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DAY12 コロナに罹るなと言われるのもストレスだ

我が家は、両親も姉たちも私も、家族全員が独り暮らし中という完全な核家族(ただし、母は老人ホーム暮らし)。
私は三人姉妹の末っ子だ。

が、40なるあたりから、気づけば実家の実務回りを一手に担う羽目になっていた。特に金融機関や病院、施設などの、手続きや手配関係である。
どういう訳か、昔からこの手のことに勘が良い上、即断即決のスピードは超がつくほど速い。
去年の4月に母が入院、からの6月に老人ホーム入居、という怒涛の3ヶ月も、この能力で乗り切った。

とはいえ、今回のコロナは勝手が違う。
親がコロナや、そうでなくても命に関わる病気にでもなれば、さすがの私も頭を抱える。
なにせ、我が家族の居住地は、福岡、東京、フランス。全て外出自粛か禁止されている場所だ。
誰かに何かあっても、そう簡単には飛んで行けない。

なのに、この最中によりによって、福岡の父が入院した。
肺炎でもましてやコロナでもないが、しばらく原因がわからず本人はパニックだ。

なので、私が病院の窓口だのソーシャルワーカーだの医者だのと話し、ついでに銀行関係と話して入院費支払いに向けて態勢を整えた。
父の病状が落ち着く頃には、すっかりやるべきことは済んでいた。
去年の母のことに比べれば、大したことはない。

辛かったことといえば、医者から、ものすごく丁寧な言葉遣いで、お前絶対福岡来るんじゃねえぞ、と、病原菌のように言われたことぐらいか。
仕方がないけど……。

そんなこんなで、父の病状は今ではすっかり安定し、今日(実際は昨日か……)の電話では、呆れたことに病院食が美味いと言って、入院ライフを満喫している。

院内感染とか怖くはないのかね、と思ったが、本人は、

「ここまで良くしてもらってる病院で、コロナに罹るんなら仕方がない」

と神妙に言う。

そして、

「だけど、お前は絶対、コロナに罹るな」

と、珍しく父親っぽい強い口調で続けた。

「俺やお母さんが死んでも、お前が後始末出来る。万が一、姉さんたちに何かあっても、お前なら助けられる。でも」
「お前が倒れたら、俺たちはどうすればいいかわからん!」

……老いたとはいえ、それが父親の言うことかよ!

すっかりあきれ果て、姉たちとのLINEで文句を言ったところ、返ってきたのが、

「私も、おんなじこと考えてた」
「私じゃ無理」

別にコロナに罹りたいとも、罹ってもいいやとも思ってないし、ましてや死にたくもない。
ないがしかし、罹るな死ぬなと言われるのも、思っていたよりプレッシャーだ。
末っ子を心配してくれているのだとは、わかっている。でも、私がいないと困るから、というのも彼らの本音のひとつであるのは、間違いない。

だって、本当に、家庭内の手続き手配に弱いだ、この人たち。
実は父の入院直後、姉に一日だけ福岡に飛んでもらい、父が不在の間の諸々始末をしてもらったが(見舞いは病院が許さず。当然だ)、逐一指示を仰ぐ電話が来た。
彼女はコンサルをしていて仕事はデキる人なのに、家庭のことになると思考停止する。仕方ないので、上司に頼んで2時間ほど離席させてもらったほどだ(当時はまだ出社していた)。

コロナだろうと災害だろうと事件事故だろうと、私は彼らを残して死ねない。
ただ、一番ヤバそうなのは過労死かな……と胸のうちで思っていたら、姉から一言。

「とりあえず仕事は適当でいい」

なんだかなあ。
自分のためだけではなく、違うプレッシャーの元でサバイブするのは、何だか妙にやるせない。

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