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茹でガエルにならないためのススメ〜あわら温泉 ホテル八木 八木司さん〜【LDLバディ対談】

僕の所属しているコミュニティLDL(Locally Driven Labs)。約20年間、全国各地のまちづくりに携わり、多数の著書も出されている木下斉さんが主催するオンラインコミュニティです。

参加者は、民間・行政・議員と幅広く、現在進行形でまちづくりの実践を行なっている方々が活発に活動しています。僕はというと、そのなかで船乗りをしながらふんわりROM専で参加しています。LDLの詳しい内容は、LDLメンバーである岡崎史裕さんの記事をご覧ください。

今回の対談相手は温泉地として有名な福井県あわら市にある「ホテル八木」を経営されている八木司さん。



話を聞く中で、事業継承した時の状況や、宿泊業・飲食サービス業の構造的課題に対する考え方も含めて、非常に多くの共通項を見つけました。しかしながら、現在では全く別のルートを歩んでいる二人。改革を推進し、安く多くから脱したホテル八木を進化させ続ける八木さんとコロナショックを期に廃業した僕です。

事業継承者として明暗を分けたのは何なのか?

個人的な話になるのですが、僕はコロナ禍を期に20年続けた飲食業(飲み屋7年居酒屋15年)を廃業しました。そのことに関しては今のところ間違っていなかったと思っています。その決断ができたのは、地域の同業他社とは違う目線があったわけで、そういう意味では八木さんとの共通点はあったと感じました。

しかしながら、八木さんのようにコロナ禍を乗り切る経営基盤を築くことができなっかったのも事実。この辺りを思考した結果見えてきたものは多くの地方の小規模事業者が取り組めてなかった部分であると感じました。個人事業でなくとも、売上高数十億規模の事業継承者もそうではないかと思います。

参考になるかわかりませんが、今回はそんなことをつらつらと書いていこうと思います。

抜本的な改革で老舗大箱旅館を再生

まずは八木さんが行ってきた取り組みを知っていただきたいのですが、僕が説明するより木下所長のnote記事を読んでもらえるとわかりやすいと思います。ぜひ購読してくださいね。

この記事から5つのアプローチのタイトルだけ抜粋ものが以下の内容ですが、それを実行することがいかに難しいか。

・改築なく部屋数を減らす
・単価引き上げ
・料理長を替える、パティシエを入れる
・大幅に休み増やす
・サービスの弱点を克服する

ホテル八木の経営革新・5つのアプローチ〜老舗大型旅館の思い切った絞り込み再生戦略に学ぼう〜

言われてみれば当たり前と感じてしまうことでも当事者として決断するには非常に勇気のいることです。コロナ前の段階で、こういった本質的な部分の現状認識ができているというところがすごい。そして、多くの2世3世の方々ができてないことであるとも感じています。

中長期的な視点で物事を捉え、経営的な選択をするための前提知識をしっかりつける。そして決断・実行する。そこに人をうまく巻き込んでいくことで結果につながる。八木司さんとは、そういったフローを作れる人なのですね。

気兼ねなく、心地良く。至極のビュッフェが堪能できる「ホテル八木」

そんな八木さんが経営するホテル八木のサイトも是非ご覧になってみてください。コンセプトは「気兼ねなく、心地よく。」

まさにそれを体現するような設計になっています。特に至極のビッフェスタイルで提供される食事の満足度は、実際に来館したかた皆さんからオススメされました。

他にもパティシエが贈る季節ごとのフェアも魅力的。これだけ高頻度でサイクルしているといつ行っても飽きがこないですよね。

いちごとチョコというだけで、もう優勝


これらのフルーツを専属のパティシエがスイーツに仕上げてくれます

他にもセルフロウリュできるサウナやおしゃれで居心地の良さそうなライブラリーなどの設備スペースもあり、一泊では堪能し尽くせませんね笑

酒飲みの僕に嬉しいサービスがこちら

他にもさまざまなサービスがあるので是非Webサイト覗いてみてくださいね。


明暗を分けた相違点

さて、ここまで読んでいただけたらこれまでの八木さんの活動が多少なりとも伝わったと思います。それを踏まえた上で自分なりに相違点は大きく以下の3つかなと。

・財務に対する解像度
・根本的な課題に向き合うことと中長期的視野
・適切な権限委譲

もちろんこの3つ以外にもたくさんあるのですが。。。

お互い根本的な課題を感じつつも、深掘りするための定量的なデータに向き合ってきたか。それに基づき、中長期的な視野で適切な投資をしてきたか。そして、それらをスタッフと共有し、適切な権限委譲をできたか。地方の小規模事業者にあるあるな「財務知識の低さ」が浮かんできます。あと、個人的な部分であるマネージメント力の低さ。



財務に対する解像度

キャッシュフローを回すことが大切なのは言わずもがなですよね。キャッシュフローが回っていれば事業は継続できる。しかしそれだけでは事業を発展させることはできないし、「発展しなくとも現状維持できれば良い」と言う考え方は衰退の一歩目です。実際は、(売上や利益という視点での)現状維持するためにも創意工夫をして変化することが大事なのですが。

そうならないためにも、経営者としては数字にしっかりと向き合うということは非常に大事。人に任すにしても、上がってきた資料を理解し、読み解く知識は必要です。こんな分かりきったことも、自分ごととなれば途端に見えなってしまうものです。

八木さんはといえば、立て直しを図る段階で「とりあえず売上を」と安直に走らず、現状を定量・定性の両面から考察しました。だからこそ、根本的な課題を正確に把握でき目指すべき未来も明確になります。

特に事業再生においては、この点が一丁目一番地だと思うのですが、僕はそれができてなかった。客単価の引き上げ(コンセプト・ターゲットの再定義)や休日を増やし労働時間を効率化・短縮し労働環境を改善するなど、同じような施策をしても、その後の二の矢・三の矢を的確な道筋に沿って打つことができずに、上塗りするような現状改善策しかできなかったのです。

事業継承した時点で、身内が会計を担って丸投げできる環境の小規模事業者の方も同じような危険を孕んでいるのではないでしょうか?

根本的な課題に向き合う覚悟と行動

僕自身が財務にきちんと向き合うようになったのが廃業を決意する2年前。小規模事業者あるあるの社長が全部する(日々の現場仕事・採用教育・広報などなど)に忙殺され、キャッシュフローが回り多少の余剰資金が出ればとりあえずオッケーという感じでした。

「なんとかなっている」ということと自分は精一杯やっているという甘えにより、根本的な課題を先延ばしにしていた。今となってそう感じています。

これは木下所長の言うところの「やった感」ですね。

僕自身も含め、この「やった感」は本人が思っている以上に自覚できてない。それだけ自己認知は難しいし、向き合うことには今までの自己否定と同義なので、多大な苦しみをともなう。それをコンスタントにできる人は本当に少数ですね。

八木さんは、そういった簡単なようで難しいことにしっかり向き合っているように感じました。具体的な行動としては、前述したように木下所長が取り上げてくれていますが、その前提となる見識や覚悟は対談中の言葉の端々に表れていました。

大学を卒業してからすぐ家業に携わり、社会経験の乏しい状況でこういった現実に向き合うことは、想像以上に難しく勇気のいることだと思います。僕自身も20歳の時に急な事業承継に迫られたので深く共感する部分でもあり、ここでの現状認識と覚悟の差が後々に大きな差となって表れたのだと感じました。

適切な権限委譲

宿泊業は観光サービス業という労働集約の側面もありますが、装置産業です。飲食業の、特に大箱店も同様です。この部分に関しても「利益の使い道は賃上げと設備投資です。」と強く言い切っている八木さんはしっかりと本質を捉えていると感じるエピソード。

設備投資においては分かりやすく数字で考えられますが、人となるとそうはいきません。賃上げや福利厚生(労働環境や休暇の充実等々)など、雇用条件の拡充は前提条件として、従業員の「やりがい」と「現状理解」をどのように醸造していくかというのは一朝一夕でなるものではないですよね。醸造というのはそういうこと。

僕自身は週一のミーティングで売上ベースでの共有や月一の勉強会・懇親会などはしていましたが、基本的にはトップダウン。トップダウンが悪いとは今でも思っていませんが、それでも「着いていきたい」・「ここで働きたい」という関係性や環境を作り上げていなかったことも廃業に至った大きな要因でした。

八木さんも数字的な感覚の共有として毎朝進捗状況を報告していますが、利益ベースで伝えているそうです。そこからして僕と違うのですが、業務の各パートにしっかりと現場を任せた上で対話を続けている。そういうところが、圧倒的に違いました。形だけのミーティングや懇親ではなく、現状把握と目標設定を明確にして地道な日々のコミュニケーションを積み重ね、共に歩んでいく。

これも簡単なようでできない人にはできないことではないでしょうか。


茹でガエルにならないためのススメ


2020年初頭から始まったコロナ禍。「この2年で時代が一気に進んだ」と、DXやキャッシュレス決済などの文脈で語られることがあります。それは見方を変えると、後回しにしていた本質的な課題が浮き彫りになった2年間だったと言えると思います。地方の多くの中小企業は先代からのからのリソースや資産がある。個人事業主はマンパワーで解決できる。コロナ禍で危機感を感じたとして「なんとかなっている」という茹でガエル状態に気付いたのがこの2年間だったんじゃないでしょうか?

さて、その2年間で何をしていたか。その前から何をしていたか。その結果が現れるのがこの2023年からではないかと個人的には感じています。

八木さんのように、「コロナ前から危機感を持ち、改革を推進していた」のか?
僕のように「コロナ禍で廃業を選択した」のか?もしくは、「コロナ禍を機に根本的な課題に向き合った」のか?
コロナ禍を補助金やその場凌ぎのイベントのやった感で満足してなんとかしたのか?

過去の結果が現在に出てくるものですが、未来の結果は現在の活動で変えられると思います。茹でガエルにならないために何をすべきか。そんなことを考えさせられる貴重な対談でした。





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