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ようこそ、甘美にして凄惨な妄想科学の世界へ(作品紹介:CHAOS;HEAD/5pb.×Nitroplus)

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©MAGES./5pb./RED FLAGSHIP/Chiyo St. Inc.
©2008 5pb./Nitroplus/RED FLAGSHIP

本記事にはCERO:Z(18歳未満購入不可)相当のグロテスクな表現が含まれます。ご注意下さい。

イントロダクション

今回紹介する作品。
そのパッケージ裏には、こんな扇情的で過激なコピーが書かれている。

「CHAOS;HEAD」PC版パッケージ

「《現実》と《非現実》、
あなたは区別がついていますか?」

本作のテーマのひとつとして「妄想」という大きな概念がある。我々人間、とりわけここの記事を読むようなオタクのみなさんであれば夢想空想に耽ることはありふれたことだろう。
しかし、現実逃避などネガティブな理由でそれを頻繁にしているのであれば、精神衛生上よからぬことを引き起こすのではないだろうか…?
そんなテーマに向き合うのが本作である。

今の時代で見たらありふれたテーマかもしれないが、発売当時はどんな発想の源からこんなコピーが産まれたのだろうか。
もちろん世相もあっただろうが(とはいえ秋葉原通り魔事件は発生前だった)、スタッフ陣の辿った遍歴にもヒントを求めることができるかもしれない。心に負った傷など漠然としたテーマから本格的なSFや哲学にも向き合ってきたスタッフ陣が、本作には揃っていた。

かつて「KID」というゲームメーカーが存在した。

美少女ゲームのCS移植作の開発などを主に担っていた同社は1999年オリジナルタイトルとして、物語開始時点で既にこの世に亡いヒロインの存在やグッドエンドで死亡が匂わせられるヒロインなど全年齢対象作品ながら攻めた重く感動的なシナリオで話題を呼んだ恋愛ADV「メモリーズオフ」を発売。それを嚆矢として、既に恋人がいる主人公の「浮気」や「乗り換え」を主軸に扱った「メモリーズオフ2nd」、非常に前衛的かつ衝撃的な点を多く持つSFミステリーシナリオがゲームファンだけでなく評論家にも大きな話題を呼んだ「Ever17 -the out of infinity-」を筆頭とするSFADVシリーズ「infinityシリーズ」など多くの全年齢美少女ゲームのヒットタイトルを抱えていた。

しかし同社は2006年下半期に倒産。スタッフも離散する中で、KIDのゲーム作品の多くで主題歌制作を担当していた音楽プロデューサーの志倉千代丸が旧所属より独立し新たに立ち上げたゲーム/音楽メーカー・5pb.が多数のスタッフと一部版権を引き継いだ。
5pb.は旧KIDの旗艦IPであったメモリーズオフシリーズの制作・展開を引き継ぐ一方、アダルトゲームメーカー・ニトロプラスとの共同プロジェクトを立ち上げ、またそれまで音楽プロデューサーであった5pb.代表の志倉も企画原案に大きく携わることとなった。
今回紹介する「CHAOS;HEAD」は、後に「科学アドベンチャーシリーズ」と呼称されるその共同プロジェクトの最初のタイトルであった。
本作はKID倒産から比較的間もない時期から開発が進められ、スタッフ陣も旧KID所属もしくは関係の深いスタッフが多い。KID時代に外部から音楽プロデューサーを担当した志倉をはじめ、シナリオ実執筆を担当した林直孝とアートワークを手掛けた松尾ゆきひろは旧KIDスタッフであり、キャラクターデザイン担当のささきむつみは同社の旗艦IPであるメモリーズオフシリーズの立ち上げにアートワークの面で大きく関わっている。
一方、本作はKID作品にはなかった多くの新機軸も投入されている。

作品概説

製品情報

本作には、PCオリジナル版「CHAOS;HEAD」と増補改訂移植版「CHAOS;HEAD NOAH」の2バージョンが存在する。

PC版「CHAOS;HEAD」

PCオリジナル版
トールケースの廉価版もある

発売日:2008年4月25日
対応OS:Windows 2000/XP/Vista
レーティング:一般(15歳以上推奨)
発売元:ニトロプラス

一番最初に発売されたバージョン。
ルート分岐は限られ、ほぼ一本道のシナリオ。
下記「NOAH」発売後にPC版の廉価版も発売されているが、そちらもこのオリジナルバージョンである。

増補改訂版「CHAOS;HEAD NOAH」

Xbox360版パッケージ

発売日:2009年2月26日
対応ハード:Xbox360、PSP、iOS、Android、PS3、PSVita、Switch、Steam(以上発売順)
CERO:Z(18禁:Xbox360/PSVita)、D(それ以外)
発売元:5pb./MAGES.(右記以外)、スパイク・チュンソフト(Steam/Switch海外版)

オリジナル版にヒロイン個別ルートなど新たなシナリオや、BGM・主題歌を追加したバージョン。

しかし18禁になっているXbox360・PSVita版(以下Z版)と、全年齢購入可能になっているそれ以外のバージョン(以下D版)とでは内容に差がある。
D版はZ版から一部の残虐描写が削られており、「バッドエンドルート」と呼ばれるルートの内容が特にD版では非常に薄くなってしまっている。
このため遊べる環境が元からあればZ版を購入するのが推奨される。無ければD版でも一向に構わない。

あらすじ

西條にしじょう拓巳たくみは、引きこもり一歩手前の高校2年生。 「三次元に興味はないよ」と言い切り、部屋で大量の美少女フィギュアに囲まれて生活している。
彼が住む渋谷では、『ニュージェネレーションの狂気(通称ニュージェネ)』と呼ばれる連続猟奇殺人事件が起きていた。 その犯人はいまだ捕まっておらず、ネットやテレビを騒がせている。
ある日チャットをしていると、『将軍』と呼ばれる謎の存在から、 次のニュージェネ事件を予言するようなグロ画像が送られてきた。 翌日、拓巳は学校帰りに、まさに予言された通りの殺され方をした、凄惨な事件現場に遭遇する。
そしてその遺体の前には、血まみれの少女——咲畑さきはた梨深りみが立ち尽くしていた。

妄想科学ADV「CHAOS;HEAD NOAH / CHAOS;CHILD DOUBLE PACK」公式サイト
https://game.mages.co.jp/chaosdouble/
最終閲覧日:2024/5/28

作品特長

最強の非日常感を醸し出すサスペンス性

本作のシナリオはミステリー、サスペンス/サイコホラー、SF、恋愛、異能力バトルなど多くのジャンルや要素が内包されている。
とりわけ多くの人を強く惹きつける魅力の強いのがミステリーとサスペンス。

本作のシナリオは連続不可能殺人が発生している渋谷の街に暮らす主人公の視点で描かれ、徐々に壊れゆく「日常」を体感して主人公が恐れ慄き、重圧に押しつぶされそうな不安定な精神状況に陥りながら過ごす様子は、やがてプレイヤーの心や体をも緊張・恐怖・戦慄で満たしてゆく。

しかしながら、それは圧倒的な非日常感の裏返しでもあるのだ。筆者はこの作品を大学1年生の冬休み・かなり暇な時期にプレイしていたのだが、本来ホラー系の作品が得意でなくあまり好んで見向きしないのにも関わらず、その圧倒的な非日常感の虜になってしまい、寝る間も惜しんでディスプレイに向かっていた。

「妄想トリガー」で可視化する現実逃避

本作は分岐に関して他のアドベンチャーゲームで用いられる通常の選択肢ではなく、「妄想トリガー」という独自のシステムを用いる。

妄想トリガー入力区間

プレイ中特定の区間に入ると上のような画面に移行し、「ポジティブ妄想」「ネガティブ妄想」あるいはどちらも選ばないという3択を選んで読み進めると直後の展開が変化。
2種類の妄想の選択肢を選んでいた場合は、時にエッチで、時にコミカルで、時にシリアスな主人公の「妄想」がひとコマ描かれる。
この選択肢は作中に数十用意されており、そのたびに主人公の現実逃避を、その視点に入り切ったプレイヤーを巻き込んで映し出す。

そして、この選択はルート分岐にも影響する。なぜこのようなただの「妄想」が運命の分岐に関わるのか?それは本編で確かめて欲しい。

優れたミステリーの構成

ミステリーとして見た場合も、本作はそのシナリオに釘付けになってしまうような非常に優れたポイントが多い。
もちろんSFやそこから派生したファンタジーが無くはないため完全な本格ミステリになる訳ではないのだが、本作で発生する連続殺人事件「ニュージェネ」の各事件の猟奇性や不可能性はどれも人を惹きつけてしまうハイセンスさがある。
また、真犯人の判明に至る伏線構成も丁寧かつ大胆で、現在ライトなミステリファンである私もこの部分には輝かしい魅力を感じる。
その伏線は最序盤から既にある種の映像として掲示されるのにも関わらず、そこから真犯人を当てるのはかなり難しい。相当丁寧なプレイを心がけていても、9割9分の人はヒントに気づかないはずだ。

妥協の少ない残虐描写の数々

流血など序の口に過ぎない

作中に登場する連続猟奇殺人「ニュージェネ」各事件の内容はそのものがネタバレになってはいないのだが、その犯行内容の数々は思わず目を覆いたくなるほどの残虐さが満ちている。
それだけではない。作中ではその犯行の様子が克明に描かれるシーンも一部のルートで存在し、先述の通りプレイステーション系ハードに移植される際に所謂ソニーチェックで削られてしまった場面も存在している。
例えばスプーンで脳を…もう書いてきて自分でも恐ろしくなってきて悪寒が止まらないので具体的に書くのはやめておこう。

総評:荒削りながら全体的に高いクオリティ

これまで褒め言葉だけを並べてきたが、一方細かい視点で見たら少し粗い作りになっていると感じる部分もあるかもしれない。

中には後のシリーズ作品できちんと理由が語られる違和感も無くはない。それがこのシリーズの魅力でもあるところはあるものの、一方ヒロインの個別ルートは全体的にかなり短めであり、中にはかなり乱暴に感じる展開も含まれる。
ここは恐らく方向性をサスペンス/ミステリアドベンチャーとするか、もしくはギャルゲー然とした恋愛アドベンチャーに近いものとするか制作側でも葛藤のようなものがあった結果としてこうなってしまったのではないか、と邪推している。千代丸が影響を受けた元と俺が勝手に提唱しているEver17も中盤ダレるとかよく言われてたし(?)、実際次作シュタゲは遠慮なく個別ルートは短くなってるし…

一方全体で見れば完成度は非常に高い。
先程も述べたようにサスペンスやそれに纏わる残虐描写には制作側の妥協は無い。その点をはじめとして、ミステリーとしての完成度の高さ、いわゆる伏線とその回収によるカタルシスは他で代え難い高い完成度のものが実現しており、またボイスの付いている主人公を中心にキャラの魅力を描き切ることも概ね成功している。

グラフィック面も語るところは多い。
場面転換など細かいところでさえも、このゲームが一般的なエロゲ・ギャルゲと一線を画す存在であることを感じさせるほどだった。
共通ルート後半では美麗な3DCGアニメーションが流れる場面も存在する。そのクオリティたるや、PSV版では処理の限界で機器が落ちるそうな。
PS3版以降に新たに追加されたオープニングムービーも素晴らしい。ここまで派手にグロテスクで、それでいて美しい映像作品は少なくとも美少女ゲームという領域にはこの他に存在しないだろう。

劇伴・主題歌など音楽面もまた然り。
劇伴は発表時点で「infinityシリーズ」「Memories Off」で大きな実績があった阿保剛とニトロプラスの歴代楽曲を多く手掛けてきた磯江俊道が務めており、両氏の心動かされるようなBGMを存分に堪能することが可能だ。特に重要なシーンで流れる「Pity」「Real Link」の両曲は必聴。

主題歌やキャラソン周りも非常に力が入っており、OPテーマやEDテーマだけでいとうかなこ氏歌唱の楽曲が各バージョン累計で6曲ほど存在している。さらに個別ルートのEDテーマは全てヒロインのキャラソンになっている。
特に、榊原ゆいが作中に登場するミュージシャン「FES」に扮して歌う挿入歌・主題歌の数々も、シリーズ他作品に登場する楽曲も含めて必聴だ。

登場人物紹介

西條にしじょう拓巳たくみ(CV.吉野裕行)

本作の主人公。
私立翠明学園高校2年生・17歳。

キモオタでダメ人間。
実家は資産家で多くの不動産を持っており、父親が所有している「KURENAI会館ビル」という渋谷の神泉近辺にある雑居ビルの屋上に置かれたトレーラーハウスで一人暮らしをしている。
その生活実態は引きこもりそのもので、トレーラーの中の棚には数々の美少女フィギュアが置かれ、普段はそこでネトゲかエロゲの廃人プレイをし、ネトゲのリアルマネートレードで小遣い稼ぎをすることもある。学校は留年要件にならない出席数を確保した「最低登校シフト表」を組み、最低限の日数で登校している。
ニュージェネ第三の事件に巻き込まれたことをきっかけにその運命は大きく狂い始め、精神も追い詰められてゆく。

咲畑さきはた梨深りみ(CV.喜多村英梨)

本作のメインヒロイン。
私立翠明学園高校2年生。17歳
拓巳の前に現れた謎の美少女。
ニュージェネ第三の事件現場で初めてその姿を現し、返り血を浴びた格好で意味深な台詞を拓巳に吐いた。
その後しばらくして、まるでその姿とは別人のような雰囲気で拓巳の住むトレーラーに現れる。なぜか、拓巳は知らないはずの彼女の下の名前をすでに知っていたようだった。
その後は、拓巳を救うために様々な行動を起こしてゆく。


グランドヒロインであるが、トゥルーとは別に彼女の個別ルートもある。
短いながらも、何から何までとてつもなく濃厚なシナリオになっている。
トゥルークリアへの通過点として扱わず、心してかかっていただきたい。

西條にしじょう七海ななみ(CV.宮崎羽衣)

主人公・拓巳の妹。学校も同じで歳は1つ下。
兄に対しては少し小生意気な性格だが、実際は一人暮らしの兄のもとに頻繁に押しかけたりするなどブラコン気味なところを隠せていない。
好物はフィッシュバーガー。


2回行われた人気投票でどちらも1位を獲得した本作の人気ナンバーワンヒロイン。
作中の役回りはとにかく不憫という言葉に尽き、個別ルートも掛け値なしのバッドエンドである。しかし共通ルート終盤では彼女の強い面が明らかになり、その人気がただの妹属性によるものではないと理解できるはず。

くすのき優愛ゆあ(CV.たかはし智秋)

翠明学園高校3年生(拓巳の1つ上)。
歳下の拓巳も含め誰に対しても敬語を使う大人しく心優しい少女。
双子の妹・美愛がニュージェネ第一の事件「集団ダイブ」で殺されており、学校に出席せず事件の謎を一人で探っている。
拓巳と方向性が似たオタク趣味があり、妹の影響らしい。


個別ルートは人によっては本作で一番ディープかも…

蒼井あおいセナ(CV.生天目仁美)

翠明学園高校3年生。
一見男勝りで勝気な性格をした凛々しい雰囲気の美少女だが、実際は気弱でヘタレな性分であり表面上の性格は実際の自分を取り繕っているもの。ついでに子犬も苦手。
ある目的の為に学校に出ず毎日渋谷の街を徘徊している。
好物はガ○ガリ君ソーダ味。半ばアイデンティティと化しているほど。


共通ルートで明かされる上記の「目的」やそこに至る過去は本作の内容全体で見てもトップクラスで残虐。
一方個別ルートはバッドエンド風味もあるが全体的にヒロイックで熱い内容。
そして、本作に限らずシリーズ全体を跨ぐとんでもない伏線がラストに突然掲示される。驚いたプレイヤーは数知れず。

折原おりはらこずえ(CV.辻あゆみ)

拓巳のクラスに転入してきた少女。
低めの身長に童顔、ついでにドジで泣き虫。ルックスや仕草の愛らしさから異性の評判は良いが、同性からの評判は最悪。
故郷は瀬戸内らしいがそこでとあるトラウマを植え付けられ、その引き金となる鏡を見ると動けなくなってしまう。
セナは東京に来てから初めての友人らしい。


個別ルートは非常にグロテスクで、製作陣曰くCEROレートがZになったのは主にそのルートの影響らしい。一方D版でも特に内容は削られていない。

岸本きしもとあやせ(CV.榊原ゆい)

翠明学園高校2年生。
若者の間で人気を集めるバンド「ファンタズム」のボーカリスト「FES」を務めている。
寡黙かつ妖艶な雰囲気を放つ長身の美少女だが、発言内容は極度の中二病の拗らせ方をしており、まともにコミュニケーションを取れる人物は非常に少ない。
何故か初見で拓巳のことを気に入っているが、その真相は…


「ファンタズム」は以降のシリーズでも設定が存続しており、担当声優の榊原ゆいは「FES」名義で各シリーズ作の主題歌を多数歌唱している。
個別ルートの内容はバッドエンドの風味が最も少ない。

あとがき

どこまでネタバレとすべきか悩ましいところがあり、特に登場人物紹介はその煽りを受けてしまっている。

改めて端的に言えば、このゲームは色々な要素が内包されているのでグロテスクさえ耐えられれば様々な人に刺さるのではないかと私は考えている。
Steamセールで安く手に入る機会も多いので、ご興味があれば手を出してみてほしい。

(文責:ウオハゲ)

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