のろわしきDumpling
イギリスのスナク首相がG7で広島風お好み焼きを焼いて食べたニュースを、ロイターの英語版は首相が"pancake"を食べたと報じていました。
pancake。
新英和大辞典による定義はこれなので、たしかに「粉を使った生地を平たく丸く焼いた」お好み焼きは、パンケーキ以外の何ものでもない。が、日本人なら大体の人が「お好み焼き=パンケーキ?」と違和感を持つんじゃないでしょうか。
それは日本において「パンケーキ」が甘いホットケーキのイメージで膾炙していることも大きい……が、コウビルド英英辞典にも「パンケーキはアメリカではバターとメープルシロップを添えて朝食に出る」なんて書かれているので、日本とアメリカの「パンケーキ」イメージはそれほどかけ離れているわけではなさそう。
ただ、「お好み焼き」を英語で表す時に「pancake」以上の語がなかった、ということなんでしょう。外国語同士にはよくあることで、文化と密接につながった料理のジャンルでは特に「これがないの?」が起きやすい気がする。
なんて考えてたら、
dumplilng
を思い出した。
dumplingは、翻訳中に会いたくない単語のひとつ。
ランダムハウス英和大辞典を引くと語義はこう。
小麦粉を練ってゆでたもの。
日本語でいうなら「すいとん」あるいは「団子」のイメージだが、とにかくこれが含むものが多いのだ。
前述のすいとん、団子、ギョウザ、シュウマイ、ワンタン。このへんは全部dumplingである。しかも(あまり使われているところは見ていないが)
パイ類までdumplingと言えるらしい。粉練って料理すればdumpling。中味が入っていようといまいと、肉が入っていようが野菜が入っていようが果物だろうが、食事用でもデザート用の甘いのでも、煮ようが焼こうがdumpling。
大ざっぱすぎないか。
「ちまきもdumplingです」とかなら「まあローカルですし」としか思わないが、団子とギョウザとシュウマイとパイがいっしょくたというのは感覚的に「いや全然違うだろ!?」となってしまう。焼きギョウザも水ギョウザも一緒だと???とか。
食い物への思い入れの恐ろしさである。
ちなみに小籠包は「soup dumpling」と言うらしいです。水ギョウザじゃないのね。
英和辞典で見ても大ざっぱなdumplingだが、英英辞典だと輪をかけて投げやり(私見)である。
コウビルド英英によればこう。
「dough that are cooked and eaten」。
粉の生地に熱を加えて食えばそれがdumpling。
粉もの文化があるようでないのか、何でこんなにざっくりとまとめているのか。
訳している最中、料理のシーンでシチューにdumplingを入れた、などと書かれていると内心天を仰ぐ。小麦粉の何かを入れたということ以外何もわからない。
すいとんを入れたとか訳すと登場人物の食生活や嗜好が怪しまれかねないし、こういう時は大抵何を入れたかより「ちゃんとしたもの作ってるな」という空気が大事なので、そこに「えっ、今何を入れたって言った?」というブレーキを仕込むわけにはいかない。
そこで「stew dumpling」で検索し、団子だなこれは……ということを写真やレシピで確認して「団子」とか「練り団子」とかに着地したりする。
直近に刊行した「BOSSY」でも、ブライスと親友のテレンスが食事をするシーンでdumplingを食べていましたが、これは「中華料理屋」で「箸でつまんで」食べているのであまり迷わず「ギョウザ」とした。でも焼きなのか蒸しなのかはわからないし(オーストラリアの中華レストランのメニューを見る限り焼きギョウザはよくあるようである)、いっそシュウマイという可能性もなくはないのでした。
何食べてたんでしょう。。。
ちなみに、dumplingを新英和大辞典のほうで引くと
とあって、また聞いたことのないものが出てきて困るのでした。ケンネ脂って何。
そこは大辞林に救いを求めると
というお答えでしたが、なんで新英和大辞典のdumplingが「刻んだ牛脂を使った練り団子」なんてこだわりを見せているのかはやっぱりよくわからない。かなりギトギトのdumplingになりそうな気がします。
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