ドイツの外国人局でみた笑顔

海外生活をする人が避けることのできないもの、それは滞在許可証の取得だ。

ドイツで許可証の手続きをするには外国人局(Ausländeramt)まで出向く必要がある。

朝七時過ぎ。受付開始まで何十分もあるというのに外国人局の前には長蛇の列。列の前後からいろんな言語が聞こえてくる。


それぞれに違う背景があり、事情もそれぞれ異なるが、滞在許可証取得へ向けた懸命な想いはみな同じだろう。

外国人局にいい思い出がある人はあまりいないのではないか。控えめに言ってもストレスのかかりやすい環境である。

フランスにいた時は午前中いっぱいまで待った挙句、「今日はここまで。明日またきてください」と自分の目の前で受付が終わってしまったこともある。

順番が回ってきたとしても許可証の発行には取得や労働の証明などが必要で、当日に万事OKとならないこともある。

そして、並ぶ人のふるさとは外国人局から遠く離れたところにある。


ボンの外国人局。一時間ほど列にいるとようやく入り口が見えてきた。ガラス張りのドアからは空港でよくみる大きい金属探知機が二台見える。

手続きを終えた人たちが入り口から出てくる。今日の手続きが穏やかに進んでいることが彼らの顔つきからわかる。

そんな中、ひときわ目立つ笑顔が飛び出してきた。


順番が近づく。

扉が開き、きれいな銀髪をたずさえた女性が出てくる。

発行されたばかりであろう、小さな許可証を両手でこぼれ落ちないように持っていた。

手元から目を離さず真っ直ぐに建物から出てきたので、もう少しのところで警備員とぶつかりそうになる。


許可証の中から見つめ返す証明写真の彼女は坊主だった。

彼女のドイツ滞在に対する思いや許可証取得までの苦労は誰も知らない。

無言のまま列から離れていく。

数歩進んで再び立ち止まる。その背中は嬉々としている。


突然、踵を返して歩き出した。

彼女は泣いていた。

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Gota Shirato / 白戸豪大
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