初めてガラケーからiPhoneに変えてやり方がわからない話

10年ほど前の東京に住み始めてすぐの頃、知り合いは数少なく地元の友達は貴重な存在だった。

この友達たちは優しく、東京を知らない私を助けてくれるのだが頼んでないのに私の引っ越しを手伝い、デートをしてると「今ぬきんちの近くで飲んでる！みんな来てるから！早く来て」と大変お節介でもある。
　
メンバーはオシャレで大声で雑な女チアキ、美大に通い美人のコスプレをしているが部屋がはちゃめちゃなたなべ、チアキの彼氏殺し屋、みんな地元の同級生。

東京に行った頃の私はガラケーでみんなにその事をめちゃくちゃバカにされる。
東京に来る前はiPhoneを持っている人は周りにほとんどいなく、あまり見かけなかった。
だがここは大都会東京。友達はみんなはiPhoneを持っている。それどころか電車に乗ってるサラリーマンのおじさんもパチンコ屋から出てくるおばあちゃんも亀戸餃子の大将も全員iPhoneを持っている。
東京という都会でガラケーを持っている人口は私一人だけ。

お節介な友達は行動力も実行力もすごいので私のガラケーをiPhoneに変える話しをみんなで進めている。もちろん私の気持ちは無視で空いている日の確認、近くのソフトバンクを探しどんどん話が進んでいく。

当時はiPhoneを買えるのがソフトバンクしかなく私はそれまでdocomoを使っていたので携帯の乗り換えが少し面倒くさいが私以外はみんなノリノリでどんどん話しが進む。

無事にiPhoneを買った私はなんだかんだ人生初のiPhoneになった事と、東京にふさわしい都会の女になった事、東京のガラケーの人口をゼロに出来たことが嬉しかった。

だが問題はここからである。
使い方がわからないのだ。
メールの設定やTwitterのアカウント作成（もちろん頼んでない）はチアキがやってくれるが
iPhoneの操作を誰も教えてくれない。
ねぇねぇ！ねぇ！ねぇ！！！と大声で聞けば
10回に１回答えてくれるくらい打率が悪い。

iPhoneに変えるところまでを楽しんでいたあの人たちの目標は達成できたので誰も私に使い方を教える事に興味がない。
帰りの電車でみんなとグループメールをするも私はフリック入力が出来ないので返信が遅れる。
［お］なんて打ちたい時は最悪だ。
［あ］を５回も押さないといけない。
それでもみんなに追いつきたい私はハムスターがひまわりの種を食べてる時のカリカリカリカリカリの速さでタタタタタタタッと画面を押す。
電車の中で一生懸命人先指を連打してる私はハムスターのようでとても可愛かったと思う。

そして次の問題が起こる。
メールが来るたびにデカい通知音がなる。しかもグループメールなのでそれが止まらない。
私のタタタタタタタタッの音すらうるさい。
しかも音がバカでかい。
私は公共の場でうるさくするのが嫌いだ。
なのにマナーモードにするやり方がわからない。音量を小さくする方法もわからない。
グループメールでみんなに聞くけど誰も教えてくれない。興味がないから。
「誰も教えてあげないのウケる」というメールまでくる。
そのメールの通知音すらうるさいのに内容もうるさい。
私も自力で一応探すがガラケーのようにマナーモードのマークみたいなものがない。
都会に相応しいiPhoneにはガラケーのようにごちゃごちゃと色んなマークは無いのだ。許されるのはりんごだけ。
そのうち「iPhoneの横のボタンをカチっとするんだよ」と教えてくれる内容のメールが来た。

来た！これだ！！
横のボタンをカチッと！そうか！！！

と押すが画面が消えるだけ。真っ暗。
私は電源ボタン押していた。
上手く押せてないのかも…と何度も試みるが
何度やっても画面が真っ暗になるだけだ。
もちろんその間にもメールの通知音がなり焦る。

「画面が消えるだけでマナーモードにならないと」とグループメールをするも「ウケる」の返信しかこない。
こんなに困ってるというのに。買う時の契約までずっと隣にいてくれたのに。
「iPhoneを買うならパソコンが無いと意味ないですよ」と店員さんに言われパソコンを買うのも助けてくれたのに。
今は誰も助けてくれない。
買わせたら捨てられる。買わ捨てされたのだ。

もういいや…とポケットにiPhoneを閉まってもグループメールが来るたびピコーンピコーンと車内で鳴り響くので上手く無視もできない。

だが私はやり遂げた。
やっとカチッとするボタンを見つけたのだ。
カチッとしてみると無事にマナーモードに出来た！！！！

やった！！

私の中の私が全員スタンディングオベーション。
ついでにその下にあるのも音量ボタンだとわかり私はもう無敵だ。
グループメールが来ても自分の文字を打つ
タタタタタタタタッも無音に出来る女。
どこに出しても恥ずかしくない都会の似合う良い女に生まれ変わった。　
あれから10年以上が経った今でも私はiPhoneを使っている。

#iPhone #東京 #ガラケー #お節介な友達