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明治の雑誌・本の版画から

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明治の雑誌・本には木版画や石版画が掲載されています。 版画も印刷なのですが、味のあるものがけっこうあります。 オリジナルの図版を使って、版画の魅力を紹介していきます。
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2022年8月の記事一覧

『明星』の木版:和田英作《ジブラルタル》

はじめに  東京新詩社の雑誌、第一次『明星』は、誌面上で文学と美術の交流をはかり、なかでも版画の掲載を目標の一つにしていた。  主宰である与謝野寛は、「明星」終刊号(1908年11月5日)の「感謝の辞」で、「新詩の開拓と泰西文芸の移植と、兼ねて版画の推奨とを以て終始し得た」と書いている。『明星』は最後の2年、1907年、1908年は売れ行きも落ちて、版画の掲載は激減したが、1905、6年頃は、意欲的に多色木版を掲載していた。 1906年の『明星』表紙画  『明星』午歳第

黒に黒を重ねる:『方寸』の石版《りんごの花》

雑誌『方寸』  『方寸』という雑誌がある。1907年5月に創刊され、1911年7月まで35冊を刊行した。創刊時の同人は太平洋画会系の画家、石井柏亭、森田恒友、山本鼎の3人であった。  刊行2年目から倉田白羊、小杉未醒、3年目から織田一磨、坂本繁二郎が加わった。  創刊時の同人3人はヨーロッパの『ユーゲント』や『ココリコ』を手本にして、エッセイや詩に豊富な図版を挿入した雑誌を目指した。同人たちは木版や石版にジンク版などさまざまな版式を試み、「文画併載」(小野忠重)の雑誌を安価