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超年下男子に恋をする㉖(超年上女は若くて可愛い女子恐怖)

 新しいバイトで19歳女子が入った。
 彼女の名前はミワ。

 新しいといっても、ミワは高校生の時、同じ店でバイトしていた。
 私が一時帰国の短期で働いた時、ミワには色々教えてあげた。高校生の中で一番仕事ができる子だった。

 短い期間だったけど、彼女は私のことをとても慕ってくれていた。
 その後、卒業後一度就職したけれど半年で退職した彼女は、私が戻ってきてるというので、また同じ店で働きたいと言い出した。

 そこまでなつかれてうれしいけれど、ちょっと複雑な気持ちだった。

 なぜならミワは若くて可愛い。
 彼がミワのことを好きになったらどうしようという心配があった。

 なにせ彼は自称「一目ぼれタイプ」。
 会った瞬間恋に落ちるなんてことがあるかもしれない。

 そしてミワが初めて彼とシフトがかぶった日。
 私はその日休みで、本当に気が気じゃなかった。

 彼は私がいない日は自転車通勤をしている。
 そしてその日、ラストで帰りが一緒だったミワを途中まで送ったという。

 それをミワから聞いただけで動揺してしまった。
 ミワは私を慕って戻ってきたというのに、心底喜べない思いがして、女って本当に嫌だなぁと自己嫌悪に陥った。

 彼に会ったとき、ミワのことをどう思うのかを探ったりもした。

「ミワ、かわいいよね」

なんて、本当に女の嫌なところ全開。

 彼の態度はよくわからなかった。いつもの無表情。基本的に何も考えてない時の顔。

 前に、彼が女子高生の桜ちゃんと親し気に話していた時、私はヤキモチを焼いたことがある。

 そしてさらに大人げないことに私はその後しばらく桜ちゃんにそっけなかった。

 日ごろ、若い子たちを可愛がってる私が仕事のフォローをしないってのは周りから見てもわかりやすく冷たい。

 そんな私に彼は

「仲良くしてくださいよ! 相手はまだ高校生ですよ!」

と言ってきた。

 確かに大人げなかったとすぐ桜ちゃんには謝って、その後はまた前みたく仲良くなったけれど、彼は私のこういう態度を知っているから、もしミワのことが気に入っても、絶対私の前ではそれを出さないようにするんだろうなぁと思った。

 でもそれ以前に彼は特に何も考えてなかったようだ。

 ある時、ミワが彼に対して激怒したことがあった。

 いつもは私と彼がペアでやるレジの仕事をミワと彼がやったらしい。

 テイクアウトの混雑時間にはレジの隣に品物を渡すためのサポート人員が入る。レジはスピードが求められるし、それをうまくサポートしなければならないので、息が合わないと難しい。

 彼に仕事を教えたのは私だし、緊張しやすい彼も私がいると安心するとよく言っていて、二人でその仕事をする時はいつもスムーズで何も問題はなかった。

 彼はそれに慣れていたんだろう。

 ミワのサポートに対して、ぼそっと一言、

「遅いな……」

と言ったらしい。

 聞き間違いじゃないのかとミワに確認したけれど、絶対に言ったと激怒している。

 正直ミワの方が彼より仕事ができる。でもブランクがあったので、忘れていることも多く、前ほど動けなかったらしい。それを彼に「遅い」と言われたので、ブチ切れていた。

 そもそもミワは気が強い。
 そして彼はデリカシーがなく無神経。

 本当に「遅い」と言ったとしても、彼のことだから何も考えずに無意識につぶやいたんだろう。なにせ失言王子だから。

 その後も彼はミワに対して先輩風を吹かす。

 ミワが自分より年下なので、自分が上になった気でいたんだろう。

 ましてや仕事もこなせるようになってきて、調子ノリ期に突入していた。

 ミワにもいちいち仕事を教えようとしていたし、しかも言い方が私の真似で「だいじょうぶー?」とか「ありがとねー」だから、ミワのイライラは日に日に大きくなっていった。

 見かねた私は彼に言った。

「あのね、ミワは新人といっても、前にここで働いていた子で、私がみっちり仕込んだ子だし、いわば君の先輩なわけ。教えなくてもできるから」

 それに一度社会人として働いて家も出ていたミワの方が、実家暮らしの大学生の彼よりは大人。

「まあ、例えて言うと、君が将来会社に勤めるとするじゃん? それで中途入社で新人が入るとするよね。でもその人は実は君よりキャリアもスキルもあって仕事もできる。なのに君は一から教える。その人は大人だからハイハイって聞いてるわけ。陰ではほかの社員がそれを見て笑ってるわけ。どう思う?」

「ぼ、ぼく、恥ずかしい!!!!! うわー、僕はずかしいなぁ!」

 彼は心底恥じ入った。

 こういうところがかわいいんだよなぁ。

 彼は本当に失言が多いけど、素直に謝るからかわいい。

 でも若い女子ってのは厳しくて、私なら「しょうがないなぁ」と許すところでも、ミワは「絶対許しませんよ!」と言っている。

 そして私が「彼女の方が君より大人だよ」と言ったからか、彼は年下のミワのことを「ミワさん」と呼ぶようになる。

 新入社員女子で仲がよかった夕夏がいなくなってミワが入り、帰りは三人で帰ることも多くなったが、特にミワと彼に何か進展があることもなく、ミワはバツイチ子持ちの社員に恋をした。
 何がかっこいいのか私にはさっぱりわからないけれど、ミワも同じく彼のかわいさをさっぱりわからないようだった。

 いい加減彼も気づけばいいのに。

 年下や同い年ぐらいの女子じゃ自分の手には負えないことを。

 彼が緊張せずに話せて居心地がよいと感じるのは私なのだということを。

 ミワに「あんな人どこがいいんですか?」と言われても、それでも彼が大好きな私がそばにいることを。

 年齢だけで私をはじくの? 一目ぼれじゃないからナシなの?

 ときめかなければ恋じゃないの? 楽で心地いい関係は愛じゃないの?

「私の愛がわからない?」

 ふざけていつも言っていた。

「あいあいあいあい、うるさいなー、お猿さんですか!」

「誰がアイアイだ!」

 こんな風に冗談にして、本気で好きだと言えなくて、そばにいられなくなるのが怖くて、逃げていたのはいつも私の方だった。

 

 

 



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