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なぜ私はミルで珈琲を挽くようになったか?


ここ数ヶ月、私が最も多く神経を使っている業務内容の一つが、メールだ。

「**様
いつもお世話になっております。
ご連絡ありがとうございます。
○○の旨、承知いたしました。

・・・・となっております。
お忙しいところ恐れ入りますが、何卒よろしくお願いいたします。

株式会社ガキオコーポレーション 餓鬼がきお」

使おうとする表現が日本語の敬語として正しいのか、不安になればいちいち検索して調べている。

これまで義務教育その他で習ってきた国語という科目が、文学作品を鑑賞するためではなく、社会人として必須なコミュニケーションの方法の一つを会得するためにあるのだとしたら、その重要性を再認識するとともに、決して娯楽ではないことにも気づく。

今更新入社員のようなことをいうのは、これまで3年半のあいだ、私は店頭に立って「いらっしゃいませ」と言いつづけるタイプの仕事をしていたからだ。スーツもしくはジャケットを羽織ったデスクワークになったのは、ちょうど去年の10月からである。

本社勤務となって本格的な商談に参加し、初めて名刺交換を体験した。
私は飲料部門の担当者として、販売するコーヒーやお茶、ソフトドリンクの市場の勉強を開始したのだった。
それまで立ち読みしたことはあっても買うことはなかった飲料に関する本も入手した。

ミルの購入も、その一環というわけだ。

さっそく某高級スーパーでキリマンジャロの豆を買ってきた。キリマンジャロはたいてい緑色のパッケージカラーで売られていて、その色味の美しさや、ヘミングウェイの短篇にもあるアフリカのサバンナに屹立している雪のつもった名峰のイメージから、愛着をもっている。酸味と苦味が特徴とのこと。
「どんなもんだろう」とミルのハンドルをまわす。

細挽きから粗挽きまで、抽出方法によって選べるようになっていて、私はまだペーパードリップ以外の道具を持っていないから、中挽きにしてみる。ある程度力を入れないとハンドルは回らない。

ようやくできた粉をドリッパーにセットして、本に書かれている通りの注ぎ方をする。すなわち少量注ぎ30秒蒸らし、あと3回ほどに分けてゆっくり注ぎいれる。湯はペーパーフィルターにかからないようにする。

その通りにやってできたコーヒーを飲むと、酸っぱい。美味しくない。口の中をいやな酸味が支配している。

なぜなら、スーパーで買った豆は、焙煎されてから日が経っているからだ。
本には「コーヒー豆は野菜や魚などと同じく、生鮮食品なのだ」と買いてあった。
なるほどな。

できる限り密封しているが、少しでも空気が触れると、酸化が進むだろう。日頃なにげなく飲んでるドリップタイプやインスタントが、酸っぱくなく飲めるのは、実はすごいことなのかもしれない。

しかし私には疑いがあった。スーパーやコンビニで売られているキリマンジャロは、「キリマンジャロブランド」だ。つまり、タンザニア産のキリマンジャロ豆は少量で、ほかにクセの少ないブラジル産やコロンビア産を混ぜているのだ。
実はキリマンジャロは、この酸味こそ最大の魅力なのではないか。

その疑惑を抱いたまま、街の普段は入らない純喫茶に行ってみた。
いつもスタバやタリーズに行くもんで、昔ながらの喫茶店は敷居が高いと入れずにいたのだが、いざ扉を開けると中は広々としていてジャズが流れている。

ストレートコーヒーの欄にちゃんとキリマンジャロがあったので、注文。

数分後、テーブルに備え付けの白砂糖とは別の、飴色をした大きめの粒の砂糖と一緒にキリマンジャロが運ばれてきた。

一口飲んだ感想は……。
酸っぱくない!

ま、当たり前である。ゆっくり口の中で味わえば、後にほのかに酸味が残る。
とても美味しかった。

美味しいコーヒーを淹れるのには入念な準備と技術が必要なのだ。だから専門店が立ち並び、専門家が存在する。

今度はぜひ焙煎したての豆を買って、それを挽いて飲んでみたい。目標としては、オリジナルのガキオブレンドを作ることかな。笑

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