【詩】まぶたのはじまり


   まぶたのはじまり

うっすらとした空の水色が憎かった。
果てしない平らかさに怒りを打ち上げた。
わたしは死んでいくのに
世界にはいつも続きがあった。
見つめていなければ、
大抵のものは損なわれていく。
この目はただ二つ。
胸の奥に眠るのはいくつ?
忘れずに揺り起こすのだ。
されば、赤子のまぶたへ切れ目を入れる
神のかがやくナイフも見える。

見つめ合うことを許さない太陽はずるい。
そのまぶしいずるさによって、
わたしという光景を焼きつけていく。
つかまえておけるのは目の前のものだけ。
なのに遠くを見るふしぎ。

視線の流れる先々で
わたしは続きに出会えるはずだ。
雲へ背を伸ばし、うたうように耳打ちしたい。
お腹の中での記憶のこと、
拍を刻んだつま先のこと、
指紋つきのセロテープのこと、
夜に射す夢の明るさのこと――
ことづけて。

開かれたまぶたへ
新たに光はおしよせる。
ふたたびこの世を生きのびていく。
世界はいつもはじまっていた。

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