雑誌『新国民』の付録絵葉書
雑誌『新国民』と大日本国民中学会
一條成美の絵葉書を紹介しよう。
雑誌『新国民』の付録となった絵葉書2枚である。
『新国民』は通信教育をおこなっていた大日本国民中学会の機関誌で、雑誌『日本之青年』の後継誌として、1903年4月から発行された。
大日本国民中学会は尾崎行雄を会長として1902年に設立され、運営は幹事の河野正義があたった。通信教育の教材として、講義録を発行した。
『新国民』は会員向けの投稿雑誌であるが、博文館の『中学世界』と同趣の、論説やエッセイと投稿欄を組み合わせた目次である。
付録絵葉書 その1
まず、『新国民』第9巻第3号(1909年6月1日、大日本国民中学会)から見ていこう。
付録絵葉書は、ミシン目が半分はずれかかっている。
こうして、付録絵葉書が残っている場合はきわめて少ない。
花と女性の組み合わせは、日本葉書会発行の初期の絵葉書にも見られる常套的な画題であるが、植物はススキに見えるので、6月号の季節に合わない。ヨシやオギも秋に穂が出るので、やはり季節が合わない。
合うものを探すと、初夏に穂が出るカモジグサだろうか。
半襟の部分と着物の格子柄にドットが見られ、地紋フィルム(マンガに使うスクリーントーンのようなもの)が使われている。石版印刷の描画の簡素化がはかられている。
付録絵葉書 その2
次に『新国民』第10巻第3号(1909年12月1日、大日本国民中学会)の付録絵葉書を見てみよう。
やはり、ミシン目はいまにもはずれそうである。
水仙と女性で、12月号の季節感に合っている。
ショールや背景の水仙の葉の部分にドットが見える。
女性は、指先の出た手袋か手甲をつけているようだ。
《日本の身装文化》のデータベースで検索すると、ちょうど同時代の女学生が手甲をしている写真が見つかった。ただ、これはファッションではなく武道の用具である可能性もある。
ショールは大きなものばかりでなく、さまざまなタイプの既製品があったというが、絵葉書の女性のものは比較的小さなものである。
これも、《日本の身装文化》のデータベースに事例がある。
傘のにぎりの部分が球形なのはモダンな感じがする。
柄を合わせてあるショールや傘が西洋的でモダンであり、着物や帯の伝統的感覚と対比がはたらいているようだ。
絵葉書には2枚とも「大日本国民中学会女学部絵葉書」と記されているが、女学部は実際に存在しており、女性対象に通信教育の講義録の販売をおこなっていた。
質実さを感じさせる表紙画(作者未詳)は男性に訴えるものがあり、絵葉書は女性向けに作られているということだろうか。
たぶん、それは口実で男性読者も付録の絵葉書を楽しみにしていたと思われる。
一條成美が亡くなるのは、1910年8月12日であり、今回紹介した2枚の絵葉書は晩年の作品ということになる。
【編集履歴】
○2022/11/07 9:09
2枚目の絵葉書について、女性の「手甲」が、指先の出た手袋である可能性もあるという記述に変更。
*ご一読くださりありがとうございました。
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