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ヒューマン・アフター・オール

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#シンゴジラ

ヒューマン・アフター・オール 〈序章〉

「君たち警察が妙なことを吹き込むから、領事局が発給を渋っている。一体どういうつもりだ」 「貴省領事局の判断は当庁の関知するところではありません」  ロシア課ナンバーツーの首席事務官を名乗る不機嫌そうな男からの電話に対して、警察庁の係長は手はずどおりにしらを切った。 外務省が治安上の脅威を及ぼしうる人物に対してビザを発給しないか目を光らせる警察庁からの出向者は、きちんと仕事をしていた。出向者が警察の有する情報——より厳密にはインテリジェンス——をもとに事務を遂行していることは

ヒューマン・アフター・オール 〈第一章〉

 警察庁の本部刑事局長は、沢口長官官房長からの指示を聞くなり、露骨に多忙をかこつかのような口調で呟いた。 「こんなときに人捜しですか——」 「矢口副長官からだ。彼の先代には世話になった、最優先で頼む。鑑取りにどれだけ人を割いても構わん」  このほど大田区から品川区にかけての一帯を派手に蹂躙した、巨大不明生物による災禍は、当然、警察庁にとっても対岸の火事ではなかった。大河内清次総理は、災害対策基本法に規定された災害緊急事態のほかに、警察法第七十一条を根拠とする緊急事態も布告