映画「沈黙のレジスタンス」感想

 よく行く映画館での「ホロコーストの罪人」の鑑賞期間が終わり、本日から「沈黙のレジスタンス」が一週間開かれている。偶然にも行ける時間が出来たため同じ時期を扱っている映画を見てみることにした。

 映画の正式な名前は「沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家」。名前の通り、実際にユダヤ孤児の逃亡に際して功績を遺したパントマイマーを題材にした作品となっている。フランスに住んでいるマルセルは俳優を夢見た青年だが、家族からの評価は自分のことしか考えていないダメ息子である。しかしマルセルは従兄弟と好意を寄せている女性の行っているユダヤ人の孤児を保護する活動に参加するなかで心変わりを見せていく。アーティストになる夢はそのままに、自分のことだけではなく子どもたちのことを、そしてユダヤ人のことを考えられるようになっていく。しかしそのような中でも世界史は動き続けていた。ナチス・ドイツの力は強まり、子どもたちもより南への疎開を余儀なくされる。休まる間もなくフランス全土がナチス・ドイツに占領され、ユダヤ人差別も激化。仲間も拘束・射殺される中でもマルセルは一人を殺すのではなく、一人を助けるために子どもたちと共にスイスへの逃亡を図るのだった。

 物語全体を見るとこれはマルセルの英雄譚である。しかし、その中身はそんな生易しいものではない。「ホロコーストの罪人」などと比べれば救いのある話ではあるが、射殺、拷問、逃亡の末の死、文字で伝えられるマルセルの父がアウシュビッツに連れられて行った事実からは多くの犠牲と共に、彼らの協力あってこそ成し遂げられた子どもたちの逃亡であることが分かる。
 個人的に所々の時間経過の描写が足らない気がする感覚もあったが、この作品はマルセルの従兄弟であり、共にレジスタンス活動をしていた方の話と残っている歴史的書類から作られていることを知り、納得がいった。描写が足りないような気がした箇所は、確かに書類上に残っていそうなものでもなく、また、共に活動していたとしても覚えているとは限らないところだったからだ。
 この作品はフィクションとノンフィクションを交差させた作りをしているが、マルセルの活動を知ること、マルセルが戦後行い続けていたパントマイム「ピップの兵士」の重みを感じることは十分にできる。

 「ホロコーストの罪人」の感想の時に無音の使い方が素晴らしいといった。対してこちらの作品はあまり無音の箇所というのはないのだが、マルセルの行うパントマイムは「無音の芸術」である。無音の中、身振りだけで子どもたちを笑わせることも、落ちつかせることも、思いを伝えることも出来る。同じ「無音」でも、「沈黙のレジスタンス」の無音は暖かさを感じる無音であった。同じ時期を扱った作品ではあるが、違う「無音」を感じることが出来て個人的にはとても良い体験になった。

 明日は今までとは打って変わり、「東京クルド」を観に行くつもりである。可能であれば、こちらも感想を書きたい。

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