ヒューマン・アフター・オール 〈序章〉
「君たち警察が妙なことを吹き込むから、領事局が発給を渋っている。一体どういうつもりだ」
「貴省領事局の判断は当庁の関知するところではありません」
ロシア課ナンバーツーの首席事務官を名乗る不機嫌そうな男からの電話に対して、警察庁の係長は手はずどおりにしらを切った。 外務省が治安上の脅威を及ぼしうる人物に対してビザを発給しないか目を光らせる警察庁からの出向者は、きちんと仕事をしていた。出向者が警察の有する情報——より厳密にはインテリジェンス——をもとに事務を遂行していることは