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アナザーヒル〜第2話

第2話「岡田正紀」

どうして私のようなごく普通の会社員が突然別の世界に連れられてしまったのか全く分からなかった。
しかし今私はこの星のこの場所にいる事が何やら懐かしいような気さえしている。

それまで私は”岡田正紀”個人でしかなかったが、ここで目の前の異星人と話していると、何やら岡田正紀ではない別の私が本当にいるような気がしてきた。
しかし一体どういう事だろう…。
そもそも私岡田正紀が、こんな非現実でバカげた話を真に受けたり受け入れられるはずは無いのだ。
今までの私に限ってそんな事はあり得ない。

私は幼少の頃から用心深く、とにかく失敗する事を嫌い、自分にとって間違いのない選択、妥当な選択をするよう常に心掛けていた。
高校は市内トップの公立の進学校に進み、常に様々な情報を精査する性格から大学は総合情報学部に入り、統計学や経済学、コンピューター関連の情報技術を中心に学んだ。
IT系の情報通信サービス企業に就職し、電話やネット、実地アンケートでの調査員からスタートして現在はビッグデータのシステム開発事業で管理職についている。
ビッグデータ市場は国内でも近年平均30パーセント程の伸び率の急成長の市場で、これからの私達の生活に欠かせなくなり、また経済そのものの仕組みや私達の意識さえも変えてしまう程の情報の産業革命と言われている。
私自身、世界の未来にとって重要となる仕事の一端についているという自負や誇りは持っている。

それにしたって私は週5日決まった時間に出社して日々の業務をこなし、会社から給料を貰って生計を立てているごく普通のサラリーマンだ。
会社を通して社会的に影響のある仕事をしているとしても、私個人が世界に対する影響力があるとは到底思えない。
地球でこれからおきる未曾有の大問題など、私の手に負えるはずがない。

社会問題に対して興味はあるが、どうしてそうなっているのかを分析するのが好きなだけで、問題解決に向けて積極的に働きかける意欲やボランティア精神のようなものは持っていないし、
世の中をどうにかしたいなどという志を持った事など無く、どちらかというと蚊帳の外から社会を観察してきたような人間だ。

とにかく慎重派で分析して納得しないと安心できない私は、直感的な推測や思い込みで適当な言葉を無責任に放って愛だの友情だの言って人生を楽しそうに謳歌しているタイプの友人は皆無に等しかったし、
勿論そんな人間に女性の縁があるわけもなく、もうすぐ40になるというのに独身だ。
家庭を持つ経済力はあると思うし、親に急かされた事もあって一度婚活パーティーなるものに足を運んでみた事もあるが、目の前の女性の雰囲気や性格よりも、プロフィール資料からの情報分析をしている自分に気付いて結婚は向いていないと悟った。
そもそも私は自分が様々なデータを元に比較検討して導き出した結論や決定をその場の感情でいとも簡単に変えてしまうような女性という生き物が苦手だし、付き合っていける自信がない。
女性を最もイライラさせる、筋金入りの理論派タイプなのだ。

そんな私が突然異次元に連れ去られ、異星人を前にしてこの状況を受け入れ、
懐かしさと共に”岡田正紀”ではない自分を思い出そうとしている…?
そんな事はあり得ないのだが、私は困惑するどころかとても冷静でいて、
そんな自分に気付いている…。

これは一体どういう事なのだろう…。

第3話「マルドゥク」へ続く。
https://note.mu/galaphix/n/n1f4daea3209e

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