聴きくらべ
先日、面白い体験をした。
高級スピーカーの聴きくらべ。
会社の重要なポストを退いて、念願通り若くしてセミ・リタイヤの身になった後輩が、家を新築した*のを機にオーディオ・システムを入れ替えるというので、それを選ぶのにつきあうことになったのだ。初回は、音の性格を決めるというスピーカーの試聴からということに。
お茶の水で待ち合わせて、まずは近くの小川軒でランチ。ついで向かったのは、7階建てのビルが全部オーディオショップの試聴室というお店(探すのにちょと手間取ったのは、今まで手配してくれる部下に恵まれていたせいか。私生活においてはなかっただろうけれど、いや奥方が……)。
ちょっと緊張して店に入ると、たくさんの高価なスピーカーが眼に飛び込んできた。これは、まあ、普通の量販店で見られないわけじゃない。で、ちょっとがっかり、ちょっと安心した(何しろ高級オーディオ専門店には、とんと縁がない)。改めて見回すと、先客も何人かいる。
それからしばらくして、あんまり売り込む気もなさそうで愛想のない店員さんに、試聴をお願いした。
お目当てのスピーカーはJBL。でも、そこに置かれていたのは、彼が目星をつけていたものではなく、下位のシリーズのものらしい。それでも気を取り直して、まずはジャズ・ヴォーカルから始めた。次いで、タンノイ、そしてスペンドール。やっぱり大きなスピーカーで、少し大きな音で聴くのはいいなあ。川を吹き渡る伸びやかな風のように爽快だ。
違いはといえば、初めはあんまりわからなかったのが、比べているうちにだんだんずいぶん異なって聴こえるようになってくる。
当然のことだけれど、それぞれに良し悪しというか特徴がある。一方は、ヴォーカルは前に張り出してくるし、ドラムのスネアはいいけれどやや高音がうるさいような気がする。かたやヴォーカルは柔かい響きでたっぷりとしているけれど、逆に金属系の楽器の音は奥に引っ込んだように感じた。
さらに音源をクラシックに変えてもらって、試聴を続けた。
で、僕はおまけのつもりで聴いたスペンドールが断然いいように思った。強調された感じがなくて、ライブとは異なるけれど、自然で聴き疲れしない(ま、プレイヤーやアンプ、そして音源のCDの影響も大きいだろうけれど)。ちなみに、価格はといえば、ペアで70〜120万円くらい(僕のものとは一桁違う)。スペンドールは、ちょうど真ん中あたりの価格帯。
でも、これで驚いていてはいけないのでした。ものはついで、目と耳の保養に、と行った最上階のハイエンド・オーディオのコーナーというか部屋の一画に置かれていたのは、システム1式が1,000万円を超えていたのだ。下階に降りるにつれて、価格も下がるのだけれど、いずれもゆっくりと落ち着いて試聴ができるようになっている。
いくつかの階では担当のスタッフが電話で話している最中(たぶん、聞こえてくるその話し振りから想像するに、お金に不自由しないオーディオ・マニアの専属コンサルタントといったところではあるまいか)。2階まで降りると、ちょうどお目当のJBLのシリーズがあったので、少し待って、聴かせてもらうことに。最初に聴いたものとは違って、ずいぶん優しい音だった(むろん、音源その他が違うのだから単純に言うわけにはいかないのですが)。でも、その大きさと新素材を多用した正面のデザインが、ちょっとおおげさのような気がした。
で、当の本人はといえば、やっぱりJBLがいいとのこと。綺麗な音よりも、ライブ感を大事にしたいと言うのだね。
初めての経験を、僕は大いに楽しんだ。高級なシステムから出てくる音にも感心したけれど、ぜひ手に入れたい、とは思わなかった。経済力のことはあるとしても、それよりも自身の音楽を聞く態度を思った時、そこそこの機器(不快な音でなく、気に入ったデザインのもの)で楽しむことができるし、それで十分という気がしたのだ。
もちろん原音に近い音の方が良いという人が多いのかもしれないし、あるいは、綺麗な音の方が好きという人も少なからず存在するに違いない。しかし、大型スピーカーをはじめとする機器で本格的に楽しもうとすれば、大きな音を求めることになるに違いない。とすれば、機器だけでなく部屋から整えなければならなくなるだろうし、疲れそうでもある(ちょっと負け惜しみ?)。
ところで、比較することに対しては、例えば、競争的である、あるいはあなたはあなたらしくあればよいので他者と比べる必要はないなどの否定的な意見もあるけれど、これを額面通りに受け取るのはいささか愚かなことではあるまいか。優劣をつけるというよりも相対的にみるということなので、多くの場合、いろいろなことに気づかせてくれるはずと思うのです。(F)
*本人が言うのには、ごく普通の家がよかった。僕のことも考えたのだけれど、奥さんに相談したら「言いたいことが言えなくなりそう」となって断念し、街場の工務店経由で設計者を決めたらしい。残念。そんなことは無いのに。でも、何かあるのでしょうね(反省)。
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