My Favorite Balloons 【短編現代ファンタジーノベル】
聞いて。なんかわたし…少し前から、ちょっと変…
人の話す言葉がね、まるで漫画の吹き出しのように…見えるんだ。Speech Balloonっていうのかな、言葉がふわふわ光りながら浮かんでる。言葉の種類によって光る色にも違いがあって、事務的な言葉は無彩色。だけど親しい人と話す言葉はいろんな色が着いていて、なかでもね、ふふっ、わたしを褒めてくれた言葉は、大好きなパステルカラーなんだ。
「まひろ、その服すごく似合ってる。」とか、
「今日はメイク、決まってるね!」とか、
「まひろさんって、仕事の手際いいですね!」とかとか…
そんなバルーンって、手で捕まえられるんだよ。捕まえると手の中で光りながらぷよぷよしてて、なんか可愛い。だから最近は自分のお気に入りの言葉、うん、だいたいは褒め言葉なんだけど、捕まえては瓶に入れて、日付を書いて部屋に並べてるんだ。夜になると柔らかい光がとっても綺麗。時々落ち込んでる時とか、瓶の蓋を開けてはお気に入りの言葉を聞くの。自分の自信を取り戻す、とっても大切なコレクションなんだ。
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ごめん、聞いてくれる?…この前ね…彼と…別れたの。
まあ正確には振られたんだけどね。こっちは大好きだったし突然だったんで、びっくりしたし訳もわからなかったから問い詰めたわよ。優しい人だから言葉を選んでたけど、覚えてるのはひとつだけ。
「君にはもう会いたくない」
彼が去った後、泣きながらその言葉のバルーンがゆっくりと床に落ちていくのを見てた。うん、そのバルーンも拾ってとってあるよ。二度と聞くことはないけど、とっても深い青い光を放ってる。なんでだかわからないけど、捨てられないんだよね…
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ねえもう、聞いてよ!あのバルーンたち、あれからどうなったと思う?
なんかどれもこれもドス黒い色の光になっちゃったの!どうも賞味期限があったみたい。怖々中の声を聞いてみるとね…
「こんなセンスの服着れるの、この子だけだわw」とか、
「ちょっと、いくらなんでもメイク盛りすぎでしょw」とか、
「仕事早いのはいいけど雑だし、かえって後のフォローが大変なんだよなあ」とかとかさ!
なんか、耳障りのいい言葉の裏側が出てきたみたい。もう、あったま来たから、全部トイレに流してやったわよ!みんなホントはそんなふうに思ってたんだ…なんか悲しい。
…だけどね…、ひとつだけ、あの彼のバルーンだけはね、光がどんどん澄んでいって…涙色の光になってた。怖かったけど聞いてみたの、そしたらね…
「本当は今でも大好きだよ。だけど僕じゃ、まひろを幸せにできないから…」って、泣きながらね…言ってるの…泣きながらね…
…あああ、もう!こんなことしてる場合じゃないわ!ごめん、ちょっと彼のとこ、行ってくる!ここのお勘定は後で返すから!ごめんね!じゃね!!
[了]
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創作サークル『シナリオ・ラボ』2月の参加作品です。お題は『私のお気に入り - My Favorite Things』。
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