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青柳 いづみこ「歌うピアノをめざして」

青柳 いづみこ(あおやぎ・いづみこ)――ピアニスト・文筆家。
マルセイユ音楽院首席卒業。東京芸術大学大学院博士課程修了。演奏と文筆を両立させ、著作は32点、CDは23点。文化庁芸術祭賞、吉田秀和賞、講談社エッセイ賞など受賞多数。

 二〇二三年二月、フランスのヴァイオリニスト、クリストフ・ジョヴァニネッティとのデュオで日本各地でコンサート・ツアーをおこなった。
 曲目には、ドビュッシー、ショーソンなどフランス音楽の他に、シューベルト『ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ』三曲がはいっていた。古典のソナタは形が明確だ。まずヴァイオリンがピアノの伴奏で第一主題を奏でると、次は攻守交替して、ピアノが同じメロディを弾くことが多い。
 それとはさとられぬようにピアニストが脂汗をかくのは、この場面なのである。
 ピアノは指が鍵盤を押すとハンマーが作動して弦を叩き、それをボディが増幅させる仕組みになっている。メカニズム的には、打楽器なのである。
 いったん出してしまった音はどんどん減衰する。発音したあと、運弓法やヴィブラートで思うままに音を操り、表情を変えられるヴァイオリンと対抗するのは至難のわざだ。
 しかるに、コンサート・ツアーでは、ヴァイオリンを受けて「同じ旋律を歌いあうピアノのレガート」を褒めてくださる方が多く、努力してきて良かった、としみじみ思った。

―『學鐙』2023年夏号 特集「いま私たちが学ぶべきこと」より―

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灯歌
穂村 弘(歌人)
特集
養老 孟司(東京大学名誉教授)★
内田 樹(神戸女学院大学名誉教授・凱風館館長)★
山口 謠司(大東文化大学文学部教授)★
尾島 巌(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校卓越教授 兼化学生物・創薬研究所長)★
礒津 政明(株式会社ソニー・グローバルエデュケーション会長)★
青柳 いづみこ(ピアニスト・文筆家)★
連載
青木 真兵(「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター)
五十嵐 杏南(サイエンスライター)
髙宮 利行(慶應義塾大学名誉教授)
書評
渡辺 祐真(文筆家・書評家)
水上 文(文筆家 ・文芸批評家)
二村 淳子(比較文化研究者・芸術学者)
橋本 輝幸(SF研究家・書評家)
丸善出版刊行物書評
山極 壽一(理学博士)
九里 順子(宮城学院女子大学名誉教授)

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