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たとえば、裏切り者という名の忠犬

 目の前で、血を流して倒れている男が1人。この街では珍しい事ではない。ただし、この倒れている男、ステファノ・テイラーであれば話は変わってくる。


 テイラーとは昔からの馴染みだった。死んでも何処からか溢れてくるストリートチルドレンだった俺達は、運良くマフィアに拾われた。
 喧嘩早い俺とは違い、テイラーは人心掌握術に長けていた。あいつが根回し、俺がその障害を排除する。ガキ共の売春斡旋から始まったその関係は、賭博、ついには麻薬売買まで登りつめたのだ。そして、当時のボスの座を奪い取った。
「飲もうぜ、アマデオ」
「こんな時に飲めるかよ、テイラー」
「こんな時だからさ。笑い明かしたい気分なんだよ」
「クラブキャメロットの夜の様にかい?」
「まさにそうさ!クロージアの一味を潰した夜の様に」
「あの時も俺は笑えなかったがな」
「そうだったか?お前も笑ってたよ」
「気の所為だ」
 俺は煙草に火を点け煙を呑み込む。興奮した自分を落ち着かせる為に、火が消えてはまた新しい煙草に火を点ける。それでもこんな夜は自然と笑っちまうよな、相棒。
 俺はテイラーの周りに落ちた吸い殻を見ながら笑っていた。




「ステファノの親父が死んだって冗談だろ?」
「金の数え過ぎが死因か?」
「いいや、性懲りもなく女を抱き続けた腹上死だろうよ。もう歳なのに、毎晩女を呼んでたろ」
 シンジケートの本部に幹部が勢揃いしていた。その中の1人が口を挟む。
「どちらも違う。殺されたんだ」
 その場にいた全員が言葉を失う。
「オヤジにはアマデオの旦那がついているだろ。ありえねぇ」
「そのアマデオが殺ったんだよ。現在、逃亡中の行方不明」
「信じられねえよ。アマデオの旦那はボスの忠犬だ。オヤジの命令でしか動かない。」
「いいや、事実さ。これは競争だ。アマデオを殺した者がボスになる」
「お前は、殺れんのかよ」
「出来るかどうかじゃねえ。俺達で殺るんだよ。」
 その言葉を最後に、全員は部屋を出て行った。


 


続く

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