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八月の雨

 渇いた風が荒野に砂埃を舞い上がらせる。
 20歩ほど離れて向かい合った2人の男の間を丸まった干草が走り抜けた。
「嬉しいよ。少し残念でもある。サムライ、お前と戦える事、それだけが望みだった。お前もだろう?」
 ホルスターに納まったリボルバーに手をかけた男は言う。
「何とでも言うが良い。エリスの代わりにお前を殺す。どちらにせよ、これで終わりだ。」
 サムライは、憎しみを隠さず声に乗せる。
「まだ何も始まっていないだろう?俺にはまだ墓に刻まれる名前も無いのだから。」
「だったら俺が名前を付けてやる。お前のような奴をエリスはこう言っていた。レインメーカー。それがお前の墓に刻まれる名だ。」
「欲望とは、8月に降る雨のようだ。誰もが満たされたいと望むそれは、しかし身を削られる程強く降り、望んだ物も大切な物も全てを呑み込む。だったかな。」
 男はホルスターからリボルバーを抜き、サムライに照準を合わせた。
「この弾丸がお前にたどり着くまでには、まだ時間がある。はたして、お前はその間に俺に追いつけるのか?」
 引き金を引かれた拳銃は、轟音を鳴らし、弾丸を吐き出した。サムライはまだ動かない。瞬きする間も与えられぬその瞬間に、今回の道中を思い出していた。弾丸はサムライの額にまで迫っていた。


続く

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