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確認はしない話(2000文字ぴったり)

【注意】普段のブログとは全く違う、ちょっとした少し不思議な話です。

今のバンドとは違うグループで活動している頃の話。

友達に紹介されたその初めてのライブハウスはスタッフの人もめちゃくちゃ良い人だし、ロケーションが少し変わっていてテンションが上がっていた。

「ここってもしかして・・・」

「そうなんですよ、元映画館なんです」

映画館を改造してライブハウスにする。そこでのライブ。
それこそ渋谷のWWWや実は日本中に沢山あるのだけど、当時の自分にとってそれは初めての経験で、初めての土地、初めての箱、初めての対バン、など初めて尽くしの思い出深い夜になる予感しかなかった。

ステージも結構高くて、会場も広め。初めての場所でお客さん来てくれるかな、そんな不安を感じたのを覚えている。

自分たちのサウンドチェックになり、ステージに登る。

今は音響照明オーダー資料を前もって提出し、当日はその確認。というのが基本的なサウンドチェックの流れなのだけど、その頃の自分たちはアマチュア感覚が全然抜けていなかったので、当日現場入りしてからモロモロ手書きで提出するという、今の俺が見たら「なめんなよ」という姿勢なのだけど、その頃はそれが正しいと信じていたので、当然この日もそうやってリハに臨んでいた。

「すいません、ボーカルの音もう少しください」(モニターへの返し、ステージにある自分へのスピーカーの音の調整)

「はい、外音はこの曲はリバーブが少し多めだと嬉しいです」

「じゃあ、曲でやってみます」

ある程度サウンドチェックが終わったら1曲ずつ演出の話をしていく。

「この曲は・・・。ミラーボールとかあります?」

ここでミラーボールがあるかどうかを見ようと上をふと見ると、元映写室なのかな?フロアの天井近くに小窓があって、部屋かなにか空間がそこにあるように伺える。よくスポットライトを上の方から照らしたりするからそんな部屋なのかなと思った。

PAさんはフロアにいたので、照明さんが上にいるのかなと窓の方に目を凝らしてみると、やはり男性が一人いたので手を振ってみる。

こちらからぼんやりと見えるという事は気付いているはずだ。そう思って手を振ったのだが無視された。愛想のない人だ。
いや、部屋の中は暗く、こちらからはっきりとはよく見えないので、こっちを見ていないのか、それもよくわからない。どうしても表情が見えないから、まあいいやと気を取り直してリハーサルを続け、無事に終了した。

他の出演者のリハも順調に進み、サウンドチェックの時間は終了。館内整備も終わり、あとはオープンを待つだけだ。バンドマンはこの時間、楽屋でのんびりしたり、外にお茶をしに行ったり、ゲームをしたりと思い思いに過ごす。運動したりする人もいる。俺は箱の中をウロウロする事が多かった。色々な人とコミュニケーションがとりたいからだ。

箱のスタッフの2人と話す時間があった。元映画館とかいいですね、とか地元の音楽シーンはどうですか?なんて取り留めのない話。スタッフの人たちの様子が変わったのは俺がこんな事を言ったタイミングだった。

「そういえばサウンドチェックの時にステージから気付いたんだけど」

「はい」

「上の小窓って元映写室ですか?」

「そうですそうです」

「あそこって照明のブースになってるんですか?」

「なってないですよ、どうしてですか?」

「いや、どなたかがいらっしゃったんで」

「・・・。」

ちょっと間があった。口が「あー」の形で少し固まったあと、スタッフの二人は苦笑いしながら教えてくれた。

その映写室は裏の階段から登れること。
今は使っていない事。

そして、鍵がかかっていて今は開かずの間になっている事。

おっと、マジか。

感想はその程度。怖い!とか信じられない!など特に嫌な感情もなく、その手の背筋が凍るとかもない、もしかしたら見間違いだったのかな。頭をよぎったのは本当にその程度。

一応確認してもいいか?と伝えると大丈夫とのこと。どうやら今までもそんなことがあったらしい。階段を上りその部屋まできたら実際に扉は開かなかった。

ちょっとだけ気になったのは扉の周りに沢山お札が貼ってある事。

それは少しゾッとしたので、何も見なかったことにして階段を下りて、ライブの準備をして楽しくライブをした。

楽しいライブに水を差すのは嫌だったから、ライブ中もその日の打ち上げでもこの話題を口にすることはなかった。

実際見間違いだったのかもしれない。このライブハウスから帰る頃にはそう思うようになっていた。

相方も楽しそうだ。

一つ思い出す。サウンドチェックの時

俺が映写室に向かって手を振ってる時、俺の相方も全力で上に向かって手を振っていたのが視界に入ってきたけど、きっと二人とも見間違いだったのだ。

見間違いの筈だから確認はしなかった。

#2000字のホラー


かなり前の話なので細部は違っている可能性があります。フィクションの可能性もあります。

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