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【技能実習廃止】変わる制度と残り続ける問題について解説します

こんにちは、AIRVISAのジャファーです。
少し前になりますが、政府の有識者会議にて「技能実習制度」を廃止し、新制度への移行を求めたというニュースが話題になりました。

これは移民や在留資格に関する事業を行っているAIRVISAにとっては非常に興味深いニュースでした。中長期的に大きな影響があるニュースですので、本件に関するAIRVISAとしての見解や、技能実習に関する歴史的な背景を解説したいと思います。

主に「技能実習というワードは聞いたことがあり問題があることはなんとなく知っている」という方に向けて、大枠の流れや問題点の構造を解説した上で「AIRVISAとしてはどう考えているのか?」をお伝えしたい記事ですので、専門的な話は割愛しながらわかりやすく書くよう心がけます。

技能実習の歴史と理念-国際貢献という原則-

まず、簡単に技能実習の歴史的な経緯をまとめます。

技能実習は高度成長期の日本において国際貢献の一環として開始された制度です。技能実習という制度ができたのは1993年のことですが、1981年には改正入管法によって実質的な前身となる外国人研修生の在留資格が創設されています。

こうした背景から実は当初の技能実習は明確に労働者としての特性を持たなかった(労働法の保護を受けない)のですが、受け入れ企業の中には本来の目的を十分に理解せずに、実質的な低賃金労働者として扱うケースが問題となっていました。

そこで2010年に入管法が改正されて、しっかりと雇用契約を結んで「労働を通じて技能を習得する制度」という形に方針が修正されています。これが現行の技能実習制度です。

一方で、

外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としております

という当初の理念は引き続き掲げられており、

「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(法第3条第2項)

と明確に定められています。

しかし技能実習生を受け入れている殆どの現場では貴重な労働力として重宝されているのが実態です。

この「実態と理念のねじれ」が現在に至るまで多くの問題を生んでいる根本的な原因であり、今回の廃止議論では国際貢献を制度の目的として掲げている現制度を廃止して、人材確保及び人材育成を目的とした制度に移行することでねじれの解消を狙っています。

ねじれによって発生している諸問題について


技能実習で指摘されている問題はたくさんありますが、整理すると大きく分けて「実習生のキャリアパスが閉ざされていたり転職の自由が認められない」という問題と「実習生に対する悪質な待遇」の問題があると考えています。

実習生のキャリアに関する問題

技能実習には1号と2号3号という在留資格があり、1号は1年、2号と3号には2年の在留が認められています。つまり原則として技能実習では最大でも5年までしか日本にいることはできません。

せっかく日本で働いて日本語を覚えて技能を身に着けても、日本ではその先のキャリアを構築することはできませんでした。

しかし、実態として多くの現場で技能実習生は貴重な戦力であり、数年で帰国してしまうことは企業にとっても痛手でした。

2019年に特定技能が施行して、技能実習から特定技能に在留資格の切り替えができるようになったことで実質的な在留可能期間が伸びましたが、これは技能実習の根本の制度とは異なる考え方ですし、このあたりが理念と実態の「歪み」です。

実質的に労働力として期待しているのに、国際貢献の枠組みを維持しようとしてツギハギで対処したに過ぎないと私は思います。

また、更に深刻な問題は次の実習生の待遇の問題です。

実習生への悪質な待遇の問題


技能実習の制度に関して度々問題として取り上げられるのはこの論点ですね。

制度の特性上技能実習生の多くは借金を背負って来日します。※制度の特性は後述

そのため、何か問題が発生した際に「借金を返すまでは帰国するわけにはいかない」という弱い立場に立たされています。

そして、技能実習は技能を身につけるためには同じ職場で一定期間働く必要があるという理由から転職という概念がないため、悪質な職場にあたってしまっても環境を変えづらいです。

やむを得ないケースでは監理団体に相談すれば職場を変えられる(転籍)ことになっていますが、有識者会議のヒアリング資料では監理団体や企業に相談しても、帰国を求められたり、「我慢しなさい」と言われて対応してもらえない、転籍に必要な書類の提供に協力しないなどといった実態が報告されています。

こうした実習生の弱い立場につけ込んでハラスメントを行ったり、非人道的な労働環境での労働を強いる悪質な受入企業が残念ながら一部存在しており、結果的に失踪して不法滞在・不法就労に手を染めてしまう実習生の存在は社会問題にもなりました(技能実習の失踪率は1.8%で、転職が認められている特定技能の10倍以上です)

私はこれらの問題は技能実習を「国際貢献」という建前にしていることに根ざしていると考えています。

政府は非頭脳労働の永住には消極的


まず在留期限に関してですが、「技術・人文・国際」を始めとする一般的な就労系の在留資格の場合、10年以上日本に在留し、そのうち5年以上就労もしくは居住資格を持ちながら在留していることで永住許可申請が可能です。

わかりやすく言い換えると、連続して10年以上在留ができる資格を新設することは、本腰を入れて移民政策に舵切りすることを意味するため政府は慎重です。

エンジニアや通訳など高度な専門性を持った人材に関しては積極的に推進している一方で、特定技能などの非頭脳労働に分類される業種においては特例を設けて5年の就労期間の対象にしないなど消極的な姿勢が見えます。

その結果、日本人が就きたがらず人手不足が深刻な非頭脳労働の業種では、海外から人材を確保したいが永住はさせたくない。あくまで国際貢献として技術を教えているという建前をとっているが、実際は貴重な戦力になっているというねじれた実態が出来上がっています。

来日前の借金が生まれる構図が実習生の弱い立場を生み出している


続いて実習生の待遇に関してですが、問題の元凶は来日前の借金だと考えています。

多くの実習生は母国に借金があるため、返済が済むまでは帰国するわけにはいかず強く交渉ができません。実際、問題が発生して監理団体に駆け込んでも、面倒を起こしたくない監理団体から帰国を求められて泣き寝入りするケースが有識者会議の資料の中でも報告されています。

私の知人には、事前に聞いていた業務と異なる仕事に就かされて交渉した結果、借金を背負ったまま帰国させられた人もいます。

では、そもそも何故実習生は借金を抱えて日本にやってくるのかというと、技能実習制度は国際貢献であるため営利を目的としてはいけないという原則があり、一般的な人材紹介とは根本的に異なるからです。

送り出し機関に支払う費用は健全に運営されていても非常に高額で負担が重い


営利を目的にしてはいけないとは言っても受入企業と人材をマッチングさせる役割は必要ですよね。

エンジニアなどの高度人材の場合は人材紹介会社や転職サイトを通じて繋がることができますが、技能実習の場合は送り出し機関という政府公認の機関を通す必要があります。

送り出し機関では寮を構えて住み込みで研修を行ったり、事務手続きをしたりと必要経費がかかりますから、これを人材本人に請求することになります。

実はこの際に徴収できる費用はルールで取り決められて、過度に高い費用を請求することはできなくなっているのですが、それでも渡航費用まで加えると物価が安い国の人たちにとっては簡単に出せる金額ではありません。(最低でも40万円程度はかかります)

中には悪徳なブローカーを挟んで100万円にも迫る金額を請求されているケースもありますがこれは全体の中では少数で、本質的には「ちゃんと制度が運用されていても人材にとっては借金を背負わなければ支払えないような経済的な負担が初期的にかかる」という点が重要だと思っています。

一族の期待を背負い、簡単には帰国できず追い詰められる実習生


それでも多くの人材が技能実習に来たがるのは、あくまでちゃんとした受け入れ企業に就職できれば借金を返済して貯金もできる程度には稼げるからです。彼らの家族・親族もそれを分かっているのでお金を工面して、日本に送り出します。

そんな色々背負っている状況では、たとえ当初聞いていたのと異なる内容の仕事をさせられても、ハラスメントを受けても帰国させられるリスクを負ってまで交渉することは難しいでしょう。

結果的にどうにもならなくなった人たちは同郷の情報通の手助けを受けて失踪し、不法就労に手を染めてしまうのです。

技能実習制度の気になる今後は?


これら既存の問題点を念頭に置いた上で、今後制度としてどうなっていくのか?ですが、有識者会議では①特定技能を改善して拡大②技能実習を”人材確保”という目的を明示的にした上で改善という2つの方向性で検討が進んでいます。

正直なところ、これだけで技能実習で指摘されている来日前の借金や失踪問題、それらを生み出す構造的な課題に関して解決されるかというと疑問が残りますし、制度廃止と言えるほど抜本的な変化を生めるとは思えていません。

一方で、現場で技能実習を運用されている企業の話を聞く限りでは、送り出し機関が人材の集客や教育の面で果たしている役割は大きく、高度人材のように完全に自由な人材紹介という形を取るのは難しいというのも事実です。

日本で仕事をするためには日本語もある程度分からないといけないですし、その分野の業務経験ないしは知識も必要です。そうでないと如何に人手不足とは言っても企業も採用には踏み切れないからです。

しかしながら、人材確保という目的が明示されて国際貢献という建前がなくなるのであれば、人材から送り出し期間に手数料が支払われる形ではなく、企業が費用を負担する形を取れる(人材側の負担を軽減できる)はずなので、その方向で進むと良いですね。

もちろん費用を抑えたい企業側からの反発は強そうですし、転籍を認める場合初回の受入企業の負担が重くなる、などの問題があり一筋縄では行きませんが、、。

その他にも、個人的には以下のような変化が生まれることを期待しています。

制度を通じて来日する人材にもキャリアパスがひらけること

移民は経済成長をリードする存在だとAIRVISAは信じていますが、これは「多様な人材がそれぞれの強みを生かして活躍する」ことが前提にあります。

なので、ただ単に人手不足を補う存在としての移民ではなく、日本で働いて技能を身に着け、やる気と能力があればその先のキャリアがひらける制度になることを望んでいます。

具体的には、経験を積んだ人材は同郷のメンバーのマネジメントに回ったり、高度人材としてより専門的な業務を任されるなどです。

原理的には10年の実務経験を積むことで特定技能→技人国※への変更は認められるので、技能実習5年、特定技能5年をやりきればその後は技人国の在留資格で専門的な業務に従事するような例が増えていくと良いですね。

また、6月9日の閣議決定により、特定技能2号が介護を除く全分野で対象となりましたので、更にキャリアパスの可能性は広がったと考えて良いと思います。

※在留資格「技術・人文知識・国際業務」はエンジニアや通訳など、外国人労働者が保有している専門的な知識や技術を使って業務をするために認可される資格。

監理団体に適正な競争が生まれる

監理団体はそもそも営利を目的とした団体ではありません。そして、ほとんどの監理団体は儲かっていないというのが実情です。
監理団体には定期的な巡回訪問が義務付けられています。監理対象の企業は北海道や沖縄を含めて全国にある場合が多いため、これは相当なコストです。

制度の特性上営利を目的としてはいけなくて、行う業務と方式も定められている中では創意工夫の余地が少なく、例えば実習生の転籍などイレギュラーな対応が億劫になるのも構造的に理解できます(中にはわがままに近い相談も紛れており、すべてを監理団体の怠慢として片付けることはできないでしょう)

例えば相談窓口は集約できないか?煩雑な書類管理は手書きやエクセルではなく使いやすいSaaSを提供できないか?など適切な競争が生まれる土壌があれば改善が期待できる余地はあるのではないかと思います。

単に義務を厳格化するだけではなく、適切に業務に取り組める余裕と業務の改善をするモチベーションが生まれる仕組みをセットで用意することが必要ではないでしょうか。

日本が選ばれる国であるために

以前もnoteで書きましたが、日本は既にグローバルな人材市場においてバブル期のような競争力はありません。門戸を開けば人材の方から喜んでやってきてくれるという時代ではないのです。

一方でマンガ・アニメを中心とする日本文化の世界的な人気やコロナ禍明けのインバウンドの戻り方を見ても、ポテンシャルを秘めた国であることに疑いはありません。

今回の議論はそもそも「人材不足を実質的に補っている技能実習を適正に運用すること」を目的としていますが、これは日本に来てくれる人材がいる前提の話です。

ツギハギではなく、本質的に人材にとって良い制度に生まれ変わり、「日本に行ったらこんなに良い経験が積めた」という良い噂が各国に広がり、将来に渡って国際社会の中で日本が選ばれ続ける国になることを切に願います。


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