADVシリーズの両方で劇伴音楽を担当した阿保剛がおり、またKID時代に「Ever17」のシリーズ続編である「Remember11」でサブライターを担当したのちシュタゲではメインライターを務めたシナリオライター・林直孝の存在など、「Ever17」と「シュタゲ」のスタッフの重複は多く、作風の共通点もファンからよく指摘される。

しかし、この「Ever17」の発売からおよそ3年後、開発・発売元メーカーであるKIDが倒産。本作に関わったスタッフも離散することとなった。
本作の監督・シナリオサブライターを務めた中澤工は、当時アダルトゲーム移植を発売していたメーカー・レジスタへ移籍。田中ロミオとタッグを組んだ「I/O」や、ゲームと並行したアニメ化など盛んなメディアミックスが行われた「Myself;Yourself」といったオリジナルADVゲームの制作などに携わった。

彼が原案・監督・プロデューサーを務めたレジスタのオリジナル作品3作目が、今回紹介する「ルートダブル」である。
レジスタ時代の中澤による監督作品はいくらか「Ever17」を擁するinfinityシリーズ特有とされた要素が見受けられるなど過去の作品からの影響が見られ、本作も例外では無い。以前投稿した作品紹介の記事に於いて「DUNAMIS15」をinfinityシリーズの後継作と言える作品と紹介したが、今作も同様の、あるいはそれ以上に繋がりが深いという見方が出来るかもしれない。

製品紹介

本作には3種類のバージョンが存在する。
・オリジナル版(Xbox360、PCパッケージ)
・Xtend Edition(PS3、VITA、Switch、Steam)
・Smart Edition(iOS/Android)

共通

ジャンル:SFサスペンスADV
レーティング:CERO:C(15歳以上対象)

オリジナル版(Xbox360、PCパッケージ)

PC版パッケージ(投稿者所有/撮影)

発売日
360:2012年6月14日
Win:2012年9月28日

一番最初に発表されたバージョン。
PC版は後述のXtend Edition発売後に新規OSにも対応した廉価版が発売されているがそちらもオリジナルバージョンとなっており、Xtend版のPCパッケージ版は発売されていない。

Xtend Edition(PS3、PSVITA、Switch、Steam)

PS3版パッケージ(投稿者所有/撮影)

発売日
PS3:2013年10月24日
VITA:2014年7月24日(DL専売)

オリジナル版シナリオ終盤テキストの一部改訂、ムービー演出の追加などをおこなった増補改訂版。シナリオの分量自体はオリジナル版とあまり変化がなく完全版らしさはあまり無いため、無理してこちらを買う必要はない。
Nintendo Switch版とSteam版は英語テキスト/日本語CVのみ。日本語サポートは無いため注意すること。
VITA版はダウンロード専売。海外ではSwitch版とともにパッケージ版も販売されている。

Smart Edition(iOS/Android)

価格
iOS:2000円

2017年リリース。Xtend Editionをベースとして開発されたスマホアプリ版。
後述の「SSS」が廃止され一般的な選択肢方式のアドベンチャーゲームとなっているほか、シナリオ分岐は最低限に削られている(本筋自体は変わらない)。
価格が他バージョンの中古相場と比べても安価で最も入手しやすいため、これから遊ぶ場合はこちらのバージョンが推奨される。

あらすじ

舞台は原子力研究・テレパシー研究が発達する架空の歴史を辿った近未来の日本。

西暦2030年9月16日午前6時19分、研究学園都市・鹿鳴市の郊外に所在する原子力生物学研究機構第6研究所:通称「ラボ」に於いて突如原因不明の爆発・火災が発生。
研究所地下フロアに取り残された研究員らの救助にあたってレスキュー隊「シリウス」が出動。
しかしその最中、シリウス隊長の笠鷺渡瀬が突如として得体の知れない「怪物」に遭遇。気がついた時には彼は記憶を失っていた。
同時刻。なぜか複数人の高校生がこの爆発事故に揺れる研究所に居合わせていた。

彼らに災難が降りかかる。
突如として閉鎖される地下フロアの隔壁。発令される「ケースN」の警報。それは、ラボに存在する原子炉のメルトダウンによる危機を表していた。

地下に残された人物は合計で9人。彼らは無事に地上へ生還することが出来るのか。そしてこの事故の裏に隠された衝撃の真実とは。
隔壁解放まで、あと9時間…

特長

優れたミステリー

印象に残るのでわざわざ言う必要は無いが、
このシーンは覚えておこう(√before編最序盤)

本作のシナリオは特にミステリーやサスペンスというジャンルで見た際に特に優れている。

infinityシリーズで存在した「巨大なトリック」や多数の伏線、そしてそれらを終盤に活用してどんでん返し、あるいは一気に伏線回収することによりプレイヤーにまたとないカタルシスを与える…という特徴を本作はものの見事に継承しており、infinityシリーズや他の打越鋼太郎・中澤工作品で味わった快感をもう一度体験することができる。
一方、逆に同シリーズ等を遊んだことがないプレイヤーはその入門編としてこのゲームを楽しむことが可能となっている。

本作は終盤に限らず、シナリオの要所要所で適時的に伏線回収が入り、自分の持っている認識が二転三転する衝撃のプレイ体験も味わえる。

「ADVゲーム史上最悪の舞台」

サスペンスとして見た場合も高いクオリティを保持している。

開発当時に発生した東日本大震災の影響で、本作は発売が危ぶまれたという。その原因の根幹をなしているのが、「メルトダウンが発生した原子炉を含む研究施設」を舞台とした攻めた設定である。
そんな攻めた設定のほか後述の科学考証の質の高さも相まってシナリオの展開に多くの制約がある中で、その環境を最大限に活かしてジェットコースターのようなスリル・テンポを持つプレイ体験が実現している。
この周辺はネタバレになってしまう点が多いので、詳しくは是非本編を遊んで体験して欲しい。

物語への没入を促すシステム面

ユーザーインターフェース面も非常に優れており、快適なプレイ環境とゲームへの感情移入を促す仕組みが両立されている。
特徴的なシステムとしてマップや用語集(TIPS)が実装されており、特に複雑な設定面の理解の助けに大いに寄与している。

そしてなんといっても特徴的な本作独自の分岐システム・「SSS」センシズシンパシーシステムを語らずには終われない。

センシズシンパシーシステム入力画面

本作はシナリオ分岐に際して通常の選択肢ではなく、その時々でプレイヤー≒主人公視点から見た登場人物への感情移入・信頼を1〜8の数字で数値化して入力するタームが発生し、それによって好感度の変動・分岐フラグの成立が発生する。
理解して慣れるまでは時間が掛かる。しかし慣れれば入力の仕方をいちいち考えることも含めて楽しくなってくるし、全くわからないなら攻略サイトで正解を見ても全然構わないので、とにかく理由は明かせないがこれを投げ出すことはしないで欲しい。
なお、この機能はスマホ版には実装されておらず通常の選択肢による分岐になっている。

クオリティの高い科学考証

OPムービーより

ジャンル名を「SFサスペンスADV」と名乗っている本作だが、その自称に違わず科学面の設定・考証も良く練られている。

先に少し名前が出た「STEINS;GATE」をはじめとする科学アドベンチャーシリーズでは、企画原案担当の志倉千代丸とシナリオライターの林直孝が制作にあたって物理やロボット工学などの専門書を読み込むなど、いわゆる文系人間ながらもかなり勉強した…というエピソードが語られている。

林  ホビーロボットを作るための本をドサッと社長から渡されまして、実際にロボットを作っている人の著作やロボット工学の専門書を10冊ほど、かなり読み込みましたね。

志倉  前作の『シュタインズ・ゲート』を製作した時からそうだけど、物理の本なんかを読み込んで、その中から要点としてまとまっているものを僕が選別して「じゃあ、これ読んでおいてね」ってドーンと林に渡す感じで(笑)

科学アドベンチャーシリーズ最新作
『ロボティクス・ノーツ』インタビュー第1弾!!
ダ・ヴィンチWeb/KADOKAWA
https://ddnavi.com/news/63529/a/
最終閲覧日:2024/4/2

…と質の高い科学考証を実現するにあたってスタッフが苦労したというエピソードは結構あるが、本作はこの苦労を少しユニークなソリューションで解決した。

それは、「Twitterのゲームファンに設定面の科学考証の一部をアウトソーシングする」という方法。

ビヨンド・コミュニケーション/BC

開発当時スタッフはTwitterで、「エンドロールに名前を載せる」と言う交換条件で一般のファンから科学考証にかかる意見・コメントを募っており、実際にエンドロールには協力したTwitterユーザーのハンドルネームが列挙される箇所がある。

エンドロールにおけるこの節は「科学考証協力」と「BC設定協力」の2節に分かれている。
BC(ビヨンド・コミュニケーション)は特にこのゲームでの根幹を成している超能力(テレパシー)のことで、特にこの能力周りの設定は一瞥すると少々突飛で現実と少し乖離しながらも、理屈の説明は多くの人が納得のいく穴の少ないものとなっている。

余談だが、このBCの根幹を成す理論的根拠のひとつとして、なんと作中では我が中央大学の研究チームが実験を行い2010年に発表された研究成果が引用されている。

当該シーン

研究成果自体の詳細は下記リンクに詳しい。

丁寧な人物描写

二人の主人公
天川夏彦(16)/笠鷺渡瀬(32)

シナリオのマクロ面の良さを述べてきたが、ミクロ的な視点、とりわけ登場人物ひとりひとりの描写に関しても本作はかなり力が入っている。

本作ではいわゆるマルチサイトシステムを採用し、年齢がひとまわり異なる二人の主人公の視点から物語を読み進めていく。
32歳のレスキュー隊長・笠鷺渡瀬を主人公とする√after、16歳の高校生・天川夏彦を主人公とする√beforeの二編が用意されており、それぞれ雰囲気は大きく異なっている。
前者「√after」は常に緊張感漂うサスペンスシナリオとなっており、バッドエンド分岐の数も非常に多く「街」や「428」同様にバッドエンドコンプリートを目指す遊び方が出来るほどになっている。
一方の「√before」は主人公が徐々に壊れていった日常を回顧する内容が多くなっており、緊張感のあるシーンもある一方コミカルなシーンも多い。
どちらのシナリオから遊ぶかは自由であり、その順番によって違う面白さが出てくることもあるかも知れない。なお参考までに、筆者は√afterを先に読んでから√beforeを読み始めた。

どちらを先に読むかの印象だけでなく、主人公の歳が大きく違うこともあってプレイヤーが社会人/大人か学生/子供かによってどちらの主人公に感情移入できるか…と言う印象も大きく変わってくる。ここも本作のマルチサイトシステムの面白い点の一つだ。

主人公だけではない。実はある普遍的なテーマを裏に抱えているこの作品では、ヒロインに当たる女性キャラ、更にはサブキャラクターまで他の登場人物にかかる描写も概して非常に丁寧であり、感情移入の余地も大いに存在する。
筆者は特に、主人公・天川夏彦の母親である天川美夜子博士(36歳・未亡人)に一時期かなり本気で惚れ込んでいた。本来歳上ヒロインの趣味って無いし経産婦とかもってのほかのはずなのに…

アホ毛がかわいいが魅力はそんなもんじゃない
ちなみに公式設定で凄まじい美人だったりする

ちなみに声優は関東圏の私鉄の駅自動放送や若作りの母親役でお馴染みの大原さやか氏。

まとめ

とにかく重大なネタバレが本当に多いゲームなので語りたくてもできないところが本当に多く、こんな記事で魅力が伝わったかこれを書いていてもまだ疑問に思っている。
だが知名度こそ少ないが本作の完成度は本当に高く、筆者はメディア露出が少ないことをプレイから半年経った今でも残念に思っているほど、その楽しさが印象に残るゲームなのだ。
スマートフォン版であれば非常に敷居も低い。是非、遊ぶことを検討して欲しい。

その時は、この記事のタイトルが何を示しているのか。考えながらプレイしていただければ、もっと嬉しい。

(文責:ウオハゲ)

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