蒲田健の収録後記:山崎ナオコーラさん

フェミニンな男性を肯定したい

山崎ナオコーラさんの最新エッセイ「母ではなくて、親になる」

男性がバリバリ稼いで一家の屋台骨を支え、女性は三歩下がって

子供を育て、家を守る、という家庭スタイル像がある。

言ってみれば昭和的な、マスキュリンな頑固おやじを念頭においたモデル。

翻って妻は作家、夫は町の書店員、という山崎さんの家庭は、経済力、

生活力ということでは妻に軍配が上がる。しかし、こどもを含め様々な

ひとに好かれる人間的なやさしさ、という点においては夫が格段に

勝っているようだ。


自分は美しいソプラノで子守歌が歌えるわけではない。赤ちゃん言葉を

使おうとも思わない。それらが「母」の要件であるならば、

自分はなれないかもしれない。ならば単純に「親」になろう、

と山崎さんは考えた。


性差で役割を固定化する方が効率的なのかもしれないし、

その考え方そのものを否定しようということではない。

だが固定化しない方向の考え方もあってもいいのではないか。

様々なありようが肯定されてもいいのではないか。


この“閉じない”思想は、自らが書くものの性質そのものにも敷衍してゆく。


育児エッセイというジャンルではあるが、山崎さんの本意は

「育児に関係ない生活をしている人も楽しんでくれる面白い読み物を

書きたい」。


さまざまな了解事項の前提の上で「わかるわかるー」というところに

着地することを求めているのではない。時に的外れ、時に猛反対、

そんな軋轢があるなかでも何かしらの気づきやあったり、心が動くと

いうようなことがある、そんな文章を書きたいということが

モチベーションになっているのだ。


“子育てワールド”の住人でない方も、いやむしろそういう方にこそ、

お勧めしたい一冊である。


「簡単に 了解できる それのみが

       唯一無二の 答え ではない」


P.S. こちらの問いに対して、その都度その都度それを咀嚼したうえで

返答をしていただく。そんな姿に、作風同様の誠実な姿勢を感じました。


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