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傑作「恋愛ADV」、その真実をまだ知らない貴方へ贈る記事(作品紹介:Ever17 -the out of infinity-/KID)

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©MAGES.

はしがき

夏コミ、無事に終えることができました。
まさか本当に完売になるとは夢にも思っておらず、嬉しい限りです。
お買い上げいただいた皆様、お世話になったメンバー・会外の方、すべての方に深くお礼申し上げます。
もしかしたら忘れないうちに次代幹部への引き継ぎ文書を兼ねたコミケレポート記事を書くかもしれません。そちらもお楽しみいただければ幸いです。

さて、SteamにつづきFANZAのサマーセールもとっくに終わってしまいましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?(最悪な時候の挨拶)
ちょくちょくnoteの更新を気の向くままに再開していこうと思います。
あっ、冬コミも申込完了です。当選したら今度は自由寄稿中心を予定。宜しくお願いします。
なお、冬コミに発行予定の新刊では他大学の方や当大学OBなど、会外の方からの寄稿も考えております。依頼の方は検討の末のちのちXにアップロードする腹積りです。話が上がりましたら是非お気軽にお声掛けください。

イントロダクション
〜まだEver17を知らない君へ〜

あなたは!

なんて!!

幸運なのだろう!!!


まだEver17を遊んでおらず、これからその究極のプレイ体験による快感を味わうことができるなんて!!!!

おふざけが過ぎて茶番に見えても仕方ない書き方だが、私からしてみれば本当に羨ましくて仕方ない。
当時まだギャルゲー初心者の域を出なかった私にとって、このゲームが私の心と脳にもたらした快楽と衝撃は天体衝突より激しく、送電線に感電するよりも痺れるような、そんな凄さがあった。

その「凄さ」の全貌を解説することは残念ながらこの記事では不可能、それどころか数割を紹介するのも難しいのだが、是非興味だけでも持って頂ければ幸いである。

商品情報

開発元:KID
発売元:KID(左記以外)、サクセス(PS2廉価版)、サイバーフロント(PSP/XBOX360)、5pb.(PCDL版)
CERO:C

本作には3つのバージョンが存在する。

オリジナル版(PS2/DC)

PS2オリジナル版

対応ハード:PS2、ドリームキャスト
発売日:2002年8月29日

最初に発売されたバージョン。
後述の改訂版と比べるとCGは若干不足しているが、特段気になる程でもない。
PS2かドリキャスをお持ちの場合、改訂版よりこちらの方がかなり安上がりな場合も多いので妥協も推奨。
筆者はPS2版のこのバージョンを購入し、1650円だった。(2023年購入当時のレートであることに留意)

改訂版「Premium Edition」
(PC/PS2/DC/PSP)

PC版廉価版(Vista対応)

対応ハード:Windows/PS2/ドリームキャスト/PSP
オリジナル発売日:2003年5月26日

PC移植にあたってCG追加などの増補改訂を行なったバージョン。後にCS逆移植も行われており、KID倒産後の2009年にはサイバーフロントからPSP版が発売され新たに用語集機能も搭載されている。

リメイク版(XBOX360)

対応ハード:Xbox360
発売日:2011年12月1日

タイトルからはサブタイトルが抜かれており、名称は単に「Ever17」。
シナリオの大幅な改訂や背景画の刷新、立ち絵の3DCG化などをおこなったリメイク版。
特にシナリオは中弛みする箇所を完全に除去し、最終盤に関わる追加シナリオ等が追加されるなど大幅な改善が図られているが、プレイ時間のボリュームが20時間程度に減っている点は賛否が分かれている。
現在中古価格は軽くプレミアがついており、入手は比較的困難である。

作品概要

本作は、2002年にKIDより発売された恋愛アドベンチャーゲームである。
2000年に同社から発売された「infinity」およびその完全版である「Never7 -the end of infinity-」のシリーズ続編として制作された作品だが、ほぼ世界観を共有しているのみでストーリー上の繋がりは無く、本作単独でプレイできる。
前作今作と、後にKIDより発売された「Remember11」(と倒産後にサイバーフロントより発売された「12Riven(別シリーズ扱い)」「Code_18」)と併せて「infinityシリーズ」を構成している。

特にシナリオ・打越鋼太郎、監督及びシナリオ・中澤工、そして市川和弘プロデューサーが制作に関わったRemember11までの三部作を指して使われることも多く、特にその中核を成しているのがシリーズ最高傑作と称される本作「Ever17」である。
ジャンル名は当初「恋愛アドベンチャー」を名乗っておりゲームとしてその体裁も取っているが、のちの移植では「SFアドベンチャー」などと説明される場合もある。

あらすじ

2017年、春。

どこにでもいそうな大学生、倉成武が訪れたのは、海中にあるテーマパーク“LeMU”。武はそこで発生したとある事故に巻き込まれ、LeMUに閉じ込められてしまう。

取り残された1人であるシステム・オペレーターの“空”は、LeMUが水圧で圧壊するまでの時間を告げた。

 約170時間17分――。

救援が絶望的な中、武は謎の少女・つぐみや案内員の優たちとともに、地上へと脱出する方法を求めてLeMUをさまよう。

青く神秘の海底に沈んだ、夢と希望のテーマパーク。そこにまだ、夢と希望は残っているのだろうか? それともまだ、何か別の謎があるのだろうか。


その答えは、“あなた”が知っている――。

Xbox360版「Ever17」パッケージより引用

作品特長

手の内は明かせないが…

この作品、あまりにも重大なネタバレの塊であり、紹介する際にその手の内を明かすことに非常に難儀する。
ただ、このゲームの凄い点を挙げるとすればシナリオのネタバレについてそのように説明される、「叙述トリックなどによるどんでん返しを含むミステリシナリオを、ビジュアルノベルという媒体の特性を活用して完成させたギャルゲー」という括りにおける最初期のヒット作と表現できることだ。
事実上の後継メーカー「MAGES.」による幾つかの作品、具体的には「CHAOS;HEAD」や「STEINS;GATE」を中心とする科学アドベンチャーシリーズの作品群には本作を中心にinfinityシリーズから影響を受けたとおぼしき面も強く見られる。
また、同社の基幹シリーズ作「メモリーズオフ」の8作目「Innocent Fille」でシナリオを担当し、他社ではシナリオ特化型ソーシャルゲームのはしりとも称される「チェインクロニクル」にも深く携わったシナリオライターの下村健氏は本作から受けた影響をたびたびSNSで公言している。
同メーカーの作品に限らず同じようなシナリオの特性を持つ美少女ゲーム作品は現代に至るまで非常に多く制作されているが、本作はまさしくそのパイオニアなのである。

数々の追随作品、
されど現在まで破られない
とある「先見性」の存在

しかしながら、それだけにとどまらず本作には特別なポイントが存在する。先述のように叙述トリック、とりわけギャルゲー・ビジュアルノベルという媒体の特性を活かしたトリックやソレにまつわる演出には構成においてこれの追随者…悪い言葉で言ってしまうと二番煎じ…という作品は非常に多いのだが、そればかりか本作には同じ媒体におけるフォロワーの少ないとある「先見性」溢れるシナリオ展開が含まれている。
追随したと思われる、あるいはそのような形になっている作品について具体的な作品名は著名な作品も含めて挙げることも出来る…のだが、恐らく本作と例示作品双方に重大なネタバレになってしまうのでここでの名言は避ける。
ただ、そのやり口は荒削りながらも発売当時から評論・批評でも驚きをもってよく取り上げられたものとなっており、きっと貴方にとってもプレイしていてどこか興奮するところを形作ると思う。私も上手にノセられてしまったのだ…

冗長・拙い展開、されど

そして本作のもうひとつの特徴として。
とにかく冗長だったり、拙いシナリオ展開も少なからず存在してしまっているという点がある。
例えば登場人物たちは圧壊寸前の海底施設に閉じ込められている一方で食糧の危機には特段瀕してはおらず、パニック・サスペンス要素の演出には失敗している。とりわけこの部分にかかり冗長に感じてしまうシナリオ展開も多く、また各ルートの間には重複する場面・展開も多く存在する。退屈で緊張感に欠けるシーンを、本作はダブル主人公制にも関わらず視点を変えたところで繰り返されてしまい余計に退屈に感じることもあるだろう。
さらにヒロイン「小町つぐみ」の魅力の演出は拙く感じる場面が特に後述の「少年編」に多く、とりわけ彼女の個別ルートをプレイしたタイミングによっては作品プレイ中を通して彼女の好感度が乱高下を繰り返す場合すらある。

しかし、そこを計算のうちに入れているのがこの作品の本当に恐ろしいところである。
プレイを終えて、そのように無駄に感じたシーンの半分以上に意味があったと知らされてしまい、ミステリー部分の伏線回収との相乗効果によって凄まじい衝撃を受けたのを今でも覚えている。
そこで何を感じ取ったのか…ということに関しては、プレイ中漠然とでもいいので正直に覚えておいて欲しいところだ。その記憶は終えた時に宝物に変わるかもしれない。

巧妙なミスディレクションの数々

以上のようなものを一例として。本作はありとあらゆる手段を使ってプレイヤーをミスリードへと誘い込む巧妙なミスディレクションが数多く存在している。

その中には、シリーズ前作「Never7」をプレイした人にのみ特に伝わりやすくなっている、ある重要なトリックについての誤認誘導が含まれている。
Never7と今作は独立したストーリーとなっており僅かに世界観設定上の繋がりがある程度であるが、実は両作のシナリオ上のミステリーに於いては非常に類似したトリックが一つ用いられている。しかし種明かしのタイミングに大きく差があり、またトリックの目的などの本質はともかくとして中身自体の相違も多い。ここが、Ever17をプレイする前にシリーズ前作を遊んだ人に対して非常に巧みに働くのである。
ちなみにシリーズ次作にあたる「Remember11」に於いても、このようなシリーズ既出トリックの捻りによるミスディレクションの構成は上手くハマっている。可能であれば、infinityシリーズは発売順にプレイすることを強くお勧めする。

「ゲーム」としての本作を彩る
名劇伴の数々

シナリオの話ばかりしてしまったので、それ以外の部分の話をしておきたい。

ゲームシステムとして単純過ぎるとしてビジュアルノベルというジャンルは槍玉に挙げられることも多いが、そのゲームとしての特性は挙げようとすればいくらでも挙げることができる。
筆者が考えているうちの一つが「映像媒体よりも劇伴の重要性が占めるウエートが高くなる」点だ。ノベルゲームは本と同様、受け手側に物語を読み進めるスピードに自由な裁量が与えられており、また画面としての動きも多くはない中で、受け手の感覚の中でCVや効果音・環境音、そしてBGMといった聴覚情報が占める割合は他の媒体よりも必然的に高くなる。
時には文章だけでは説明が不足してしまう点も出てくることがあるが、場面に併せた劇伴はそれをも補える力を持ってくる。
言いたいことを纏めると、ただでさえ大きい「音楽の力」を、ビジュアルノベルという媒体では更に遺憾無く発揮させることができる…といったところだ。

そんな凄まじい力を持った「ビジュアルノベルの劇伴」。
その全てを知り尽くしていそうなクリエイターが、かつてKIDに所属していた。

そう、阿保あぼ たけしである。

KID時代より様々なアドベンチャーゲームの劇伴音楽を担当、現在はKID倒産後に事実上の後身メーカーと見なされているMAGES.に所属し、科学アドベンチャーシリーズなど同社の様々な作品で劇伴音楽を担当している、「ADVゲームの劇伴の何たるかを知り尽くしたプロフェッショナル」こそ、彼のことだ。
ゲーム作品から更にノベルゲームなどのADV作品に限定しても、ざっと数えただけで40ほどの作品に劇伴コンポーザーとして参加しており、経験という面では素人目に見ても桁違いのものを感じられる経歴となっている。

本作はそんな彼の、とりわけ最高傑作としても取り上げられることがある一曲が収録されている。
それが「Karma」だ。

この曲はタイトル画面、そして作中に3つほど存在するバッドエンドのシーンで流れるBGMであり、哀愁漂うピアノの戦慄が曲の最初から終わりまでを通して印象的なものになっている。
ただタイトル画面で流れることを考えるだけでなく、起動時やゲームを中断した際など頻繁にその画面に戻ってくることを考慮し、この曲が完成したという逸話が存在する。
美少女ゲーム初心者だった私がこのエピソードを知った時、かなり唸らされた。まだギャルゲーマーなりたての頃はビジュアルノベルというゲーム媒体を疑問視していたところが少なからずあり「そのようなゲームでもスタッフの綿密な連携と計算のもと作られている」と、このエピソードで具体的に感じ取ったところがあったからだ。

…などなど、本作はビジュアルノベルという媒体を最大限活かして、わたしたちプレイヤーを本気で楽しませるための数々の仕掛けがシナリオ上に限らず「ゲーム作品」全体に散りばめられており、その範囲はなんと取扱説明書にまで及ぶ。プレイする際はゲーム画面はもちろんのこと、開始前には説明書のキャラクター紹介ページを読んでみるなど、色々なところに注目して遊んでみて欲しい。

登場人物紹介

ダブル主人公で、攻略対象ヒロインは5名。
そのうち小町つぐみと茜ヶ崎空は倉成武編の攻略対象、田中優と松永沙羅は少年編の攻略対象である。武編から攻略することが推奨されており、一部バージョンでは武編を攻略しないと少年編に突入できない仕様になっているものも存在する。
4人攻略後、グランドルートにあたる八神ココ編が解放される。ココ編はどちらの主人公のルートからでも突入可能。

主人公

倉成くらなり たけし(CV:保志総一朗)

主人公の一人。大学3年生。20歳。
大型連休にLeMuに友人と遊びに来ていたが施設入場の際にはぐれてしまい、そのまま圧壊事故に巻き込まれてしまう。
熱血漢な節があり、ヒロイン達を助けるために時に命懸けで奮闘する。

少年(CV:???)

主人公の一人。外見年齢は14〜15歳くらい。
どういうわけか自分の名前を含め記憶を失ってしまっている身元不明の少年。
LeMu園内を途方に暮れて漂うように居たところ、そのまま事故に巻き込まれてしまった。


少年はCVが伏せられている。ちなみにシリーズ前作のNever7でもヒロインの一人で素性不詳のキャラクター・樋口遙の声優が伏せられていた。

小町こまち つぐみ(CV:浅川悠)

17歳。黒ずくめの服装をまとった経歴不詳の少女。
語りたがらず・馴れ合い嫌いのニヒルな性格で、時には自棄的な言動すら見られる。他の生存者たちとの協力を拒むこともある。


人によっては作品を通して好感度がジェットコースター並みに上下を繰り返す、そんなヒロイン。
もちろん制作側の考えあってのことなので、どうか最後まで彼女の事は嫌いにならないでほしい…

茜ヶ崎あかねがさき そら(CV:笠原弘子)

24歳。LeMuの開発部主任代理として保守管理などの職務をおこなっているシステムエンジニアの女性。
曰く人手が足りない時は案内係に駆り出されるらしく、武とココが入場する際にも案内をしており、そしてそのまま事故に巻き込まれてしまった。


人によっては性癖が壊れてしまうかもしれない危険性を秘めているヒロイン。自分もニッチな属性を目の当たりにして「あぁ…そういうのあるんだ…わかる…」と思わず勉強になったような感想になってしまった。詳細はゲーム本編で。

田中たなか 優美清春香菜ゆうびせいはるかな(CV:下屋則子)

18歳。鳩鳴館女子大学教養学部人文科学科1年。
LeMuではアルバイトスタッフとして来ており、勤務中に事故に巻き込まれた。
あまりにも長い名前は親による寿限無のそれと似た産物であるらしい。普段は相手に「優」と略して呼ばせるか、親しい人には「なっきゅ」という渾名で呼ばせている。


このキラキラネーム、恐るべきことにスタッフによる産物ではなく、監督の中澤工がネットの名前検索サイトで見つけたもので、どうやら実在するものらしい。世界は広い…

松永まつなが 沙羅さら(CV:植田佳奈)

16歳。鳩鳴館女子高等学校2年生。
優の高校時代の同じ部活の後輩で、彼女からは「マヨ」と呼ばれている。
ハッキングに関する知識が異様に優れている。
武編には登場しない。


演じた植田佳奈氏は現在でこそ多くの主演級出演作品を持つ著名な声優であるが、この作品を演じた当時はキャリア1年程度のド新人であった。ちなみに奇しくも後にFate/SNで共演する声優が二人もおり、ラジオなどの場でネタにされたことも。

八神やがみ ココ(CV:望月久代)

本作のグランドヒロイン。
14歳。公立中学校3年。
武をして「電波系」と言わしめるほどエキセントリックな言動を繰り返す少女。
ピピという愛犬を連れている。


本作のシナリオライター・打越鋼太郎氏はこの2〜3年前に手掛けたシナリオ初仕事「メモリーズオフ」で個性的過ぎる主人公を作り上げて叩かれた経験があるらしく、個性的な主人公を作らなくなったらしい。その結果がヒロインへの「個性」の発散だったのか…?

おわりに

本作、現在はとにかく遊びにくい。

3年ほど前に突然DMMでのPCDL版の販売が終了してしまい、現在プレイするには古いゲーム機を引っ張り出すか、それが無い場合はプレミア価格がついたPC版パッケージを買う必要があり、なんだかんだで1万円かかってしまう…
しかし。時にそれだけの出費をしてでも、
いや、親兄弟を質に入れてでも
美少女ゲームファンのあなたが本作をプレイする価値は、十二分に存在すると私は信じている。
ひとたびプレイすれば、貴方の視界はこれまでとは桁違いの広がりを見せること請け合いだ。目が冴えるようなこの作品の真髄を、是非貴方にも心ゆくまで楽しんでほしい。

そう、何度でも言おう。
まだ遊んでない奴は!
とっとと!親兄弟質に入れてでも買え!


なお読者の貴方が中央大学在学者の場合、入会していただければPC版をお貸しできます。是非お気軽に当会XのDMへお問い合わせ下さい。

(文責:ウオハゲ)

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