【コラム】 赤字のプロチーム

KWZ運営日誌 No.002


「e-sportsチームは黒字経営が正義である」


これはKWZ代表のはっきーが繰り返し口にしている文言だ。

彼の言い分はこうだ。
「昨今のe-sportsプロチームは赤字経営のチームが多すぎる。すごいチームに見せるために予算の限界を超えた報酬や費用を支払うチームが多く、赤字のプロチームが”見栄の張り合い”をしている。」


危機感

彼の文言をから読み解けるのは危機感である。

e-sports業界は利益を生み出せないのだとスポンサー企業達に認識されてしまうと、業界の衰退を招きかねないという危機感だ。


持続可能なチーム

そうした思想の元、KWZはチームの方針として
”赤字チーム同士の見栄の張り合い”から距離を置く方針を取っている。

彼らはこう言う、
「持続可能なチーム運営をすることが我々のポリシー。採算が取れず寿命が短いチームに所属するよりも、安定していて末長く続くチームに所属する方が選手にとって安心であるはずだ。」

「選手のキャリア表にいつまでもKWZの名前が輝やくことに意味がある。
元所属チーム欄にとうの昔に解散したチームの名前を書かれてもピンと来ないだろう?」

もちろんKWZの幹部達は、身銭を切って業界を盛り上げてくれているチームもリスペクトをしている。
それと同時にどこか別世界の住人を見る様な目線を向けている節が感じられる。
これにはKWZの黒字経営への執着とも言える思想が背景にあるのだ。

e-sportsを観戦する側が見たいのは、猛者同士の本気の戦いであり、マネーゲームではないはずである。



相場を狂わせる存在

チーム運営の目的は様々だ。
オーナーが趣味として運営しているチームもあれば、企業が初期投資として赤字覚悟で大金を投じているチームもある。
趣味の範囲内でお金を使って赤字を出したり、
初期投資と割り切って赤字覚悟の拡散期を戦略的にしているチームもリスペクトされるべきで、
真っ当なチーム運営と言える。

しかし、KWZ幹部の立場からすれば、彼らは採算度外視であるが故に”相場を狂わせる存在”なのだ。

今は赤字運営かも知れないが、将来的に黒字化する意思があるチームも多いことだろう。
しかし、黒字化する意思があるかどうかと、実際に黒字化できるかどうかは別問題である。

e-sportsチームを黒字化し、それを維持していくにはたくさんの障壁がある。
その証拠に、国内の某大手プロチームは数億円の赤字を毎年計上している。
(そのチームは、オーナーが億単位の赤字に耐えられる富豪であるから成り立っている。)




e-sportsバブル崩壊

コロナ禍が終わり、”少なくとも日本国内では”
e-sportsバブルが崩壊した。

コロナ禍においては、オンライン上のビジネスに関心がある企業が多く、e-sports業界全体がスポンサーに恵まれた。

ステイホームの世の中であったのでYouTubeの再生数も伸びやすく、盛り上がるFPSゲームタイトルも多かった。
(APEXは社会現象だったと言っても大袈裟ではないだろう)

しかし、コロナ禍が明けた現在、e-sportsバブルは崩壊し、スポンサーをする企業は減った。
報酬未払いで炎上するチームや解散するチームが2023年はよく見かけた。

これをコロナの脅威が薄れたからだと片付けるのは簡単だが、コロナが明ける前に日本のe-sports文化が充分に前進できなかった、間に合わなかったとも言える。



砂上の楼閣

現在もe-sportsバブルの相場感で生きているチームは存在する。
彼らも赤字から脱出しない限り、破滅の時を待つ運命にあるだろう。

赤字運営の上に成り立つ偶像のブランディングは、たった一度の報酬未払いやその他の金銭トラブルで信用を失い、一瞬にして崩壊する。

まるで砂上の楼閣の様に。



固定報酬15万円

筆者が過去に別チームで加入希望者面接の担当をしていた時に、とあるAPEXプレイヤー3人の面接を担当したことがある。


彼らは3人セットで応募してきた。
APEXの3人固定である。

私はまず、彼らに希望する待遇を聞いた。
彼ら3人は、月の固定報酬5万円の希望を口にした。

次に私は、彼らの実績を聞いた。
3人とも最高ランクはマスターで、ALGSの予選で少し実績があるらしい。
(マスターはAPEXの最高ランクのプレデターのひとつ下のランク。海外のトッププロはプレデターがほとんど。)

X(Twitter)のフォロワーは3人とも500人前後だった。

私は一通り彼らに質問をした後に、どの様にして当たり障りなく不採用にするかを思案し初めた。

最高ランクがマスターの3人に月5万円を支払えば、APEX部門のランニングコストは月15万円になる。

Xのフォロワーの合計が1500人程の彼らに毎月15万円を投資しても回収できないのは誰の目にも明らかであった。

君達は何を言っているんだ?

喉の奥まで出かけた言葉を飲み込んだ。
私は、採用の場合は1週間以内に連絡しますと、まるで学生バイトの面接の断り文句の定型文みたいなことを口にし、その場をお開きにした。

今思えば、彼らも狂った相場が生んだ産物だったのかも知れない。


時代の転換点

近い将来、赤字チームは淘汰されて黒字チームが生き残る時代がやって来た時、狂った相場の報酬に慣れた選手達は何を思うのだろうか。
(いや、近い将来ではなく現在進行形で起き始めている事かも。)

妥当なクオリティに妥当な金額。
どの業界も月日が経ってある程度成熟してくるとここに落ち着く。需要と供給というやつだ。

職業としてのプロゲーマーを志す読者がこの中にもしいるのなら、チーム選びは慎重に。


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