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大切な相棒が見知らぬ男にさらわれた話

俺には大切な相棒がいる

口数は少ないけど、言葉を交わさなくてもお互いの気持ちはわかっている

そんな関係だ

どこへ行くにもいつも一緒の相棒——。


その日も一緒に出掛けた

俺の愛車の右側に相棒を乗せる

今日は久々に晴れだ

眩しいくらいの太陽の光を浴びながら風を感じて長い坂を降りていく

交差点を抜ければ街に出る


休日ということもあって街は賑わっていた

相棒は言葉には出さないが楽しそうな笑顔で俺のほうを見た

ご機嫌だ



そのときだった……



前から見ず知らずの人相の悪い男がフラフラと近寄ってきた


イヤな予感がした


「ニヤリ」


その男は不気味な笑みを浮かべると俺の頬に激痛が走った

いったい何が起こったのか

まったくわからなかった


ほんの一瞬、数秒か、もしかしたらもっと短い時間だったかもしれないが

自分には長く感じた

気を失っていた


気がつくと、

俺の隣にいたはずの相棒が居ない

とっさに状況を把握して振り返る

さっきの男が俺の相棒を……

俺は声を上げようとしたが声にならなかった


その男は雑踏の中に消え、見失ってしまった……


俺は自分の無力さに打ちひしがれていた

あの男を追いかけて、相棒を助けに行きたい


だが、俺には出来なかった……


様子のおかしい俺に気づいたのか、ママンが話かけてきた


「あら、あんなに大事にしていたお人形さん、どこかに落としてしまったの?」


違うんだ、ママン!

落としたんじゃない

さっきママンがお肉売り場に行ったちょっとの間に

見知らぬ男が俺を殴って、相棒を奪っていったんだ

取り返したい、できるものなら今この車を降りて取り返しに行きたい

ああ、ママンよ、取り返してくれ!


必死にそう言ったつもりだったのが

ママンにはまったく伝わっていない様子だった


だって、俺はまだ喋ることができなかった——




これが私のいちばん古い記憶である。

今でも時折思い出して胸が締め付けられるんだ。

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