見出し画像

アナザーヒル〜第1話

第1話「丘」

あの丘に登ったらどんな景色が見えるだろう。
そんな気持ちになったのは随分と久しぶりの事だった。
仕事の転勤で引っ越してきて早4ヶ月。
新しい職場にも慣れ、気持ちに余裕が生まれてきていた。
1人でも入れる居酒屋、コロッケの美味い肉屋、日曜の朝の青空市、夕方には犬の散歩が行き交う小川、いつもどもり気味のコンビニ店員…、
そろそろ自分もこの街の一員になったような気がしてきて、用もなく散歩に繰り出すという、私にしては珍しい行動に出た矢先の事だった。

教会と幼稚園と公園がセットになった独特な雰囲気の町の一角を抜けると、急に景色が開けて田畑が広がり、その畑の間の農道の先に小高い丘が見えた。

いつもはそんなところに立ち入ろうとは思わないが、突然開けたのどかな風景にノスタルジーと童心をくすぐられ、
気付けば私はアスファルトの歩道から土の農道へと足を踏み入れていた。

一瞬とまどって周囲を見回したものの、散歩のコースとしては別におかしくないだろうと、私は丘へと向かった。
少し急な傾斜の土の坂を登り、雑草の生い茂った丘の上へ。
するとそこには思いもよらない衝撃が待っていた。

男が1人、まるで私を待ち構えていたかのように身体を私の正面に向け、あぐらをかいて座っているではないか。
そしてようこそと言わんばかりの眼差しを私に向け、口元に微かな笑みを浮かべている。

私は戦慄し、言葉を失って硬直してしまった。

数秒間の沈黙の後、男が口を開いた。

「Nice to meet you」

私は思わず「英語!?」と突っ込んでしまった。

すると突然男の周囲にモヤのようなものが現れ、それがどんどん広がると共に周囲の景色が歪み始めた。

これはやばいと感じた私は瞬時にその場から立ち去ろうと踵を返すと、
そこはそれまでの世界とは全く別の異様な世界に様変わりしてしまっていた…。

黄金色の空、地上5mほどの低い位置にある雲、見た事もない植物達、色とりどりの三角屋根の建物達、空にはいくつもの不思議な白い光がその光の強さを変えながらゆらゆらと浮遊している…。
地球上では考えられないような、全くの異次元世界が広がっていた。

私は男の方を振り返った。
さっきまで同じ日本人のようだった男の姿も完全に変わっていて、獣のような人のような、青色の肌の生物になっていた。
服は和服のような、北欧の民族衣装のようなボリューム感のあるベージュの羽織を着ていて、見たことのない模様が入っていた。

彼は私にニッコリと微笑みかけると、私の頭のなかにダイレクトに話しかけてきた。

「安心してください。私はあなたの友達です。あなたは選ばれてここに招待されました。」

驚いたものの、どういうわけか私は彼が本当の事を言っていると分かり、この状況を受け入れようとする気持ちが湧いていた。
そして私の口から出た言葉は自分でも驚く程率直なものだった。

「どうして私がここへ?」

彼はニヤッと笑い
「ご案内しましょう。どうぞこちらへ。」
と、右奥手に現れた三角屋根の黄色い建物を示した。
私は不思議と不安がなく、むしろある種の期待感のようなものを感じ、彼に連れられその建物へと入った。

建物の中は驚くほどシンプルだった。
モンゴルのゲルのような作りで、円柱状の土壁にテーブルや棚、椅子、何かの機械、器具が必要最低限置かれている様子だった。
「どうぞ座ってください」
私はローテーブルを挟んだ低めの椅子に座り、彼も対面に座った。

「早速ですが…」
彼は話を切り出した。

「私はあなた達の世界でこれから起こる事について少し知って欲しいと、知る必要があると思い、強引ながらこうした機会を作らせてもらいました」

私はこの時点で彼が私達人類より高度な文明を持つ宇宙人なのだろうという事を察した。
彼は神妙な面持ちで語った。

「あなた達の世界ではこれから、あなた達がこれまで経験した事のないような大きな混乱が起こるでしょう。
それは今からはどうにも避けられないもので、綿密に計画され、スケジュールに入っているものです。
この計画はあなた達の地球で支配的な権力を握るグループによるものですが、その背後には地球だけではない宇宙規模の
計画も潜んでいます。あなた達の暮らしている世界は複数の階層の世界が同時に共存していて、宇宙の中でも非常に多様性に富んだ世界であり、それが進化のプロセスにおいて必要な条件となっているのですが、
それはより多くの魂にとっての学びになるようにデザインされているもので、
それゆえに争いや対立といったものがまだ避けられないような状況になっています。」

「残酷に思うかもしれませんが、これから起こる悲劇、困難はあなた達人類の学びと成長の為に起こる試練と言えるでしょう。あなた達は今、進化の為の過渡期にあり、それゆえ畳み掛けるようにあらゆる隠れたものが顕在化し、リアルになり、向き合わざるを得なくなるでしょう。
そうした事はこれまでもありましたが、そのコントラストがよりハッキリするようになります。

私は遮るように口をはさんだ。
「なるほど。では具体的にはどんな事が起こるんです?そしてその混乱にどう対処していけばいいんですか?」

しかしその問いに対する回答は
「それは教える事ができません。あなた達が自分達で考え、協力し、乗り越えていかなければならないからです」
というものだった。

「どういう事です?話が抽象的すぎてよく分からないのですが…」

「私達があなた達人類にお伝えしたいのは、いよいよ人類が進化する為の最終局面に入ったという事で、しかしそれには大変な混乱、試練を超えていく必要があるという事です。」

「それを私が知って一体どうなるというのですか?私はごく一般的な普通の会社員です。そんな大変な事を私がどうにかできるとは到底思えないのですが…
それに私のような人間が周囲にそんな事を伝えてもおそらく気が狂ったと思われるだけでしょう」

彼は微笑み、続けた。
「私達があなたという人に伝えているのは、あなたがこの時代に生きているのが今回が初めてではないからです。あなたが今のような生活をしているのは、あなたがあなた自身の学びの為に、今のように生きる事を選んだからです。あなたは過去世で私達の星に生きていた事もあります。」

と、その時私は不思議な事に今いるここがどこか懐かしいような感じがしてきた。
ここにいる事が何だか当たり前の事のようで、私はここを知っているような既視感が湧いてきた。

すると彼は、
「そうです、あなたは以前ここにいた事があります。
やはりあなたは記憶力がいいようですね。では、もう少し思い出してみましょうか。」
と言って席を立った。

第2話「岡田正紀」へ。
https://note.mu/galaphix/n/ne6056de12940

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?