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【ゆる感想】浪花節だぜ、まったく……【カウボーイビバップSession#10】

どうも、ガハラ軍曹です。久しぶりのnote更新には訳があります。

「一番好きなアニメは?」と聞かれたら、間髪入れず「カウボーイビバップ」と答える。というか食い気味に「カウボーイビバップ」と答える。もう何十回と繰り返し見たアニメだ。

そんなカウボーイビバップの実写版が11月からNetflixで始まると言うわけで、久しぶりに(といってもおそらく最後に見たのは1年以内だが)全話見直そうと思ったのである。

と言っても、見直し自体は8月から始めていた。なので、そこからnoteでの感想を書けばキリが良かったなぁと今更になって思うのだが、当時はそんなやる気が出なかった。そんな僕だが、今回は感想を書いてみようと思っている。

じゃあなぜ今やる気が出た?と言われれば、今回見たのがビバップの中でも特に大好きな回だからだ。それが、

Session#10 「ガニメデ慕情」

である。スパイクの相棒、ジェット・ブラックの過去の女性関係を探る回だ。この回は本当に何もかも好きすぎて、もしかしたら数十回では収まらないぐらい見返している。

前置きはこのぐらいにして、感想を色々書き連ねていきたい。ネタバレあるので、もし未見の方がいたらご注意を。

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洗練された時間経過描写

Session#10のテーマは「時の経過」だ。恋人だったアリサが急に自分の元を離れたことをきっかけに故郷ガニメデを離れたジェットは、それ以来ガニメデでの、アリサとの、ひいては彼自身の「時間が止まっていた」。その止まった時計を捨てて、彼自身が再度動き始めるまでの物語がSession#10である。

そんなわけで、この話にはさまざまな時間経過の描写が出てくる。そしてそれがどれもめちゃくちゃオシャレなのだ。

例えば「フェイの日焼け」だ。今回ほとんど出番がない彼女は、(視聴者サービス要員として)ビバップ号の甲板で見事な肢体を晒しながら日焼けに興じることとなる。そして、初めは白かった彼女の肌が、中盤では小麦色になっているのだ。小麦色になるのは早すぎないか……?という気もするが、こういうちょっとした描写で時間の経過を表すやり方はめちゃくちゃスマートだと思う。

ちなみにこれに類する時間経過描写として、Session#1で使われた「タバコの燃焼」もあるだろう。あれも相当オシャレだった。

他にも、アリサのバー「ラ・ファン」での各シーンも秀逸だと思う。まず、ジェットが店に入ってから、聞こえる音は時計の針のチクタク音だけだ。これが、嫌が応にも時計の存在を印象付ける。そしてたびたび挟まれる、水鳥が鹿威しのように時を刻む時計(あれ何て言うんだ?)。これもかなり印象的で、ジェット周辺の時間は刻々と流れ続けていることを表現している。

時計という直接的な描写に収まらず、個人的に気に入っているのはジェットが新しい水上都市の権利金の話をした直後のシーンだ。「あなたらしいわ、そんなこと気にして」と喋り出したアリサを、やけに細かくカット割しながら3回写すシーンがある。あのカット、最初はどう言う意味なのかよくわからなかったのだが、個人的には「昔と変わらず美しいアリサを、チラチラと見てしまうジェットの視線」を表しているのではないかと思う。つまり、やはりジェットにとってアリサの時間は昔のまま止まっているのだ。その実アリサはジェットと過ごした時間とは違う、新たな時間を動かしている(少なくとも動かそうとはしている)のだが、ジェットからすればやはり昔のまま、あの時愛した美しいアリサのままなのだ。だからその後、情けないほどクドクドとアリサを責めてしまったのだろう。わざわざ「お前を責めに来たんじゃない」とか言いながら。

その後に映されるジェットの飲み終わったグラスでは、アリサが入れてくれた氷すら音を立てて崩れる。これも時間の経過だ。氷すら時を過ごしているのに、ジェットの時間だけは止まったままなのだ。とにかくいろんな時間描写がジェットとそれ以外を残酷なまでに描き出している。

時間に関してもう一つめちゃくちゃ格好いいと思うのが、ジェットがバーを出た直後、リントのライターがなかなかつかないシーンだ。回想を挟みつつライターの火がつかない音だけを何度も聴かせて、リントのイライラとどうにもならない状況を表現したあの演出、とんでもなく素晴らしいと思う。

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情感に寄り添うエモーショナルな音楽

ビバップの演出の肝は菅野よう子の音楽である、と言って反論する人は恐らくいないだろう。Session#1では踊るような戦闘シーンを「Rush」でノリノリで盛り上げ、Session#2では割としょうもない追いかけっこを「Want It All Back」でスタイリッシュな大捕物に仕立て上げ、伝説の神回Session#5では荘厳なオペラ「Ave Maria」と教会のオルガンが鳴り響く「Rain」でヴィシャスの恐怖を強烈に印象づけた菅野よう子の音楽は、ビバップという作品の中で燦然と輝きを放っている。前半の話で個人的に一番お気に入りなのはSession#3、フェイの「ショータイムよ!」の掛け声から流れる「Piano Black」だ。

もちろん、ガニメデ慕情でもその存在感は健在だ。特に今回は、ジェットの過去の感情を掘り下げるというテーマとも相まって、ひどく情感的である。

中でもやはり印象的なのが「ELM」 だ。物悲しいアコースティックギターのアルペジオと、「la」だけで構成された歌詞(厳密に言えば「ティキティキティキティーヤッ」って言ってるけど)。それでも、いやそれでこそ、言葉にならないジェットとアリサの複雑な感情を表現できるというものだ。ボートで逃げるアリサとリントに、ハンマーヘッドから呼びかけるジェットを、アリサが見返すシーンはあまりに美しい。目を伏せるようにして、悲しみや後悔を抑えながら二人を追いかけるジェットもとにかく素晴らしい。石塚運昇さんの演技も迫力満点で、それでいて虚勢のようにも聞こえる絶妙な匙加減が何度聞いても凄い。

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その他小ネタ

・一番気になるのは、ジェットとアリサが関係を持っていたのは時系列的にいつなのかという点だ。作中でジェットは「半年経って俺は賭けをした。もしこの時計が止まった時、まだお前(アリサ)が戻らなかったら、この星を出よう」と語っていることから、ジェットはアリサと関係している時点で、出ようと思えばすぐに星を出られるというそれなりに自由な立場だったことがわかる。ジェットはI.S.S.P.を(ハメられただけだが)不祥事で退職しているので、退職時期が選べたとは思いにくいことからすると、ジェットはI.S.S.P.をやめてからアリサと付き合ってたんだろうか。その場合、アリサと付き合っている時のジェットは無職である。アリサ、それでいいのか。リントを選んでいるあたりからも、アリサはだめんず・うぉ〜か〜なのかも知れない。

・ただし上の考察、ちょっと気になる点もある。カウボーイビバップBlu-ray boxの特典についてきた小説「ビッグクランチ」で、ジェットは「退職金を全部注ぎ込んだ宇宙競馬ですっからかんになった」と言っており、その直後にスパイクと出会っているのだ。退職金を、しかも競馬につぎ込むつもりの金を長い間大事に持っているやつはいないだろうから、その場合はジェットはアリサと別れてガニメデを出るまでI.S.S.P.に籍を置いていたことになる。だが、やはり辞める時期を選べることには変わりないのだから、不祥事が起きたのはもっと前ということだ。不祥事でやばい立場になりつつも、I.S.S.P.に在籍し続けていたということだろうか。それはそれで、ジェットはかなりやばい奴だ。スパイクについてもそうだが、過去の時系列のはっきりしなさは、誰か考察してくれていないだろうか。

・加えて、もっと気になるのは元同僚ドネリーがジェットと別れた時期について「かれこれ7〜8年前か?」と言っていることだ。ドネリーがボケているのか、あるいはI.S.S.P.とガニメデ警察は違う組織なのか(例えば警視庁と警察庁みたいなもんか)。ボケているとしたらあまりに悲しい。まぁジジィだから、時間感覚がめちゃくちゃという可能性もあるのだけど。直後にジェットに対して「このリップ・ヴァン・ウィンクルめ!」(海外版浦島太郎みたいなもの)と言っていることからも、「実は3年前なのに7〜8年前だと思っている説」が正しいのかもしれない。

・前回から登場のエド、アインとの接近が示される。特に冒頭、パンチョレロと絡むシーンはエピソード的には意味不明なのだが笑、エドとアインの関係を端的に表していて好き。直後にジェットさんの下からの煽りという、ど迫力ショットから始まるのも好き。

・とにかく無法者なスパイク、雑すぎる路駐で交通をめちゃ阻害する。っていうかああいうモノマシンって路駐のルールどうなってるんだろう。

・ドネリーからの裏情報をスパイクが受け取るシーン、「で、賞金額は?」と言っているのは金にしか興味がないスパイクの冷淡さというか、ジェットとアリサの関係への無関心さを表しているのだろうけど、直前に画面上にばっちり手配書が映っているはずなので、単にちゃんと額を確認していないだけとも取れる。ちゃんと見なさいよ。

・山口勝平、本当にこの人はすごい。恋人を前に自分だけ逃げ出した上、「ムショなんて嫌だ!」「助けてくれよ頼むぅぅ」と言うこいつ、果たして本当に工藤新一なんだろうか。

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も〜〜〜〜〜とにかくガニメデ慕情は大好きである。あまりに好きすぎてよくわからないタイミングでnoteを書いてしまったぐらいだ。ガニメデ慕情について、あるいはカウボーイビバップについて語ってもいいよという人は、twitter等で是非是非お声がけいただきたい。

それではまた、気が向いた時まで。see you, space cowboy...

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